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    kurono_666_aka

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    POIPOI 23

    kurono_666_aka

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    逆転if忘羨の続き。絆され中の魏嬰と懐柔する為ならすけべも我慢できる藍湛です
    藍家の第二公子だけど訳あって江家育ちの藍忘機と
    江おじさんではなく藍先生に引き取られた魏無羨な設定です
    ※なんでも許せる方向け※
    前の話
    https://poipiku.com/5523475/7570349.html
    次の話
    https://poipiku.com/5523475/10050132.html

    螺旋 ② 改めて耳をすませてみれば、藍忘機に関する噂はそこかしこで囁かれていた。
     抹消された第二公子の存在は藍家の門弟の間では公然の秘密であり、知らなかったのは部外者の自分だけだったらしい。厳しい箝口令は敷かれていたが本人が座学に現れたことで抑えが効かなくなり、今では座学に参加している他家の子弟たちにも広まっているようだ。

     夜の庭を見回りながら魏無羨は美しい玉のように整った藍忘機の容貌を思い浮かべる。 
    (第二公子、師兄の弟……)
     どれほど造作が似ていようと、やはり信じ難い。あんな傍迷惑で破廉恥極まりない男が、清く優しく穏やかな藍曦臣の弟であるなどと信じられるわけがない。
    『魏嬰、気持ち良い?』
     不意に甘たるく囁く声が耳もとに甦り、身体の奥がじわりと熱を持つ。
    (……っ、見回り中に何を考えてるんだ!)
     魏無羨はきつく唇を噛みしめてどうにかその熱を意識の外へと追い払った。
     しかし、そのせいで周囲の異変に気づくのが遅れた。突然近くの茂みがガサガサと揺れ、警戒する暇もなく一匹の犬が顔を覗かせる。
    「ワン!」
    「ーーーーっ!!」
     その瞬間、魏無羨は手にしていた灯りを放り投げ、放たれた矢のようにその場から駆け出していた。
    (なんで、雲深不知処に犬が……!逃げなくちゃ、逃げなくちゃ、逃げなくちゃ!!)
     震えて止まりそうになる足を叱咤して走る。ただひたすら走る。灯りを手放してしまったせいでどこをどう走っているのかもう分からないが、そんなことはどうでもよかった。とにかくあれから逃れなければ。しかし、必死に走っているのに恐ろしい唸り声はどこまでもついてくるのだ。
    (そうだ、木……!木に登れば……!)
     幼いころの記憶が閃き、魏無羨は無我夢中で手近な木の幹に飛びついた。雲深不知処に引き取られてからは木登りなどしていなかったが、どうやら身体は覚えているらしい。それとも火事場の馬鹿力というやつだろうか。自分でも驚くほど素早い動きで中ほどの枝までよじ登って幹にしがみつくと、恐る恐る下を窺う。
     犬は樹上に逃げた獲物を見失ってはいなかった。幹の周りをぐるぐると駆け回り、魏無羨に向かってけたたましく吠えている。
     剥き出された鋭い牙に、それが肉に喰い込む激痛を思い出して魏無羨は自身をぎゅっと抱きしめた。両親を失くし町を彷徨っていたころ何度も野犬に襲われた。痛みとともに刻み込まれた恐怖は骨の髄まで染み込んでおり、恐ろしい鳴き声に彼の魂魄は今にも身体から抜け出してしまいそうだった。
     姑蘇の町でも犬を見かけることは稀なのに、なぜ雲深不知処内で出会うのか。
     魏無羨は落ちないようにぴったりと幹に身を寄せると、固く眼を瞑って両手で耳を覆った。
    (助けて……助けて……誰か……!)
     心の中で必死に助けを求める。けれど呼ぶべき名前は思いつかなかった。



