手首へのキス熟睡していたのだが、ふと肩甲骨の辺りが擽ったくて目を覚ます。
「ありゃ、起こしちゃった?…おはよ、岩ちゃん♡」
「てめぇ…何してんだよ、折角気持ちよく寝てたっつうのに」
頬杖をつきながら横に寝転んでいた及川が人差し指で俺の肩甲骨をなぞっていたらしい。
「ん〜…?ほら、岩ちゃんて今も昔も寝顔だけは天使じゃない?だから、こうやって天使の羽根が生えてるんじゃないかな〜って思って探してたの」
「お前って相変わらずよく分かんねぇな」
「ひっどーい!そこはときめくとこでしょ!?」
「…人の安眠邪魔しといてよく言うぜ。お前のせいで体痛ぇし眠ぃからもうちょっと寝るわ」
「な〜にさ、自分だってお強請りしといて」
「…うるせぇな」
昨夜の事を思い出して恥ずかしくなって背を向ける。
「服着て寝なよ風邪ひくよ?」
「お前こそ服着ろよ」
「ぐっ…俺は岩ちゃんがお泊まり来た日は裸で寝るって決めてるの!」
どうせやらしい事を考えているんだろう、いつもの様にツッコミを入れてやろうとしていたが不意に背後から抱き寄せられる。
「…こうやってさ、ぎゅうってした時に素肌同士の方が気持ちいいでしょ?」
「…ちょっとこそばゆいけどな」
「否定しないって事は岩ちゃんもこうするの好きなんだね?なんか嬉しい〜」
声色だけで及川がどんな顔をしているのか容易に想像がつく。
否定はしないがそうだと素直に認めるのはやっぱり恥ずかしい。
けれども、及川の体温にそして匂いに包まれるのも存外悪くない。
「…だらしねぇ顔」
「見てないのに分かるの?」
「分かる」
「それって愛じゃん!」
「お前もう寝ろよ」
「え〜、岩ちゃんいっつもえっち終わったら即爆睡するからこうしてお話出来るの嬉しいんだもん。ピロートークしよーよ」
「少しだけ寝て起きてするのはピロートークなのか?」
「意地悪言わないの!」
誰のせいで即爆睡することになっているのやら。
「…じゃあさ、岩ちゃんからキスして?そしたら大人しく寝るから」
そう来たか。
付き合って半年、実を言うと自分からキスなんてしたことは片手で数えられるくらいしかしたことが無い。
だって照れくさいし。
適当に誤魔化そうとしても恐らく無理だ。
こいつは変なところで頑固だし。
どうやってこの場を切り抜けようかと唸って考えていると及川が楽しそうに耳元で囁く。
「こう、軽くちゅってしてくれればいいんだよ〜?大丈夫大丈夫、岩ちゃんなら出来るよ〜?」
くそ、馬鹿にしやがって。
「…分かった、やってやる。そしたら寝ろよ?」
「そう来なくっちゃ。及川さん紳士だから目、閉じてあげるね」
及川が抱きしめていた腕の力を緩めると、その腕を掴んで口元へと寄せそっとそのその手首へと口付ける。
「え…!?手首…?」
「唇なんて言ってねぇだろ?ほら、寝るぞ寝るぞ」
「一休さんみたいなことしないでよ、意地悪〜!」
自分から唇にしてやるのはきっとまだ先。
不満を言いつつも、嬉しそうにその手首を見ているらしい。
「岩ちゃんは適当に選んだんだろうけど、手首にキスしてくれたの…嬉しかったよ?」
「文句タイムは終わったみたいだな」
「まあね、俺だけの片想いっていうか俺ばっかりが好きなわけじゃないんだな〜って安心したし」
「…?まあ、お前が嬉しいなら良かったわ」
顔が熱い。
さっさと寝てしまおう。
恥ずかしくていたたまれない。
背中を丸めて寝ようとするとぐいっと引っ張られ、天井を背景にた及川に組み敷かれる。
「…手首へのキスは"欲望"、心理としては相手への激しい好意の表現なんだよ〜?知ってた〜?」
「え…いや、知らない…本当に知らない!」
「顔真っ赤、可愛い…今も昔も寝顔だけは天使って言ったけど、訂正するね」
逃げようにもがっちりとホールドされていて逃げられない。
「岩ちゃんは俺といる時はいつだって天使だよ。こんな可愛い顔、誰にも見せないでよね?」
「待て、話せば分かる。明日も朝練あるしほら朝早いし」
「大丈夫、ちゃんと起こすから♡」
次なる反論の言葉は及川からの熱烈なキスによって言うことは叶わなかった。