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    及(28/リーマン)×岩(18/高校生)のお話
    ※ほんのり松(28/リーマン)×花(18/高校生)も含んでおります
    ⚠️リーマン組と高校生組がP/活する描写まみれです

    #及岩
    andRock
    #松花
    pineBlossom

    月曜日のバイト「今日のラーメンも美味かったなぁ。やっぱ、珍道中が1番かも」

    部活終わりに花巻と並んでラーメン屋を出る。
    花巻は珍道中の豚骨ラーメンはどう美味いのかを語っているもののそれが全く耳に入ってこない。
    会計の時、ラーメン代を支払って残った金額。
    たったの12円。

    おかしい。こんなのおかしい。
    だって今月はまだ始まって10日ぐらいだ。
    財布を開いて何度数えてもやはり12円しかない。
    これだと飲み物も買えない。
    だがこの10日で散財した記憶はきちんとある。

    「…おーい、岩泉返事くらいしろよなぁ?俺今めっちゃ独り言喋ってる寂しいやつになっちゃったじゃん」

    「あ、おう…悪ぃ」

    「つーかさっきから財布見て怖い顔してるけどどうした?」

    「あ、いや…なんでもねぇ」

    「なんでもねぇって顔じゃないけど…言ってみ?話せば楽になるかもよ?」

    心配してくれているのは分かる。
    だかこいつにそのまま話していいものか少し迷う。
    いや、とりあえず話してみよう。

    「…金がない」

    「え?盗まれたとか?」

    「違う…その…もう小遣い使い切った」

    「え…!?なににそんな使ったわけ?」

    そりゃ今月に入ってたった10日で使い切ったとなれば驚くのも当然だろう。
    だが散財した原因を少なからず作ったのは花巻だ。

    「お前が進めてきた漫画…読んでみたら結構面白くてハマって…まとめ買いした」

    誤魔化す理由もないため素直に話したところ、思い切り吹き出された。
    そんなに笑うな。

    「まじかよ、可愛いやつめ…!それにしてもそんなにハマってくれたのは嬉しいねぇ」

    「まあ…使い切っちまったのは自分が悪ぃし親に来月の小遣い前借りなんて出来ねぇし、友達に借りるなんてもっと出来ねぇから正直困ってる。部活あるからバイトなんてしてる暇もねぇし」

    「確かに…ねぇ。あ、でも誰にも言ってなかったけど俺実はバイトしてんだよね」

    「はぁ…!?まじかよ…うちの学校、原則バイト禁止だろ?よくバレねぇな」

    「まあ、こっそり上手にやってますから」

    ニヤァ、と悪い顔で笑う花巻。
    本当に悪知恵が働くな。

    「時給めっちゃいいし楽だぜ?早いと1時間とかで終わるから。だから部活がオフの月曜とかにさくっとバイトして小遣い稼ぎしてる」

    「…お前それ…怪しいのじゃねぇだろうな…?」

    流石にそんなに上手い話があるわけがない。
    疑いの目を向けているが花巻は平然としている。

    「大丈夫大丈夫!全然怪しくないって!なんなら岩泉もやってみる?そんなに難しいバイトじゃないし、今ちょうど一人募集してんだよね。合わないなって思ったらすぐ帰っていいから」

    「でもなぁ…」

    「岩泉…お前、漫画の続き気にならねぇの?」

    気になる。

    「それにバイト代、時給いい上に日払いだぜ?ラーメンだって毎日食えるくらいの額もらえんだぞー?」

    流石に毎日は食べないがバイト代が入れば今日金がなくて諦めた餃子も追加で頼めるだろう。
    怪しすぎるがそれ以上に花巻の誘惑にクラクラする。
    会わないならすぐに帰っていいらしいし、今回は花巻の甘言につられることにしよう。

    「…分かった。そのバイト、俺もやる」

    「おっけー!じゃあ、俺知り合いに連絡しとくわ」

    「その、バイト先の店長って知り合いなのか?」

    「ああ、まあな」

    早速話をつけてくれるらしく、花巻がスマホを取り出すと誰かから連絡が来ていたらしくはっとする。

    「お、早速噂の"店長"から連絡来てら。悪ぃけど俺これから急遽バイト行くわ」

    「急に呼び出しとかあんのか?」

    「まあ、俺はな。大丈夫、岩泉は月曜だけって伝えておくから。じゃなあ!」

    スマホを耳に当てながら、花巻はこちらへと手を振り駆けて行った。
    あいつ、器用だしバイト先では頼りにされてんだな。
    金を貰う以上俺も頑張らねぇと。


    ××


    来週の月曜、18時に駅前の時計の下で待っていること。
    服装はそのまま制服でいい、と花巻から連絡があった。
    今日がその月曜だ。
    てっきり一緒に来るのかと思っていたが花巻は別のところでバイトらしい。
    ここで待っていればそのバイトの人が迎えに来てくれるらしいが──うっかりしていた。
    仕事内容が全く分からない。
    接客とかが自分に出来るとは思えないし、どうしよう。

