事後ラーメン屋に駆け込むルミ「腹減った」
びしょ濡れの髪をバスタオルでわしゃわしゃ乱雑に拭うMystaの訴えに、Lucaは盛大な腹の虫の鳴き声で返事をした。
セックスダイエット、だなんて言葉が存在する程度にはカロリー消費の激しい行為を今し方終わらせた大食漢共はとりあえずキッチンを漁ったが収穫できたのは気休め程度の菓子パンとスナックで、ガッツリとした食事を求めている胃袋の足しにはならないと早々に判断した。
「まだやってるお店近くに無いかな」
「午前三時だぞ?」
「まだ二時台だよ」
GoogleMapを立ち上げて、片っ端から飲食店のアイコンをタップして営業中の店舗を探す。
赤文字が続く中、ようやく表示された緑文字にLucaの手が止まった。
「二郎系ラーメン」
「最高。どこ」
「ちょっと遠いけどいつもの……」
「走れば余裕じゃん」
「イケる?」
「舐めんな。こっちくる前はこの足腰で稼いでたんだぞ」
ペちりと愛らしいお尻を叩いて見せた恋人に「頼もしいね!」と歓喜の口付けをプレゼントし、二人で素早くジャージとTシャツに着替えて財布とケータイ、それから家の鍵だけを持ってクロックスに足を突っ込む。
「ヤベェ!まったく力入んない!」「クロックスの走り心地最悪だわ!」などと二人して寝静まった街を叩き起こす勢いでゲラゲラ笑いながら駆け抜けて、目的地を目指す。
何度か深夜に駆け込んだこともあるが、流石に閉店間際に滑り込むのは初めての店だ。
赤い薄汚れた暖簾を潜り、息を上げながら店主にまだ大丈夫かと問いかける。
「ごめんおっちゃん!今から特盛いける!?」
「丁度二人前で終わりだ!とっとと食券買いな坊主!」
「ありがとー!」
うっきうきで券売機の前に立って、迷いなく特盛を二枚とトッピングを購入していく。
わざわざ厨房から出てきて食券の回収にきた店主にそれぞれ好みを伝えて、セルフで水を用意して一息で煽る。
「サービスだ。これ食って待っとけ」
そう言って差し出されたのは、どでかい皿にフライパンに敷き詰めたのをそのままひっくり返した餃子だった。
今日の余分で、いつもならアルバイトの子に持って帰らせたり店主が晩酌のつまみにするのだが、今日のアルバイトが全員都合が悪かったり、店主も気分でなかったりなどで廃棄になる寸前だったのだ。
ドバッと口の中に涎が溢れ出した二人は箸入れから二膳分取ると「いただきます」を叫びながら勢い余ってちょっとだけ不恰好に割り箸を割って火傷も気にせず齧り付く。
パリパリの皮と、溢れ出てくる肉汁。しっかりと効いたニンニクとにらの香りが何も付けずとも美味い。
定番に餃子のタレで食べても良いが、酢胡椒や辣油、一味も捨て難い。
小皿を目一杯使って様々な変わり種を用意しつつ、ひょいぱくひょいぱくと続々餃子が消えていく。見ていて気持ちのいい食べっぷりだが、この後特盛にトッピングを盛りまくったメインが来ると考えると少々不安になる量だ。
大皿いっぱいの餃子が消えて、一息ついた所でタイミングを見計らったかのように「お待ちどうさん」とどんぶりを差し出された。
ヘアゴムでチャっと前髪を縛り上げて、お互い無言で麺を啜り始める。
先程の餃子などおやつにもならない、軽い前菜でしたがと言わんばかりの吸引力でどんどん量が減っていくラーメンを見て、店主は金髪の体格の良いニィちゃんはともかくヒョロッこくて薄っぺらい茶髪のニィちゃんは一体どこに収納されているのか不思議でたまらない心持ちにさせる。
質量保存が適応されていないのだろうか。
こうも気前良く食べてもらえると、作る側としても嬉しいものだ。
「味玉余ってるんだが、食うか」と話しかければ目を輝かせて「食べる!」と食い気味に返事をされて喜ばないわけがなかった。
特別に半分ではなく丸ごとを一人一つサービスすれば、それはもう大喜びされて閉店作業中に駆け込まれた諸々なんて全てどうでも良くなる。
「オッチャン、白米2つ!」
「へいよ」
奇跡的に残っていた米と、冷凍しておいた分を混ぜて量を出す。
良いんだよ、どうせ残り汁を美味しく飲み干すための名脇役。このニィちゃんたちには質より量だ。
躊躇いなく中身を投下され、早々にお役御免となった茶碗を受け取って流しに置いてくる僅かの間にカウンター席の二人は顔よりデカい丼鉢を片手で易々支えながらレンゲで中身を流し込んでいた。
ぷはっ、とようやく丼鉢が下され、満足しましたと顔に書かれた二人がにこやかに去っていくのを見送った店主は、誇らしい気持ちで暖簾を下ろした。
「帰る途中にコンビニあったよね?」
「デザート食いたいよな」
レジ袋二つ分の甘味をニッコニコで持つLucaと、早速ソフトクリームを食むMystaはのんびりと帰路についていた。