-ダンピールとは人間と吸血鬼の間に産まれた混血を言う。とある国ではダンピールには不死の力を持つ吸血鬼を殺せる力を持ってる存在として伝われ、そして彼らは人を惑わす吸血鬼の血を受け継ぐ故に美しく、半吸血鬼(ハーフバンパイア)として、敬愛を受け、時には蔑視の対象と本は明示した。吸血鬼の歴史に欠かせない、切り離して説明できない項目がこのダンピールの誕生と歴史で、ロナルドはこの部分をひときわ嫌だった。理由は簡単だ。ロナルドが本が説明する敬愛と蔑視の対象のダンピールだからだ。
ロナルドには愛する家族である兄と妹がいるが何の理由かロナルドだけがダンピールとしての特徴が際立った。吸血鬼のように尖った牙と耳がそうだった。
彼の兄であるヒヨシは書類上、人間と登録されていて、吸血鬼退治人として活躍し、引退した現在は新横浜警察署吸血鬼対策課の隊長として働いていた。そして妹のヒマリもヒヨシと同じく書類上に人間と登録されていて、大学生だ。
でも、ヒマリの場合、微弱だが吸血鬼を感じる能力を持っているけど本人の曰くあまりにも微々たるものでこれがダンピールの能力か、それともただ吸血鬼の気配に敏感な人間なのかわからないと。両親から受け継ぐ白銀の髪と碧眼をヒヨシとヒマリは生まれつきだけどロナルドだけが黄金の瞳を持って産まれた。
両親の記憶がないロナルドやヒマリと違って親のことを覚えてるヒヨシは弟と妹には親について一言もしなかったため「拾ってきた子」といじめられてもロナルドは殴る以外に反論する言葉が見つからなかった。ヒヨシが唯一話したのは「俺らの親は同じじゃ」だった。
ロナルドは吸血鬼退治人になる夢を捨てて兄の後について新横浜警察署吸血鬼対策課に就職した。ヒヨシの知人で旧同僚の吸血鬼退治人のヴァモネさんの弟子で剣と銃を学んだロナルドは吸対の有能な隊員であったが、兄が隊長をしている部隊の所属だから「天下り」という言葉がいつも彼について行き、何よりも同じ部隊所属で高校の同級生だった半田桃もダンピールなのでいつも比較された。
半田はとても優秀なダンピールで他のダンピールより吸血鬼の探知能力に優れている反面、ロナルドは吸血鬼の気配を感じると酔ってしまうのだ。酷い場合は吐いて、一度は現場で昏絶したため、始末書を提出したこともあった。いくらロナルドの剣と銃の腕が優れているとしても、吸血鬼の前では酔いのせいで何も出来なく、保護される立場になってしまい、誰かは彼を吸対の事務職員と勘違いしたこともあった。ヒヨシ部隊で一番使い物にならないロナルドはギルドから人手不足で支援要請があれば、ギルドのメンバーたちを手伝って下等吸血鬼を退治したり、吸対の隊員たちとパトロールを回ったり(ただ、高等吸血鬼(バンパイアロード)が現れたら気配に酔って吐くかも知れないので週に1回しかパトロールが出来ない。)、その外には事務職員と一緒に書類や資料を整理することが仕事の全てだった。
不安を感じなかったと言えば嘘になる。
事前協議なしでやって来た本庁の関係者に呼び出されたロナルドは彼から渡された公文書を読みながら血が冷めるのを感じた。渡された公文書には上の偉い方々の印が押された辞職を勧告する内容で要約すると一ヶ月以内に成果を出せなければ、辞めろということだった。ただの一介の隊員のロナルドに本庁から来たという彼は良く考えろと言った。
ここ新横浜吸血鬼対策課のヒヨシ隊長はかなり有能な男で、本部長のカズサとそれなりの親交があった。そんな彼の大切な弟がロナルドだ。同窓の半田と記者として働いているカメ谷にバカだとからかわれた自分でも目の前の男が何を狙っているのかは分かった。ロナルドを掴めるとヒヨシを利用し、本部長を動かせるのだ。ただの妄想だとしても全くない、無駄話では無かった。何より本庁の関係者と名乗った男が他に欲しいものがあるかのように自分を上下に目を通す脂っこい視線がたまらなかった。
本庁の偉い方という人は公文書と共に自分の名刺を残して席から起きて、顔色が青白くなったロナルドに向かって連絡を待つと言い残し、そのまま部屋を出た。
ひとり残されたロナルドが下唇を噛むと、牙が食い込んで傷をつけた。