    「…岩泉一くん?」

    「あ、は、はい…!」

    頭を抱えていると不意に名前を呼ばれたため咄嗟に返事をする。
    目の前に立っていたのはスーツ姿の男。
    年齢は20代なのは分かるが正直人の年齢を当てるのは苦手だ。
    スーツに詳しくは無いが一目見ただけで上質なものを着ているということは分かった。

    「良かった、俺は及川徹。よろしくね、岩ちゃん」

    「岩ちゃん…?」

    及川と名乗る男、同性ながらその華やかなルックスにどこか気後れしてしまう。
    親や教師以外でこうして年上の男と話す機会はほぼ無いこともあってか緊張する。
    この人が店長なのだろうか。
    岩ちゃんと呼ばれ思わず首を傾げる。
    なんだ、急に。

    「あ、ごめん。あだ名とか嫌だった?」

    「…いえ、別に。あんまりあだ名とか付けられたことなかったからびっくりしただけっす」

    「なぁんだ、そうだったの。じゃあ岩ちゃんでいいよね?それじゃあ、行こうか。なに食べたい?」

    「え、なにって?」

    「夕飯だよ、夕飯!」

    夕飯、確かに腹はめちゃくちゃに減っているがバイトはどうなるんだ。

    「なんでもいいよ、この辺のお店だったらどこへでも連れて行ってあげる!ほら、言ってごらん?」

    「じゃあ──焼肉で」

    欲に負けた。
    聞きたいことはあとから聞こう。


    ××


    「さあ、どんどん食べて?ここは及川さんが奢るから!」

    ジャケットを脱ぎ、きちんとハンガーにかけ綺麗にアイロンのかかっているらしいワイシャツの袖を捲り、及川さんはせっせと俺のために肉を焼いてくれる。
    こんな高級な焼肉店、来たこともないし今後も来られるだろうか。
    今まで食べていた焼肉の常識が覆るレベルで美味い。

    「あの、及川…さんは食わなくていいんすか?すげぇ美味いのに」

    「あ、いいのいいの。俺は岩ちゃんが美味しそうに食べてるところ見られるだけで幸せだし」

    なんとも変わった人だ。

    「あ、それと俺に遠慮とかしなくていいから。敬語もいらないしさん付けもしなくていいよ?」

    「でも…」

    「変に遠慮すると、もう上カルビ頼んであげないよ〜?」

    それは困る。
    この舌が蕩けるような上カルビが食えないなんて。

    「わ、分かったよ!敬語やめるからそういう意地悪すんな…」

    「はーい、よく出来ました。じゃあ上カルビ、2人前また追加してあげるね♡あとタン塩とハラミと…あ、ご飯もおかわりする?」

    「…する」

    「素直で大変よろしい!ふふふ、岩ちゃん可愛い」

    焼いてもらった肉をタレにつけ、米と共に口へと運ぶ。
    これらを頬張って食べられるのはなんと幸せなのだろう。
    その膨らんだ頬をつつきながら、上機嫌な様子で及川は笑うのだった。


    「…流石にもう食えねぇ」

    「本当に岩ちゃんよく食べるね。見てるだけで俺もお腹いっぱいだし幸せな気持ちになったよ」

    食事をしながら最初はぎこちなかったが、徐々に及川とは打ち解けることが出来た。
    と、言っても俺がただ聞かれたことに答えるというのがほとんどだったが。
    だがひとつ共通の話題が出来たのは嬉しい。
    及川も元々バレーをやっていて、今も社会人チームで続けているらしい。

    「あ、連絡先交換しておこうか。ここに番号とかアドレスとか色々書いとくからあとで連絡してね?」

    ポケットに刺していたボールペーンを引き抜き、内ポケットに入れていたらしい名刺入れから名刺を1枚抜き取りその裏面へとサラサラと連絡先を記入して渡してくれた。
    この食事は言わば面接のようなものだと捉えていたがどうやら及川の反応を見る限りバイトはさせてもらえるのかもしれない。

