- 「誕生日に何が欲しい?」
ロナルドにとってこの質問はとても恐ろしくて避けたい質問の一つた。
幼い頃、誕生日が近づけるといつも兄から聞いた質問だった。一番古い記憶のロナルドは兄に新しい靴が欲しいと返した。そうしたら、誕生日が近づくほど吸血鬼退治人の兄の帰る時間が遅くなり、ロナルドが欲しいものもやすい文房具やアイス一つ、兄と妹と分けて食べるのが出来るお菓子みたいな素朴なものに変わっていて、一番最後に兄の質問に答えたのは「欲しいものはない」だった。
高校生の時は友達の半田とカメ谷からセロリの花束を誕生日のプレゼントとされて、悲鳴を上げた後、気絶したせいで、もうふたりからはプレゼントを受け取らないと誓った。
見習い退治人になったロナルドは誰かにもらうことに慣れていなかった。褒め言葉はもちろん、依頼人の感謝まで受け入れないことが多く、ある時には師匠であるヴァモネの後ろに隠れていた。そんなロナルドが個人事務所を開いてからは彼に「誕生日」はないのと同じだった。
ロナルドがもう一度「お誕生日のプレゼントは何が欲しいかな?」と質問を受けることになった。質問したのはロナルドの同居人であり、コンビを結んだ吸血鬼ドラルクだった。
わざと隠すことも、だからと言って騒いでもいなかった誕生日をドラルクが知ってたのはロナルドの兄であるヒヨシが教えたのでだった。何年も誕生日のお祝いを拒む弟のせいで(ヒヨシが送ったRINEは無視して、妹のヒマリのRINEには時々返事をしたらしい。)気が気じゃなかったヒヨシはロナルドに隠してこっそりドラルクに会って彼の誕生日を教えたのだ。
「ねえよ。」
「唐揚げとか言うと思ったけど予想外だね。」
「唐揚げは誕生日じゃなくても食べるだろ。」
ロナルドがジョンの丸い頭を撫でながら「いつでも食べられるのに、誕生日だから作って欲しいとか、ちょっと可笑しいと思う。なあ、ジョン」何気もない顔でジョンに向かって同意を求めた。
おとなしく撫でられていたジョンが頭を上げて両手を振りながら「ヌヌヌヌ!」と鳴いた。
誕生日じゃなくても、いつでも食べられるドラルクの唐揚げ。
これ以上何を望むんだ。
ロナルドは密かにドラルクを想っていた。絶対隠すべきの想いなので、「何が欲しい?」ドラルクの問いには答えられなかった。
「五歳児なら五歳児らしく欲しいものをねだればいいのにとにかくシンヨコゴリラは──スナァ。」
ドラルクがロナルドからジョンを奪って抱きかかえながら言った言葉にムカついたロナルドが拳を飛ばして楽々と彼を殺した。
「俺何かが……。」
「ロナルド君、君だからだよ。お父様みたいにサプライズも出来るが、私は君から欲しいものを聞きたいのだよ。」
「…誕生日プレゼントを欲しがって良かった記憶があんまねえんだよ。兄貴は俺が欲しがってたのを買ってあげると依頼量を増やした。いつも帰った時間より遅くなっててさ、消毒薬の匂いが消えなかったんだよ。」
「それは誕生日に大切な弟が欲しがっているものをプレゼントしたいのは当たり前じゃないか。」
「いっそ何も欲しがらないほうがいい。」
「君はプレゼントをあげる人の心を知る必要がある。」
「お前、ちょっと可笑しくねえ?」
ドラルクから普段と違う感じがしたためかロナルドは警戒した口調で話した。
「可笑しいとは何かね!この優しくてジェントルな高等吸血鬼ドラルク様が好きな君に愛を込めたプレゼントをしたいと思うのが感じられないのかな、ロナ造!」
「す、好き?!」
言葉遣いはとても傲慢だが、赤くなった顔はドラルクが内心緊張していることを示していた。
「だから欲しいプレゼントは何か答えたまえ。」
「からかってるとかじゃねえの?催眠にかかったとか!」
「ロナ造、私が催眠にかからないこと、覚えているのかね。」
「でも!で、でもよ!」
ドラルクがずっと後ろ向きのロナルドに話した。
「ロナルド君は誕生日を言い訳に私を欲しがればいい。」
ジョンがドラルクの腕の中から離れてロナルドが座っているソファーの上で「ヌヒヒ」と笑った。
世界で一番可愛い丸のジョンが「ロナルド君、ドラルク様みたいに顔が赤いよ。」と笑った。