あなたの隣を今日はなんて素敵な日なんだろうか。
自分の友達が結婚をし祝杯をあげている。素敵な衣装に身を包み、きらびやかな装飾と華やかな花達が2人を引き立たせた。そして2人は幸せそうに、未来永劫一生添い遂げると誓いを交わした。
笑っていた、泣いていた、喜んでいた。沢山の人が2人の門出を祝い、式を上げた。
それも数時間前の話であるが…。
メインの2人も来客も酒が入り早々に部屋に戻るか、スヤスヤと寝息を立てて床に倒れている。明日は朝から片付けが大変そうだと思いつつも、今はこの幸せに浸っていたいと、酒を持って外へと足を運ぶ。
外は既に真っ暗で満開の星空がキラキラと散らばっていて、目を惹かれる程に美しい光景が広がっていた。
「明日は天気がいいだろうね」
カップに入ったお酒を口にしようとした所で、後ろから伸びた手に邪魔をされ静止する。
「白龍くん…?」
「アラジン殿、こんな所で何してるんです?」
アラジンの酒をそのまま奪い取った白龍はコクコクと飲み干し、カップを地面にゆっくりと落とした。酒が入ってしまった彼は昔ほど酷い泣き上戸を見せる事は無かったが相変わらず弱かった。セーブして飲んでいるようではあるが、頬は見るからに赤く染まっている。色男がより一層艶っぽく見え、世の女性が見たら卒倒してしまうほどエロいと感じてしまう程だ。
「何ですか?人の顔をジーッと見て…」
「えっ?あぁ…」
星空の淡い光で照らされた白龍があまりにも綺麗で、アラジンは無意識に見惚れていたのだ。本来なら綺麗で魅力的な女性に思う感情の筈なのに。きっとこれはお酒のせいだ、そう思わないと彼との関係に変な溝を生み出しかねないと思い視線を逸らす。
嫌いな訳ではない、寧ろ好きな方だ。だがその好きに種類分けするならまだ分からないのだ。人を好きななると言う事をアラジンはまだ知らなかった。一緒に居て楽しいし心地良いのは、親友であるアリババやモルジアナだ。他の人も一緒に居て楽しいが、気を使わずにいれるのは2人と、そして白龍くらいだろう。
殺し合った時期もあったし、アリババを亡き者にした事に対してほんの少しだけ恨んだ事もあったが、それも一時のもの。自身も彼のマギであるジュダルを一度殺したような物な訳で、ある意味同じ罪人だ。結局2人と再会できたから結果オーライと言う所だろうか。
アリババとジュダルと再会するまでの期間、2人は殆ど共に同じ目標の為に一緒にいた。その間いがみ合いもしたし、何度も手が出る程の喧嘩を繰り返した。モルジアナや紅玉がいたから派手な喧嘩にならなかったが、ハッキリと言えば馬は合わないと思う。でも自分の悪い所をしっかりと見て反論してくれる白龍には気兼ねなくいれるし、一緒にいて楽しいのだ。
それに他には無いような感情を抱いていたのも事実。名前がない未知の感覚にふれるのが怖くて、気づかないふりをしてきた。今までもきっとこれからも。
黙っているアラジンに気づいた白龍は声をかける。
「顔が赤いですよ」
「そ、それは君もじゃないか!」
「お酒が入ったからしょうがないでしょ。でもあなたは強い筈でしょう?」
それは君に見惚れていたから等と本当の事が言えるはずもなく、笑って濁す事しかできなかった。
「それより何のようだい?」
互いが無言になってしまい、シーンと静まり返った状況に耐えられなくなったアラジンは口を開く。宴会を楽しんでいる皆が寝てしまったせいで、思った以上に声があたりに響く。まるで2人しかこの世界に居ないかのような錯覚に落ちる。
勝手に想像して恥ずかしがっていたたまれなくなったアラジンは、何か用があるなら言えと、瞳をうるうるとさせながら訴えかける。
「特に何もないですけど」
「え?」
こんな夜が濃い時間まで起きて、その上明かりも乏しい場所にぽつんと座るアラジンの元に来て、結局何も無いとはどういう事なのだろうか。彼の行動が全く読めず、唖然としていると
