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    神代賢悟の親の出会いの話です

    マジで途中

    神代賢悟の親の話下女のハルが血相を変えて主人である嚴水(げんすい)の部屋に向かって走っている最中、当時まだ19であった天幸(たかゆき)は庭師の親方に連れられて神代邸を訪れ大袈裟に飾り付けられた鉄門を潜ろうとしていた。
     親方が神代邸の門の呼び鈴を鳴らすと落ち着いた女の声がインターホンから返事をする。親方はその女と2、3会話をした後、勝手に開いた門の中に歩みを進めると天幸を急かして呼んだ。

    下女のハルが桃色の髪をはためかせながら中年女性らしく息を切らして嚴水の部屋を訪れた時、もうすでに嚴水の部屋には身なりの綺麗な若い女が憤怒の表情を隠そうともせず乗り込んでいた。
    「お父様、お話が違うではありませんか!私がもし、大学院在籍中に出版社と契約を結べたのなら、文学の道へ進むのを認めてくださると…!そう仰ったでしょう!」
     嚴水は太々しく書斎の椅子に深く腰掛けながら、声を荒げる女を呆れた目で見やると、わざとらしくため息を吐いた。
    「勿論、私はそう言った。“契約が結べたら”と。」
     身なりの綺麗な女はそれを聞くとわなわなと体を震わせついには怒りを抑えられなくなり、華やかな紅色のカーペットに書類を叩きつけた。
    「契約は結べていました!お父様が卑劣な手でその契約を破綻に追い込むまでは…!!」
     嚴水はその女の言葉をまるで右から左へと聞き流すかの様に一つの動揺も見せずにお気に入りのパイプに火をつけ大袈裟に蒸した。
    「…冥(めい)よ。お前はどこの家の娘だと思っている?財閥の中ですら歩けば皆が道を開けるほどの権力あるこの神代家の長女だろう。それを……ハッ…空想を書き連ね現実の話などしないうそぶき文字書きなどと…。お前の下らないお遊びでこの神代家の威厳に傷がつくだろうことを何故そこまで全く考えられずにいられる?恥を知らないのかお前は。」
     冥が嚴水の言葉に震える拳の行き先を決めかねていると下女のハルは冥の手にすがる様に抱きついて彼女をなだめた。
    「お嬢様…!ど、どうか冷静に…!冷静になってください…!」
    「こちらはとうに堪忍袋の緒など切れています!またしてもこんな事をされて…!落ち着いてなど…!もう一刻たりとも出来ません!!」
     冥は下女のハルを一瞥いちべつすらすることなくただ1人嚴水の顔を真っ直ぐに睨みつけて今にも殴り掛からんとする勢いで美しいワンピース姿に似合わない仁王立ちをしていた。
    「お父様…!本当に見損ないました…!こんな卑劣な手で実の娘のたった一つの夢と意思を踏み躙り騙すなんて…!世の文字書きとお父様、一体どちらが本当に嘯いて生きているのでしょうか!お分かりになりますか!?」
    冥が畳み掛ける様に次の言葉を紡ごうと息を吸ったその時、凛とした背の高い淑女がその部屋の開け放たれた扉の前で「静かになさい」と強く言い放った。
    「冥、下がりなさい。お父様はこの家のこと、あなたの事を強く想っての行動をなさったまでです。それに、お父様は嘘など一言も申しておりません。」
     淑女はゆっくりと冥の隣まで歩むと足を綺麗に揃え冥に向き「仮にも文学の道を志すのだと豪語する貴女がこの間違いに気付けないはずは無いでしょう?」と冷ややかに尋ねた。
    「お母様、それは違います。お父様はもともと私の夢を認める気など微塵も無かった上で私との約束をしたのですから、これを嘯いたと表して何がおかしいのでしょうか。」
     冥が母親にすらも食ってかかろうとすると、嚴水はコツコツと机を指で叩いて少し苛立ちを見せた。
    「はぁ、やめろ。あまりの馬鹿馬鹿しさに頭が痛い…。お前と言葉遊びをしているほど私は暇では無い。故に、お前がわかる様にもう一度言ってやろう。………どこでも良い。出版社との契約をお前1人の力で結べたのならば、お前の下らない夢に関してある程度は目を瞑ってやろう。……わかるな?」
     冥はその言葉を聞くと、嚴水と数秒間の間睨みあった後「これが血の通った人のなさることとは到底思えません!」と床を踏みつけながらその部屋を早足で出ていった。下女のハルは主人と夫人にお辞儀をして慌てて冥の後を追った。
    「全く…気の強い女はこの家にお前だけで良いぞ金恵(かなえ)。冥の気性の荒さには長年参っている……これだから女に無駄な知恵を与えるのは好かん。精神が不安定になりやすい。」
     金恵はゆっくりと書斎の扉を閉めると短くため息を吐いて俯いた。
    「あの子はこちらが縛るほど反発しますと言ったでしょう。自分の自由に出来ている錯覚を常に与えておくべきです。……あなたがもし、本当にあの子にこの家を継がせたいのならば……の話ですが。」
     金恵は含みがある様にゆっくりと嚴水に目をやる。
    「……私も叶うのならばあの姉の方に後を継がせたくはない。だが、妹の火乃華(ほのか)はあまりに体が弱い。だめだ。あの子では跡継ぎは産めん。」
     
