「お疲れ様でしたー!!」
それを合図に皆各々帰路についていく。何の変哲もない、よく見る光景であり、いつのも光景だった。
いつもと同じ、ライブ後の打ち上げ。ただ、いつもと違うところが2つだけあった。
一つはこれが最後の打ち上げになること。
もう一つは、もうこのメンバーで集まることはないことだ。
本日のライブを最後に、俺たちのバンドは解散したのだ。
理由は色々。よく耳にする『方向性の違い』や『将来のことを考えて』とか、そんな理由によるもの。
これからは各々が別の道に向かって進んでいく。自分だけが、その場から動けずに立ち尽くしていた。
皆と同じように帰路に着くために自分に背中を向けた彼が目に入った。ライブの時のみにスタッフとして手を借りている、便利屋を営む器用な彼。その背中が自分から遠ざかっていくと思った時、彼の服に手が伸びていた。
「ん?どうかしたか?」
咄嗟の自分の行動に言葉を詰まらせる。
でも、その手を離すことはできなかった。
「…金は払う。仕事として依頼するから、この後の時間を俺にくれ。家で飲み直すのに付き合って欲しい。」
今の時間帯のことを考えると流石に非常識な依頼だったと思う。
でも彼はこちらに向き直り、印象的なギザ歯をみせ、それが弧を描いた。
「いいぜヴィオ。家まで案内してくれよ。」
「…すまないな、ルーカス。」
こっちだ、と自宅の方角へ一歩足をすすめる。その後ろを、彼がついてくる。
途中でコンビニにでも行って酒を買い足そう。
そう思いつつ俺はルーカスと共に同じ道を二人で歩いていくーーーー