    「おう…て、もうこんな時間かよ!?やべぇ」

    名刺を受け取る際、チラッと及川の腕時計で時間を確認したがもうだいぶ遅い時間になってしまった。
    バイトはどうなる。
    というか及川の名刺の会社名、俺でも知っているような大企業じゃねぇか。

    「ん?門限厳しいの?」

    「いや、そういうわけじゃねぇけど…」

    「あ、そうそう。これ、忘れないうちに」

    とりあえず名刺を財布へとしまっていると、及川が封筒を差し出してきた。

    「なんだこれ?」

    「何ってお小遣いだよ!今日のお礼♡」

    「はぁ!?」

    封筒を受け取り、思わず中身を確認する。
    俺にとってはあまり縁のない、1万円札が1枚入っていたのだ。
    お礼をされるようなことは今日何もしていないのに。

    「こんな大金、受け取れねぇよ!俺、今日バイトしてないし!」

    「バイト?あー…岩ちゃん、これがバイトだよ」

    封筒を突き返すと、一瞬きょとんとする及川。
    だがにっこりと笑って封筒を俺の方へと押し戻す。

    「俺と楽しくお話したりご飯食べたりするのがお仕事なの。え、もしかして嫌だった?今日、楽しくなかった?」

    「いや…楽しかったけども」

    「じゃあ受け取って?ね、お願い!」

    ─結局懇願されて、俺は金を受け取った。


    ××

    「花巻てめぇ!なんつうバイト紹介しやがる!」

    朝練に出るために登校すると、校門で花巻を見つけて掴みかかる。

    「な、なんだよ…!楽なバイトだったろ?嘘をついてねぇよ」

    「喋って飯食って金もらうなんてあんなの援交ってやつじゃねぇのか!?」

    「ばか、違ぇよ!…と、とにかくこっち来い。でけぇ声で援交とか言うなっての」

    いくら早めの時間で人が少ないとはいえ、ここでは目立つ。
    花巻に指摘されはたと我に返る。
    掴みかかっていたその手を放し、歩きながら話すことにした。

    「俺が紹介したバイトはパパ活」

    「ぱぱかつ…?なんだよそれ、援交と何が違うんだよ」

    「パパ活は岩泉が言ったように喋って飯食うだけで金もらうんだよ。体の関係はまあ…お互いが望むなら持つことになるだろうけど、基本はないよ」

    「…普通そういうのって女子がやるイメージなんだけど。相手男だったし」

    「まあ普通はそうだけど、男を求める男もいるってことだよ岩泉」

    「パパ活ってことは…お前の相手も男なわけ?」

    「まあな。あ、写真みる?俺のパパ♡」

    「見ねぇし興味ねぇよ!」

    「残念…結構イケメンなんだけどなぁ、もう大人の色気が凄くてさぁ」

    嬉々としてスマホに入っているらしい写真を見せて来ようとする花巻を制する。
    俺にパパ活を斡旋しておいて全く悪びれている様子はない。

    「まあいいじゃん、昨日金はちゃんと貰えたんだろ?それで、このバイト続けるの?」

    「こんな援交みたいなこと何回も出来ねぇよ、これきりだ」

    「えー…もったいねぇな」

    こんな危ない橋何度も渡れない。
    すると、ふとスマホが震える。
    手に取ってみると、及川からメッセージが来ていた。
    昨日の夜、お礼がてらメッセージを送り少し雑談をしたのだ。


    及川 徹
    岩ちゃん、おはよ♡
    よく眠れたかな?
    次の月曜日は何食べたい?
    また焼肉でもいいし、今度は岩ちゃんの大好きなラーメンとか揚げ出し豆腐のお店もいいよね
    来週岩ちゃんに会えるのがとっても楽しみ!

    「お、来週のデートのお誘い?良かったなぁ」

    「勝手に見んな!」

    ニヤニヤとしながら手元を覗き込んでくる花巻。
    俺はスマホを咄嗟にさっと隠した。
    こうしたメッセージアプリで別れを告げるのは相手に失礼だと思う。
    だから俺は来週の月曜、及川に会ってこれきりだと伝えるのだ。
    断じてラーメンや揚げ出し豆腐につられたわけではない。
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