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    sazare_0610

    @sazare_op

    ゲ言迷R18SS置き場

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    sazare_0610

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    ぴぃさん(@pietorilove)さんの妄想を題材に書かせていただいた、ゲ言迷終盤の時ちゃんとの再会シーンに水がいたらという内容のSSです。
    ⚠自己解釈多め。元ツイ一部改変。🐭推し末期が書いた。
    CP要素はありません。

     恐らく次が最後の〝片付け〟になるだろう。長いこと情報を届けてくれていたねずみ男がそう知らせてきてくれた時、俺は暫く役立てていなかった重い腰を上げ大きく体を伸ばした。
     もう親子ふたりきりでやっていけるだろう、と彼らの元から去って何十年経つか。俺はあの哭倉村での一件から衰えることも、病に臥せることも無く遂にこの日が来るまで生き延びてしまった。望まずひとの理を外してしまったことはそれまでに己がしてきた行いへの罰だと思い受け入れてはいるが、恐らく彼らがその事実を知れば少なからず気を遣わせてしまうに違いない。とはいえあの村で生まれた狂骨に関してだけは俺もその原因の一端を背負っていることに間違いは無く、情報屋にだけ顔を見せながらここまで見守ってきたのだ。
     彼らの声を追って、同行してきたねずみ男と共に村の入り口のトンネルへ踏み入る。昔から暗いジメジメとした汚いトンネルだったが、廃村となって何年も経つ今は彫られた名前も殆ど読めないほどに苔むして、周囲の草に覆われていた。内部も所々が崩れ数歩おきに小石の滑る音がどこかしらから聞こえてくる。
     「相変わらず、辛気くせぇ所だぜ」
     トンネルの向こう側から流れてくる陰の気に、一歩下がって歩くねずみ男が吐き捨てた。
     「廃村なんてどこも同じさ。今日はどうして着いてくる気になったんだ?」
     幾度かこの村を訪れる際にねずみ男を誘ったこともあったが、面倒事はまっぴらごめんだと言っていつも情報料をもらってすぐ去って行くねずみ男がここまで一緒に来るとは珍しい。何か企みでもあるのかと揶揄って問いかけたつもりだったが、其奴は少し口ごもって歯切れの悪い返事を返してきた。
     「いやー、たまには兄さんと旅すんのも悪くないと思って?」
     「なんだ、俺はてっきりまた悪巧みでもしてるもんだと思った。別にいいんだぜ?余程のことじゃなきゃ止めやしない」
     ねずみ男はただへへ、と笑って受け流すだけだ。様子のおかしさから何を言いたいのかは大体予想もつくが、自分から言い出すまではそのままにしておこう。
     腐って原型をとどめていられなくなった民家を横切って、下駄の音をたよりに窖の跡地へと向かう。男の叫び声と一緒に聞こえてきた狂骨の声に、俺は気がつくと様子をうかがえる岩陰へと走っていた。実際聞こえてきたのは他となにも変わらない狂骨の鳴き声だったと思うが、その幾重にも重なったような音の中に、薄ら聞き覚えのあるような声が混じっている。今までその狂骨の生前の面影など感じたこともなかったというのに、男に襲いかかる目の前のあの狂骨だけは、誰だったものなのか、一瞬で理解してしまった。
     「時弥君…!」
     時貞翁は、彼にマブイ移しの外法を使ったと話していた。もう地獄に落とされて助けてもやれないとばかり思っていたが、狂骨としてこの世に遺っていたならば、まだどうにか助けてやる方法もあるかもしれない。どうする、ねずみ男に頼んであれが時弥君だということを、鬼太郎に伝えてもらうか。
     口を開こうとした時、ちょうど鬼太郎が男と狂骨の間に滑り込んだ。ちゃんちゃんこを投げつけ、髪の毛針を放とうとする。咄嗟に岩陰から身を乗り出して叫んでしまいそうになったが、その前にゲゲ郎が鬼太郎を制止した。どうやら狂骨の正体に気づいてくれたようで、『時ちゃん』と声をかけると狂骨も動きをピタリと止める。