席に戻ったロナルドを先に歓迎したのは副隊長のヒナイチだった。彼女はロナルド口元に出来た傷を発見し、まさか本庁の人がやったのかとやや激しい反応を見せた。ヒナイチは本部長の妹で、もし、本庁から来たあの男がロナルドに危害を加えたならすぐにでも兄に連絡を入れようと携帯を持ち上げた。ロナルドが急いで何もなかったとパトロールを言い訳に逃げなかったら彼女が通話ボタンを押したかも知れなかった。
火種を避けて庁を出たロナルドはまずどうしても実績を作らなければならない思いでいっぱいだった。その時、突然観光名所になってしまったあの古城の吸血鬼を思い出した。いきなり大量に発生した下等吸血鬼の退治で退治人たちがみな席を外したハンターギルド新横浜ハイボールへ子供を攫って監禁する吸血鬼がいるので退治してほしいとの依頼が入り、丁度非番でその場に居たロナルドが受け入れたことがあった。あからさまな百パーセントの確率で酔うに違いないと予想したロナルドは出発しながら酔い止めを持って行ったが、結果的に酔い止めを飲むことはなかった。
古城の吸血鬼は空しいほど弱かったし、城に設置された数々の罠を避けるに忙しく、酔ってるヒマが全然なかった。それに子供は攫われた訳ではなく、その子自らキックボードに乗って自由に出入りしただけなのでこれからは注意しろと警告するだけであって、そのあと城の罠がすべて爆発したせいで飛んだ古城を後にあやふやに依頼を終了した。それからヒヨシ隊長に報告したら少しの後、古城の吸血鬼はミミズ判定を受けた。
そういえば、城が飛ばされた所新しい観光名所になったらしい。
ロナルドは思わず考えた。
「あいつ、今どこに居んのかな」
城が飛ばされた原因には自分も少々は責任があったためか、それとも今までの無い向き合っても酔わなかった高等吸血鬼だからか、時々ロナルドは現在は現在は跡だけが残った古城の主である吸血鬼ドラルクを思い浮かべた。ドアを開けただけなのに砂になって降伏を叫んだ姿はすごく卑屈に見えながらもロナルドを戸惑いさせるには十分な行動だった。
「君、そう歩いたら転んで、アスファルトとキスするよ。」
「ん?」
思いにふけっていたロナルドに誰かが話をかけて来た。ずっと下を向いていた首を上げたら青白を超えて真っ青色の顔の吸血鬼がロナルドをじろじろ見つめていた。驚いたロナルドが悲鳴を上げてパンチを打ち込んだら、吸血鬼が悲鳴を上げながらスナァと砂になり、その砂の周りを丸い何かがぐるぐる回った。
「おま、お前なんだ!」
「なんだとはなんだ!真祖にして無敵の吸血鬼ドラルク様を忘れたのかね?!」
「マンボウ級にすぐ死ぬ吸血鬼だろ!」
ドラルクがロナルドの言葉に傷ついてまたスナァと砂になって死んだあとすぐ蘇って、「マンボウはさほどすぐ死んだりしないよ。」と言い返したけど綺麗に無視されてまたまた死んだ。
「なんで、テメーがここにいるんだよ。」
ロナルドはまん丸を抱きしめて再生するドラルクに何故ここにいるのか聞いた。
「何故?可笑しな質問だね。当然君に会いに来たのさ!」
高等吸血鬼がマントをなびかせながら言った。
「私の城を破壊したからには当然責任を持ってなければ。だから君の家に私を招待してくれ。」
「はあ?なんでそうなるんだよ!」
「君は吸血鬼対策課の隊員でしょう?まさか吸血鬼は招待されない家には入れないのを知らないとでも言うのかね?あ!五歳児だから知らないのか、なら、失礼──話してる途中に殺すな!!」
自然に失礼なことを話す最弱の吸血鬼に怒ったロナルドがパンチを投げた。するとやっぱり砂になってすぐさま再生し、「殺すな!」と叫んだ。吸血鬼ドラルクはすぐ死んで、すぐ蘇る。それを見ながらロナルドは’一体何って生命力なんだよ?!’内心舌打ちした。
「……来い」
ロナルドはパトロールを止めてこの対策無しの吸血鬼を連れて庁に向かった。ずっとうるさかったドラルクは「とりあえず報告しなきゃな」とのロナルドの言葉でやっと黙って大人しく彼の後を追った。