     眼を閉じ耳を塞ぎどれくらいそうしていただろうか。
     塞いだはずの耳に誰かの声が聞こえた。いや耳で聞いたというより、空気を揺らして肌を撫でる優しい振動に気づいたと言うべきか。
     何度も何度も呼ばれていたせいで、その揺らぎが自分の名を呼ぶ彼の声だと覚えてしまっていた。その事実に受け入れ難いものを感じつつ、そっと目を開け下を見れば予想通りの人物がこちらを見上げている。
    「魏嬰!」
     少し掠れた声が今度ははっきりと耳に届いた。
    「……藍湛」
     名を呼び返すと張りつめていた藍忘機の表情が緩む。辺りに犬の気配はない。彼が追い払ってくれたのだろうか。
     それでも不安が拭いきれずに魏無羨がきょろきょろと下方を窺っていると察したように藍忘機が答えてくれた。
    「大丈夫だ。犬ならもういない。降りてこられるか?」
     安堵の息をついて樹上から降りようとした瞬間、ずっと縮こまっていたせいで痺れきった手足がずるりと滑る。
    「……っ!」
     まずいと思った時には既に遅く。魏無羨の身体は宙に放り出されていた。どうにか途中で体勢を整えようとしたが張り出した下枝に強かに顔を打ちつけてしまい、そのまま無様に落下してゆく。
    (大丈夫、たいした高さじゃない。地面も柔らかい。大丈夫……っ)
     長い長い一瞬の間に腹を括り衝撃に備える。
     しかし覚悟したそれは訪れず、代わりにしなやかで柔らかくそして強靭なものにしっかりと抱き止められた。
    「大丈夫か、魏嬰」
     耳もとで聞こえた声に心臓が跳ね上がる。目の前に焦燥を浮かべてなお美しい玉貌があった。
    「……っ」
     落ちてきた魏無羨を受け止めた藍忘機は彼をそっと地面に下ろすと、髪に付いた木の葉を取り真っ白な校服の埃を払う。
    「魏嬰?」
    「……」
     ようやく足を着けた大地はふわふわと心もとなく真っ直ぐ立つのも難しい。墜落の窮地は脱し、犬もいないというのにドキドキと早鐘のような動悸が治まらない。どうにか鼓動を鎮めようと下を向いて小さく深呼吸を繰り返していると、心配そうな表情の藍忘機に顔を覗き込まれた。
    「大丈夫か?」
     月明かりを映した瞳は玻璃のように美しく煌めいて治まりかけた動悸が大きく乱れる。魏無羨は慌てて顔を背けようとしたが、大きな手に顎を掴まれ動けなくなった。
     すいっと近づく双眸に反射的に眼を閉じる。熱く濡れた感触が頬を撫で、それと同時にぴりっとした痛みが走った。
    「雲夢流の応急処置だ。部屋に戻ったらきちんと手当てをしよう」
     思いがけない痛みに彼の顔を見上げれば、ぱちりと器用に片目を閉じてみせた藍忘機が悪戯っぽく告げる。どうやら彼は先程ぶつけた箇所に滲んだ血を舐め取ったらしい。
     己の勘違いに気づいた魏無羨は真っ赤になって藍忘機の腕の中から飛び退いた。
    (今……っ!)
     口づけされるのかと思った。いや思っただけではない。期待、してしまった。
     ふるふると有り得ない考えを追い出すように魏無羨は勢いよくかぶりを振る。
     いつもであればふざけるなと喚き立てる彼の予想外の行動を怪訝そうに見つめていた藍忘機だが、頬どころか首筋まで染めあげた恥じらいの色に気づいて口角をわずかに上げた。
    「魏嬰」
     名を呼び、薄く開いていた唇にちゅっと吸いつく。離れてしまった身体を再度抱き寄せれば、びくりと強張りはするものの抵抗らしい抵抗はない。そのまま舌を差し入れ口腔内を優しく舐った。
     怯えた幼子をなだめるように頭を撫でられ、強張っていた魏無羨の身体から力が抜ける。にもかかわらず心臓の拍動は苦しい程に加速していく。ずくりと腹の奥で欲が疼いた。
     しかし小さく灯った熱はそれ以上煽られることはなく、藍忘機は下唇を軽く喰んで離れていった。
    「……ん」
     名残惜しげに零れてしまった己の吐息を誤魔化すために、魏無羨は慌てて藍忘機の身体をを押しやって礼と疑問を口にする。
    「……助かった。でも、どうしてこんなところに」
    「君を探していた」
    「俺を……?」
     確かに足もとに置かれている灯りのひとつは自分が何処かに投げ捨ててきたものだ。闇雲に遁走したせいで現在位置も把握できていない自分を、わざわざ探してくれたというのだろうか。
    「……なんで……?」
    「金子軒が持ち込んだ犬が逃げ出したと聞いて、見回りに出ている君が心配になった。沢蕪君が、確証はないがおそらく君は犬が苦手だろうと。本当に苦手なんだな」
    「……!」
     犬のことは誰にも告げたことはない。もちろん藍曦臣にも。隠し通せているものとばかり思っていたが、見破られていたなんて。あまつさえこの男にまで知られてしまうとは。
    「……嫌な思い出があるだけだ」
     もごもごと呟いていると再度身体を引き寄せられ、優しく頭を撫でられる。子供扱いするなと思わなくもなかったが、心地よい手つきについそのまま許してしまった。
    「今度から犬に襲われたら私を呼んで」
    「……呼んでって……。俺がどこにいてもか?」
    「どこにいても、だ。必ず私が助ける」
     真剣に告げられる言葉がこそばゆくて茶化してみれば、更に真摯な眼差しに射抜かれる。
     実際にはそんなこと不可能だと解っている。けれど。不覚にも鼻の奥がツンと痺れる。
    「ありがとう、藍湛」
     俯いてぼそりと礼を言うと彼が微笑む気配がした。
    「犬は金家の門弟に引き渡したが、部屋まで送ろう。歩けるか?」
     若干足元がふわふわしたままだが、歩くのに支障はなさそうだ。当り前のように腰を支えてくる藍忘機の腕を引き剥がしつつ、同行の申し出は有り難く受けることにした。



