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    yudoufuneko

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    yudoufuneko

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    お互いが傍にいるだけで幸せだな~、と思っている忘羨のお話。

    幸福 夷陵老祖として恐れられていた魏無羨が、道侶となった藍忘機と雲深不知処へ来てもうすぐ一年が経とうとしていた。初めこそは雲深不知処内も騒がしさがあったが、今はかつてのように静けさを取り戻している。姑蘇藍氏の門弟が、魏無羨がこの場所にいることを内心どう感じているのかは分からないが、すれ違う時、彼らは『魏先輩』と言って必ず拱手する。礼儀正しい姑蘇藍氏らしいと思いながら彼はその様子をいつも見ていた。かつては窮屈だと思っていた場所だったが、今は何故かそこまで窮屈とは感じなかった。とは言え、あの頃とは状況が異なっている。天子笑を口にすると罰を受け、亥の刻に眠らなくても罰を受ける。しかしいくら彼が天子笑を煽り、遅くまで起きていようとも罰を受けることはなかった。藍忘機は、ほどほどに、とは言うものの彼のその行いを咎めることはしない。それが以前ほど窮屈ではない理由であろう。
    魏無羨が雲深不知処へ来て一年が経とうとしている。彼はここでの暮らしも慣れたものだと思うと同時に、かつての、生前の生活からは想像もつかないほど穏やかな暮らしにどこか感慨深くなる。そしてそんなことを思いながら、彼は窓辺に片膝を立てて座り、手に持った天子笑を喉奥へ流し込んだ。
     辺りはすでに暗く、部屋の中には夜闇を照らすいつになく明るい月の光が差し込んでいる。床には月明かりが作り出す魏無羨の影がはっきりと映しだされていた。部屋の奥をちらりと見ると、風に吹かれてゆらゆらと揺れるろうそくの明かりに照らされた藍忘機の姿が目に入る。そのなんとも言えない、言葉では言い尽くせないような美しさに魏無羨の視線は釘付けになった。しばらく藍忘機をただじっと見つめていたが、風によってろうそくの火が消えかけ、視界が暗くなったことで我に返る。そしてふっと笑みを零し、ゆっくりと口を開いた。
    「美人を見ながら飲む酒はうまいな」
    そう一言呟くと再び天子笑を勢いよく口へ運んだ。これが至福の時と言わんばかりに幸せそうな表情を浮かべる。今夜の風はひんやりとしているが、酒で火照った彼の体には涼しく、心地よいものだった。しかし時折吹き込む一段と冷たい風にほんの少しだけ体を震わせる。その一瞬を藍忘機は見逃さなかった。彼はすぐに、窓辺に腰を下ろす魏無羨に声をかける。
    「魏嬰、こちらへ」
    「ん、どうしたんだ?」
    「今晩は風が冷たい。君の体が冷えてしまう」
    静かな声色でそう告げると、魏無羨は口角を上げて立ち上がる。
    「なんだ、藍湛が暖めてくれるのか」
    魏無羨はゆったりとした足取りで、文机の前に姿勢正しく座している藍忘機の元へ向かう。そして彼の右側へ回り込むと正座する彼の足の上に体を横に向けて座った。藍忘機に動じる様子はなく、眉一つ動かさずに自身の足の上に腰かけた道侶の腰に左手を添える。
    「やはり冷えている」
    「藍湛は暖かいな」
    ご機嫌な様子で藍忘機の胸元へ体を預ける。そして未だ手にしていた天子笑を口元へ運ぶと、ぐいっと喉に流し込んだ。ふぅ、と一息吐くと、顔を上げ目の前にある藍忘機の顔をじっと見つめる。視線に気づいた藍忘機は右手に持っていた筆を机の上へ置くと視線を下ろした。
    「魏嬰?」
    「んー、ほんとに藍湛は美人だな、と」
    「君の容姿もとても整っている」
    「そうかもしれないが、俺とはまた違うだろう。お前の顔を見ながら永遠に酒が美味しく飲めそうだ」
    「ならずっと私のそばにいて。そうすれは美味しいお酒を飲める」
    表情を微動だにさせず言い放つ藍忘機に、魏無羨は笑みを零す。
    「ははっ、ずっとそばに、か。それは俺への告白みたいだな」
    「うん」
    魏無羨の言葉に間髪入れず肯定する。
    「そうか。でも困ったな。俺はもう心に決めた一人がいてそいつとこの先もずっと一緒にいるからなぁ。……お前だ、藍湛」
    柔らかな表情を浮かべ、魏無羨は右手を藍忘機の左頬へ添える。藍忘機はその手に自身の手を重ね最上の笑みを魏無羨へ向ける。そして彼の言葉に呼応するように言葉を紡ぐ。
    「私にも好いている、愛する者がいる。その者はいつも私を幸せな気持ちにしてくれる。私は彼を二度と一人にはしないし、この命尽きても共にいる。……魏嬰、君だ」
    彼の言葉に魏無羨の胸中にざわめきが広がる。『二度と一人にしない』という台詞に、死ぬ前のことを思い出し少し胸が痛むと同時に、誰かが、自分の愛する者がそばにいてくれる喜びに胸が高鳴った。彼の中にはいろいろな感情が渦巻き、何とも言えないような気持ちになる。だた一つはっきりしているのは、彼は今幸福を感じているということだけだった。
    「藍湛、ほんとにお前は……、俺を喜ばせる天才だな。いつだって俺の欲しい言葉をくれる。藍湛がいてくれるだけで俺は最高に幸せだ」
    今にも泣いてしまいそうな笑みを藍忘機へ向ける。だが、それは彼だけではなかった。藍忘機もまた同じような顔を魏無羨へ向けていた。彼は魏無羨を優しく包み込むように抱きしめ、胸の内にある想いを伝える。
    「魏嬰……。特別なことはいらない。私も君がそばにいてくれるだけでこの上なく幸せなのだ」
    「…………そうか」
    魏無羨は藍忘機の言葉を噛み締めながらただそれだけを口にした。
    彼らはただお互いがそこにいて、お互いの体温、存在を感じられる今に幸せを感じずにはいられなかった。それは二人の、決して良かったとは言えない別れ、死別していた十数年が余計に二人をそうさせていた。
     魏無羨は藍忘機の想いを耳にして少しの間口を閉ざしていたが、すぐにニッと口角をあげると嬉々として言葉を発した。
    「なら俺たちはこれからもずっと一緒にいなきゃな! そうすればずっと幸せでいられる」
    「ああ。この先も共に」
    魏無羨と藍忘機は視線を絡ませ、幸せそうに、お互いを慈しむように微笑む。そして相手が目の前にいる今、彼らはたった一つ、同じことを思った。

    できるだけ長く、二人がともにあれる時間が続けばよいと――。
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