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    ラーヒュン ワンライ 「変装」 2024.04.10.

    #ラーヒュン
    rahun

    「オレがやる」
     ヒュンケルの発言に、ダイとレオナは渋い顔をするばかりだった。
     当初、二人の婚約がこのような難件を招くとは考えもしなかった。しかしパプニカの一部の者達にとっては、突然にあらわれた人間では無い者が王配の地位を占めるなど、許しがたい事態だったらしい。
     女王と勇者の婚姻を推進する大臣達は、軒並み暗殺予告をされているのが現状だった
     実際に襲われてもいる。国を挙げて騎士団の警護を着けていたにも関わらず、その護りが蹴散らされて、馬車に乗っていた大臣が一名、重症を負った。
     相手はかなりの腕前と知れた。以来、ダイとラーハルトも動員して大臣達を守っていた。
    「確かに、ダイ様までが警護に当たっているのはちぐはぐだ。早く状況を打開せねばならん。……が、ヒュンケル。おまえは襲われても、もう戦えまい」
     ラーハルトは忌憚なく反対した。
     議題は、誰が囮になるかであったからだ。
     敵は予想外に手強い集団で、ダイやラーハルトが目を光らせていると決して襲撃をして来なかった。何とかして炙り出したいのに、少しでも異変があれば察知して雲隠れし、尻尾を掴ませない。
     このまま幾日もこんな厳戒態勢を取らされたままでは堪らない。ならば、戦える者が大臣に化けようという訳である。
    「オレが適任だ。多少の怪我は耐える」
     ヒュンケルは譲らない。
    「おれがやるよっ。おれのほうが丈夫だし!」
     ダイが心配そうに椅子から尻を上げたが、だがヒュンケルは首を横に振った。
    「おまえは素直すぎる。変装に向いていない。奴等は非常によく訓練されている。誰になりすますにしても、本人との仕種の不一致は感付かれるぞ」
    「うー……」
     弟弟子は大人しく座り直した。背は伸びてもまだまだ子供だ。
    「私がやります」
     と不意に申し出たのがラーハルトだったから、皆、言葉に詰まった。
     人間の大臣になりすますなど。
    「ラーハルト、戦力的には適任だけど……それ、出来る?」
     ダイが言いにくそうに隣にチラと目をやると、ラーハルトはしかと頷いた。
    「暗殺予告を受けた重役の中に、現役軍人の体格の良い男がいました。アレとならば入れ替われましょう。私は間諜の訓練も受けておりますので一日観察すれば所作は真似られます」
    「そうじゃなくてさ……顔とかどうするの?」
    「……貴方様からの命であれば、どのようなことでも割り切って出来ますから」



     会議の翌日を対象となる男の観察に費やし、その翌日。
     ラーハルトはドレスアップルームに居た。
     メイク担当の女官達の他に、仕掛け人となるレオナ、ダイ、そしてヒュンケルも居た。
    「今更だけれども、モシャスじゃ駄目なのかしら」
     白く塗られてゆくラーハルトの頬を眺めながらレオナが漏らした疑問に、ダイが答えた。
    「あれは、かけてもらったことあるけど、他人の体でそのまま戦うのは弱くて怖いよ」
    「そりゃ、あなたに比べれば誰だって肉体的に弱いものね」
    「ラーハルトだってそうだと思うよ」
     そんな会話を背後に聞きながら、ヒュンケルはラーハルトの顔が変わっていくのを見詰めていた。
     閉じた紫色の瞼の上にも女官の指が走り、白い粉が付けられていく。ラーハルトが人間になっていく。
     メイクを進めながら女官は、この度の変装に付いての注意点を述べる。
    「お顔はかなり厚塗りをしておりますので、近付かれればすぐに分かってしまうでしょう」
    「ええ。だから遠征への出立って事にしてるのよ。騎馬なら近付けないし、鎧兜なら耳とか顔の大半は隠しておけるしね」
     レオナは、これで万全、と得意気にしていたが。
     ダイはふと気付いた。
    「おれたちっていつも遠征の時はバルコニーから見送りしてるじゃん。……おれの隣にラーハルトが居ないって変じゃない?」
    「あ」
     少しでも異変があれば敵は襲ってこない。



     金属製のグローブと、深いネックガードをきっちり着込み、兜を目深に被れば目も影になる。あと見える肌はほとんど頬だけ。
     でも間近に見ると、いつもの凜々しい唇の形が、だけど白の上に塗られた桃色をしていた。
     そんなラーハルトの姿を、ヒュンケルはしげしげと覗き込んだ。
    「おまえ、人間寄りの容姿で生まれていたらこんなだったのかもな」
     人間色をしたラーハルトは舌打ちした。
    「嫌味か」
    「いいや? どちらにせよ良い男ぶりだぞ」
     と頷くヒュンケルは、肌をラーハルト色に塗られて、鎧の魔槍を身に纏っていた。
     急遽のラーハルト代役である。
    「おまえこそ、もう戦士でもないくせによく似合ってるではないか」
    「嫌味か。……しかしまさかこいつが、今でもオレの鎧化に応えてくれるとはな」
    「そいつは義理堅いから、おまえには一生応じてくれるさ」
     ふふ、と笑い合う男二人に、レオナが割って入った。
    「お取り込みのところ申し訳ないけど……。ヒュンケルは間諜の訓練も受けてないのにラーハルト役の演技とか、できるわけ?」
     ヒュンケルとラーハルトは同時に、
    「もちろん」
     と請け合った。息ピッタリだ。
    「どれだけ共に居るとお思いか」
    「オレとラーハルトは日々、互いをよく見ている」
    「朝起きたら、口にせずとも相手の不調に気付くし」
    「良い事のあった日は、帰ってきたらすぐ分かる」
     レオナは額を押さえた。
    「一人で話してちょうだい……」
     本日の楽屋とも言えるこの更衣所で、はしゃぐ男たちは楽しそうだった。
    「なんだか、二人のコスプレ遊びに付き合わされてる気分だわ」
    「なにをおっしゃる。これから暗殺犯逮捕の為に働く我らに」
    「ご安心を。完璧なラーハルトを演じてみせますよ」
    「はやくダイくん戻って来ないかな……」
     噂をした途端、ダイが駆け込んできた。
    「準備できたって! 行こうかラ……ヒュンケル!」
     ヒュンケルは金髪のカツラをさらりと自慢げに撫で上げた。
    「見たかラーハルト。ダイがオレを呼び間違えかけたぞ? まさに完璧なおまえの佇まいではないか?」
    「ふん。まあバルコニーでは後ろの日陰に小さく控えてるだけだしな。少々貧相でもバレんだろう」
    「言ったな」
    「事実だろう」
     指を突きつけ合う男たちに、再度、レオナが割って入った。
    「お二人さーん? じゃれてないで仕事して」
    「あははっ。じゃあ行こっか“ラーハルト”!」
    「はっ」
     紫色の顔に黒い線を引かれているヒュンケルが、ラーハルトよろしくダイに頭を下げた。
     そして退室してゆく、その前に、ひょいと振り返って相棒に声を掛けた。
    「今日はこのまま帰ってラーハルトごっこしてやる」
    「面白い。思う存分ダメ出ししてやろう」
     ついにレオナがキレた。
    「早く行けーっ!」











    2024.04.10. 23:10~01:15


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