     帰り道は終始平穏だった。犬の気配が微塵もないのはもちろんのこと、いつもなら何かとちょっかいを出してくる藍忘機も大人しい。
     ぶつけた箇所を早く冷やした方が良いだろうと、途中で冷泉に立ち寄り手拭いを水に浸して頬に当てる。ひんやりとした冷気に思いのほか傷が火照っていたことを知った。

     亥の刻が近いため出歩いている者もおらず、そのまま何事もなく自室に辿り着く。冷泉の水が効いたのか、雲夢流の応急処置が良かったのか、頬の傷はすでに目立たなくなっていたが、藍忘機が手当すると言い張るので好きにさせた。丁寧に軟膏を塗り終えた彼がくしゃりとまた頭を撫でてくる。
    「大変な目に遭って疲れただろう。今夜はゆっくりと休んで」
     そして優しい声音で告げてそのまま立ち去ろうとする藍忘機の袖を、魏無羨は咄嗟に掴んでいた。
    「魏嬰?」
    「…………今日は……何もしないのか?」
     藍忘機が目を瞠るのを見て、魏無羨は思わず口から零れていた言葉に気づく。
    「いや!別に、したいとかそういうんじゃなくて……!あれを見たのは久しぶりだから……って、怖いわけじゃないぞ?ただ、唸り声がまだ耳に残ってるみたいで落ち着かないっていうか、夢に出てきたら困る……とか思ってないから!そ、それより、……ええっと、そうだ、さっきは口づけだけだったからお前が物足りないんじゃないかって……違う!何を言ってるんだ俺は……」
     取り繕うように言い募れば募るほど墓穴を掘るようで、最終的に真っ赤な顔で俯いた魏無羨は小さな小さな声で呟いた。

    「……今は一人になりたくないんだ」

     一人になれば、耳にこびりついた唸り声が甦ってくる。鋭い牙も、痛みも恐怖も。全て一緒くたに襲いかかってくる。
     だから。
     いつものように何も解らなくなるまで抱かれれば、恐ろしいものを見ずに済むだろうと思った。部屋まで来れば何も言わずとも一緒に過ごすのだろうと。そんな打算を胸に彼の同行を受け入れたのに。
     素知らぬ顔で去ろうとした藍忘機の袖をもう一度強く引く。
    「……どこにいても助けてくれるんだろう?」 
    「うん。夢の中の君も私が守る」



    「仔犬?あれが?」
     交代で沐浴を済ませる間に告げられた言葉に魏無羨は耳を疑う。
     藍忘機によれば、追いかけてきたあれは片手で持ち上げられる程度の大きさの仔犬だったという。迷子の仔犬はようやく出会えた人間に千切れんばかりに尻尾を振って、どうにか主人のもとに連れ帰ってもらおうと必死に追いすがっていただけなのだと。
    「嘘だ。猪よりもっと大きかった」
     だらだらと涎を垂らして自分を狙っていたあれが、そんな小さなもののはずがない。樹下をうろつく恐ろしい影を思い返して魏無羨はふるりと身を震わせた。
    「魏嬰、思い出さなくていい」
     思考を遮るようにかけられた声と共に、おいでと手を差し伸べられて寝台に入る。柔らかく暖かいぬくもりに黒い影のことは頭から消し飛んだ。

     ゆっくりと休んでの宣言通り、本当に今夜はゆっくり休ませる気らしい。ふわりと包み込まれるように背後から抱き寄せられ、藍忘機の腕の中に収まると急に恥ずかしさが込み上げてきた。
    (なんかこれ、めちゃくちゃ恥ずかしい……)
     今さらながら魏無羨はひどく後悔した。誰かに優しく抱きしめられて眠ることがこんなにも気恥ずかしいことだとは思わなかったのだ。
     これならいつものように無理矢理身体を暴かれた方が気が楽なのではとすら思ってしまう。もとよりそのつもりがなかった訳でもない。先程の口づけが物足りなかったのは自分の方で、灯された小さな熱はじわりじわりと燻り続けていた。
    (本当に今日はしないのか……)
     どうやら自分は相当この男に染められてしまったらしい。抱え込んだ落胆のような思いを洗い流すように大きく息を吸い込むと、爽やかな皂莢の香りに紛れた仄甘いあの香りに気づいた。
    「……っ」
     しかしとてもとても微かなそれは欲情を煽ることはなく、嗅ぎ慣れた香りに胸を満たされ心が満たされていく。燻っていた熱もいつしか身体を満たす暖かなものになる。
    (……何なんだ、これは)
     よくわからない感覚に戸惑って魏無羨が少し距離を取ろうと身動ぐと、「離れないで」と逆に強く抱き寄せられた。
     トクトクと心臓が早足の鼓動を刻む。
     ふと気づけば、背中から伝わる鼓動も同じ速さで、ひとつに重なるそれがくすぐったい。
    (何なんだ、これは)
     彼の腕の中はひどく落ち着かないが、同時にとても心地良い。
     そう、とても心地良いのだ。

     治まらない胸の高鳴りを抱えたまま、その晩魏無羨は夢も見ないほどの穏やかな眠りに落ちた。





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