     正気を取り戻した時弥君は、ゲゲ郎と鬼太郎を相手に落ち着いて会話を始めた。怨念の塊と化してしまった彼を助けてそらへ導いてやるには、きっと望みを叶え無念を晴らしてやるより他ない。鬼太郎もそれを理解し時弥君の話に耳を傾けてやれば、彼の発した望みは恨みや悔やみなど感じられず、ただただ悲しさを纏った『僕をわすれないで』という望みだけだった。本当にこの子は、賢く純粋で穢れの無い、優しい子だ。屈託のない笑顔で共に思い描いた未来を、息災のまま見せてやりたかった。
     『忘れない』と鬼太郎の返答に穏やかな表情を浮かべた時弥君の魂が、狂骨のガワを捨ててそらへ昇っていく。その先に見えた人影に、俺は息を飲んだ。長い髪をさらさらと靡かせて優しく時弥君を迎えるその姿は、紛れもなく沙代さんの影だ。
     頭の中が罪悪感に支配されていく。一度失った記憶は時間をかけて全て取り戻したと思っていたが、何処か他人事で、その瞬間の感情までは思い出しきれていなかったようだ。その姿をみて初めて全てが呼び起こされ、感じなくなって久しい頭痛が脳を焼く。
     「沙代さん、本当にすまない。申し訳ないっ…」
     尖った砂利だらけの地面に膝をつき、止めようとしても自然と大粒の涙がぼろぼろ零れ落ちた。今更伝わらないと分かっていながら小さく謝罪の言葉を吐いて見上げると、時弥君を腕に抱き留めた影と目が合った気がした。視線が逸らせなくなり、影は徐々に実体を浮かび上がらせていく。やがて生きていたままの沙代さんの姿になると、まるで俺の全てを許してくれるような柔らかな微笑みを浮かべて、二人手を繋いで天に消えていった。
     「兄さん」
     一向に立ち上がらない俺を心配したねずみ男が、屈んで肩に手を乗せ様子をうかがってくる。鬼太郎達に存在を悟られないうちに此処を立ち去らなければ。
     「悪いな、気を遣わせた。俺は帰るが、どうする?」
     「えっ、いいんですかい?もう此処に来るのも最後ですし、もういい加減アイツらに顔を見せてやったって罰は当たらねェでしょうよ」
     驚いて目を丸くするねずみ男の話を聞きながら立ち上がり、膝の土と砂利を払って目元の涙を袖で拭う。
     「沙代さんが折角俺みたいなのに慈悲をくれたんだ。これで彼奴らに会って余計な心配なんかさせたら、それこそ申し訳立たなくなるだろ。見たか、鬼太郎が飛び出してきた時のあのいかした素早い身のこなし。ゲゲ郎も相変わらず元気そうじゃないか。それがこの目で確認できただけで満足なんだよ、俺は。これからも俺の事は〝おふれこ〟で頼むよ、先生」
     「そうは言ってもよ…もう俺が売りつけにいく情報もなくなっちまう。そしたらこれから兄さんは一人っきりで生きていくんで?どうせ口実がなきゃあ彼奴らの姿見に行くことすらしない人だ、アンタは」
     珍しくもごもごとハッキリしない口調で拗ねたように愚痴るねずみ男の肩を、俺は勢いよく抱き寄せてやった。悪さが過ぎることもあるが、この妖怪は懐いている者に対しては非常に人間らしいところを見せる。弟のように喜怒哀楽を晒す姿に悪い気はしない。
     「あんたはいつでも俺の塒にくればいい。同じ半妖だろ」
     俺はねずみ男から鬼太郎とゲゲ郎の話を聞ける。俺の所にいるうちはねずみ男も悪さをすることがなくなる。何も損することはない。
     見る間に満面の笑みを浮かべ現金な反応をみせてくれたねずみ男を脇目に、俺はもう一度、昔話に花を咲かせる彼奴らのほうを見る。鬼太郎は見る度しっかりした大人に成長して、ゲゲ郎はそれに比例してか少し丸くなった。可愛らしい連れ合いもいて、どうやらここに来ていない仲間も沢山いるらしい。俺がいなくても、彼奴らにはちゃんと幸せな明日がやってくるはずだ。
     「じゃあな、鬼太郎、ゲゲ郎」
     『どっかで酒でも吞んで帰りましょうよ』とたかるねずみ男を連れ、何十年通った地を起つ。ポケットから出した潰れた煙草の箱から最後の一本を抜いて、散々ふかされ短くなった吸い口をトンネルの出口に捨てた。
     「何か良い仕事でも始めるか」
     これまでの生より、これからの生のほうが長くなるかもしれない。いつか偶然、心だけじゃ無く体も成長した鬼太郎や元の姿に戻れるまで回復したゲゲ郎に会うことが出来たなら、そのときはしれっと声をかけてやろう。その頃には、きっともう何もかも、時効になっているだろうから。
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