    ――――――――――――

     
     天幸(たかゆき)は神代邸宅の広大な庭を見回した。日本庭園の様な一角から、洋式の庭園が広がる。池、鯉、小さなベンチや噴水までもがあるそこはまるでどこかの植物園だと言われる方がまだ納得できた。これがたったひと家族が暮らすただの庭で私有地とは、この世には自分の知らない世界があるのだと感慨にすら耽りそうだった。
     若く美しいおかっぱ頭の赤髪の下女が庭の見えるあたり一面を手のひらでざっと示して「あの端からあそこまで…お話しした通りに庭を作り直して頂きたいのです。」と親方に説明する。
    「いやぁ、聞いていたより木が多く広いですなぁ…。うちの若い衆を呼び集めて大急ぎで作業しても三月以上かかりますよ、これは…。」
     親方は困った様に頭を掻きながら広い庭を見回す。
    「今回の契約は長期でと主人の嚴水様は申されていますので、たとえ半年かかろうと問題ありません。この庭の手入れもしながらにはなってしまいますが、どうかよろしくお願いします。庭園以外の他の場所も今から一通りご案内いたしますので、どうぞ。」

     赤髪の下女は親方と天幸を連れてゆっくりと歩きながら神代邸を案内した。
    天幸が歩きながら庭から神代邸宅を見上げると、二階の一室の窓辺に美しい少女が座り、こちらを見ているのが見えた。天幸と目が合うと、その少女は微笑むこともなく、ただ天幸に手を振った。天幸も同じく無表情にただ小さく手を振りかえすと、少女は窓から外を眺めるのをやめ、部屋の奥へと消えていった。

     そのまま赤髪の下女と親方と天幸は庭の奥へ奥へと歩いて行く。まさか庭の先に茶室まであったことに2人は顔を見合わせて驚きながら横目に通り過ぎる。細い道の木々の合間を抜け、突然視界が開けるとポツンと先ほど見た大きな邸宅ではない二階建ての美しい建物がそこに現れた。
     天幸が足を止めてその建物を見上げると、赤髪の下女もそれに気づき歩みを止める。
     「…一応ご案内しましたが、できるだけここには近づかない様にしてほしいとことづかっております。」
     親方がキョロキョロと建物を珍しそうに眺めまわすと、赤髪の下女が少し咳払いをするので親方はその身を直ぐ正した。
    「いやぁ、ここは他より少し新しい建物の様ですが、一体どう言う場所ですかな?」
    「ここは、嚴水様の子供のお一人が所有しておられる書斎です。」
     「書斎…!?いや、この大きさでは、まるで……」
     親方がそう言いかけると天幸がその建物に歩み寄り「図書館のようだ…」と、ズラリとならぶ本棚にぎっしりと詰められた本を窓から眺めてつぶやいた。
     赤髪の下女は「小さな頃からとても本の好きな方で、奥様が嚴水様に建築を頼んで建てられたものです」と澄ました顔で告げた。

     天幸は窓から中を覗くのをやめ、 歩き出した赤髪の下女と親方の後を追ってその場を去った。

     

    ――――――――――――――――――

    「お嬢様、そのお怒りはよーく分かりますが、暴力はいけません。昔から言うでしょう、文豪はペンと紙で戦えと…!」
     下女のハルはペンを握り高く空へとその拳を突き上げながら冥に力強く訴えた。
     冥とハルは花と木々で覆われた庭の小さなテーブルで密やかに対父対策の会議を行なっていた。
    「はぁ……。父の目の届かない出版社に私の作品を持ち込むのが一体どれだけ大変だったか…。また振り出しになるなんて…。今回、敵は私の在籍ギリギリを狙って潰しにきました…。それに…出版社側にはまだ隠しておくよう話をつけたはず…。つまりこの邸宅内に敵の息のかかった密告者が………」
     「それならぴったりの怪しい奴がいるでしょ!あいつに決まってる!あの性悪女!」
     冥が熱く語り始めようとしたその時、木々を掻き分けて赤髪の美しい下女が苛立った様子で声を荒げながらその場に現れた。
    赤髪の下女はそのまま服についた葉を払い除けながら、ドカッと椅子に座るとテーブルのホットティーを一気に飲み干し、音を立ててカップを置いた。下女のハルは大きなため息を吐いて腕を組み呆れた声で赤髪の下女を叱った。
    「ナツちゃん、だめよ。また口が悪くなってる。」
     ナツはその綺麗な赤髪を耳にかけるとイライラした様子で爪を噛んだ。
    「ナツ、新しい庭師の方はこの庭の変更にどれくらいかかると言ってた?」
     冥が落ち着いた様子でナツにそう尋ねると、ナツは一つため息を吐いた後前のめりになりながら一番早くて三ヶ月後であることを告げた。
    「わかったわ…もし間に合わなくても仕方がない。」
     冥が決心した様にそう告げると、ナツは心配そうに冥の手を優しく握った。ハルも不安そうに冥を見つめる。
    「冥、大丈夫。私が力になるから…それに、ハルさんもね。」
    「ええ、私は冥お嬢様を10以上年前からお世話してるんです。もう我が子みたいなものですから、私もできるだけ力になりたいです。」
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