人の習慣Mystaは観察力が非常に優れている。
ほんの少し席を共にしただけで癖を見抜き、いつもと違う所を少しでも見せればどうしたのかと尋ねてくる。
だから。
「Voxってさ、偶に瞬きしてない時あるけど目ぇ乾かないの?」
この聡い子に人間のフリがバレてしまうのは時間の問題だったのだ。
姿形が如何に人間そっくりでも、所詮Vox・Akumaは鬼だった。
長く生きていく上でどれだけ人間に近づいても、それは見掛け倒しのハリボテで、うっかり気を抜けば露見してしまう歪な部分。
食事睡眠排泄に始まり、人間の行動は殆ど完璧に模倣していた。
しかし瞬きだけはどうしても完璧に出来なかった。
本来必要では無い動きなだけに無意識に出来るほど癖づけることがそもそも難しく、何よりよくよく観察されなければボロを如何様にもリカバリーできた。
「俺は鬼だからな」
「ふーん。あっ、じゃあドライアイにならないってことだろ? それはちょっと羨ましいかも」
瞬きの瞬間に決定的瞬間が被る悲劇も起きないってことだろ、すげーすげー。
頓珍漢な方向にズレた議題に、うっかり笑ってしまった。
今までにも、瞬きを長時間していないことに気づいて問い掛けてきた子たちはいた。
そのいずれもが歪な化け物に向けつ恐怖や好奇心を持ち合わせていた。
けれどMystaは変に怖がらず、忌避せずなんでもないことのように尋ねてきて、いつもと変わらず笑顔を向けて見せた。
なあMysta.
お前のその純粋さが、俺には少し眩しい気がするんだ。