対策課のドアを開けた瞬間から色んな意味での注目を受け始めた。高等吸血鬼が居ると百なら百、酔って吐く天下りのダンピールが自ら高等吸血鬼を連れて現れたのだ。注目しないのが逆に可笑しいほどだった。ドラルクがうつむいたまま歩くロナルドの後ろ姿を見て目を細めると抱っこされていたまん丸が「ヌー」と鳴いた。そしたらドラルクが右手の人差し指を自分の口元に当てて静かにしなさいと手振りをした。
「ロナルド!」
「あ、隊長…。」
視線が痛くてそろそろ限界だったドラルクを思わず助けたのは吸血鬼対策課の隊長のヒヨシだった。ヒヨシはロナルドを発見しすぐ彼の後ろから頭だけ出している吸血鬼を見て、急いでロナルドの手首を握って引っ張り出した。そして、少なくとも頭一つは大きな彼を自分の後ろに来させた。
ヒヨシ隊長のことならなんでも信じちゃう良い子のロナルドは大人しくされるがままだった。先までとは違って自分のことを警戒し始めた隊員たちにドラルクは満足感を感じながら笑った。
「私は高等吸血鬼ドラルク!そこのロナルド君が爆発させた城のー」
「ああああああああ!」
ドラルクの自己紹介が終わる前にロナルドがいきなり悲鳴をあげると当然のようにドラロナは華麗に死んで砂になり、すべての視線がロナルドに向けられた。
しまった。
真っ赤な顔のロナルドが泣きながら逃げる前にヒヨシが弟と死んで蘇る吸血鬼を連れて空の会議室へ入った。
「さ、これで話せるんじゃろ?」
椅子に座ったヒヨシが先に口を開けた。ミスったことがあろうとなかろうと全部自分のせいにする自尊感が低いロナルドの性格をよく知ってる彼はぐずぐずする弟から勝手に席に座った吸血鬼ドラルクへと視線を変えた。
前に読んでた報告書によると吸血鬼ドラルクはすぐ死んで、すぐ蘇る以外は使うところが全くないミミズレベルの吸血鬼だったはず。
ロナルドが以前、提出した報告書を思い浮かべながら、ヒヨシは彼を連れて来た弟を不思議に思えた。ヒヨシの弟だというだけで数々の猜忌と嫉妬、期待の視線を受け、負担感に追い絞められたロナルドが他人に絶対的に良い印象を与えて、部隊には実績を上げようとしてたのを思うとロナルドが目の前のミミズレベルの吸血鬼を使って実績を上げようとしないからだ。率直にドラルクを捕まったとしても実績が上げると思えないし、ロナルドはすごいお人好しで、言い換えれば騙されやすい男である。
「ああ、改めて紹介しよう。私は高等吸血鬼ドラルク、そして使い魔のアルマジロのジョン。」
「ヌ!」
丸くて可愛いアルマジロが可愛く挨拶をしたらロナルドが顔を赤くし、ヒヨシは一応見なかったふりをした。
罪のない自分の城に攻め込んできて、城を爆発させた(もちろん、それは意図したわけじゃなく、キックボートの少年を捕まえるため、追ってたロナルドとドラルクが罠を発動させたのが原因だ!)ロナルドに被害補償を求めるために訪ねてきたというドラルクは横から「バカか!!」と叫ぶダンピールの青年を無視し、彼の兄に「ロナルド君と同居させてください!」と言った。
「は?」
ヒヨシは心の底から「は?」を引き出した。
「お、おま、兄貴になに言ってるんだ!?」
慌てるロナルドがドラルクを殺さなかったら、そのままヒヨシに変な誤解をさせたかも知れない状況で、もう既に可笑しな状況だけど、これ以上可笑しくなる必要はないと思ったロナルドだった。
結果を言うとヒヨシはロナルドとドラルクの同居を許可した。大切な弟が吸血鬼と一緒に住むのは兄としては許可出来ないが、一言にも死んでしまう吸血鬼なら話は変わる。高等吸血鬼と居ると必ず体を崩す弟がドラルクとは平気で(はないけど!)居られるのを見るとロナルドの高等吸血鬼酔いが治るんじゃないか妙な期待を感じて、ヒヨシは二人、いや、にっぴき(二人と一匹)の同居を反対しなかった。
なによりー
「良かったね、ジョン!」
「ヌ!」
「ジョンを置いて、テメーは来るな!」
「酷いことを言うね、ロナルド君!私とジョンは運命共同体だからね!」
「ヌヌー!」
ロナルドがドラルクの使い魔であるアルマジロに一目惚れされたようで、弟に弱い兄は同居を認めた。
だが、普通に思った同居が後々同棲に変わることをこの日のヒヨシは知らなかった。