「用が無いと隣りに居ては駄目ですか?」
「いや、そんな事は無いだろうけど…」
「では、どうしてそんなに俺が隣に来る事を拒むんです?」
以外な言葉が白龍の口から紡がれる。
自分が彼を拒む…そんな事は決して無い。声を大にして伝えたいのに上手く言葉が出ない。砂浜に打ち上げられた魚のように、ただ口をパクパクとさせるだけだった。
「気づいてないのかもしれませんけど、俺が隣に行くと目を泳がせるんですよ」
「う、そ……」
「嘘じゃないですよ。現に動揺して声も出てないじゃないですか」
確かに動揺はしている。どうして今更そんな事を声にして自分に教えるのか。傷つけたなら謝りたいけど、しかし今の自分にはできそうにない。心臓が痛い程大きく鳴らし、白龍にまで届いてしまうのではという程だ。
今日の自分はどうしてしまったのだろうか。
「別にいいんです。俺がアリババさんを殺したから、多少なりとも恨んでいるのでは…」
「そんな事はないよ!」
話の途中で叫び声の様な声を上げるアラジンにピクッと体をはねらせる。驚きつつも声の主に視線を合わせれば、大きな青い瞳から大粒の涙がポロポロと溢れていた。
「何泣いて…」
「白龍くんの馬鹿!何でそんな事言うんだよ。何年一緒に居たと思ってるんだい。嫌いとか恨んでたりしてたら、こんな長い付き合いなんかしてないよ。あんな戦いの事抜きでも、僕は君が一人の人間として好きなのに…」
瞳が溶けて落ちてしまうのではという程、涙が次から次へとこぼれ落ちては、彼の頬を濡らし地面に落ちていく。
子供のように泣きじゃくる彼があまりにも珍しく、白龍は目が離せずにいた。
そして一言、綺麗だと思った。
嘗て泣き虫だった自分は大層兄や姉や家族を困らせていた。小さな事で涙を流し泣きつく自分へ、頭を撫でたり抱き締めて慰めてくれた人達。
結局その性格を直せないまま、アラジンやアリババやモルジアナと共にダンジョンへ向かい、醜態を晒した事があった。今思えば恥ずかしくて全員の記憶を抹消させてやりたいと感じる程恥ずかしい出来事だ。
こんな思いを沢山してきたからこそ、泣くという行為はコンプレックスであり、他人の泣いている姿は好きではなかった。寧ろ嫌悪感を感じる程だ。泣くなら自分の見えない所でしてほしいし、出来れば関わりたくも無い。
だが今は違う。いつもニコニコと笑って相手の幸せを願う彼が、昔の自分の様に泣くのだ。嗚咽を漏らし、赤くなった目を擦る。本来なら関わりに行く事など決して無いのに、今は嫌悪感所か、その姿に目を奪われている。キラキラと落ちる雫が甘い蜜のように思えゴクッと息を呑む。そして気づいた時には、彼の目元に自身の唇を触れさせていた。
「しょっぱ…」
「え、なっ…な!何してるんだぃ!!」
涙を流していたアラジンはわなわなと唇を震わせた後、顔全体を真っ赤に染め上げて怒っている。まるで熟したリンゴのように。
「何って、あなたの涙が美味しそうだったから…?」
「そんな訳ないじゃないか!!」
「あんまり叫ばないでください。耳がキーンとする」
「叫ばせる様な事してるのは君じゃないか!!」
ハァハァと肩を上下にさせて息をする姿が少し愛らしく感じるとは、自分も中々酒にやられていると自負する。
アラジンが怒る理由について白龍自身気づいているが、自分の行動力に驚き過ぎて寧ろ冷静さだ。故に私欲の為に行動したと言っても過言では無い。申し訳ないなんて言葉をかけるつもりなど無いし、そんな事さらさら思っていない。思ってないのだから言葉にするだけ無駄。自分の欲望に忠実になった結果がこれなのだから、しょうがないと勝手に開き直る。
だが、頬を赤く染めてはいるものの、嫌がる姿に全く傷つかない訳ではないため
「そんなに嫌なんですか?」
と、ぶっきらぼうな言葉がでる。まるで駄々を言う子供のように、不機嫌さを顕にして。
あまりにも露骨過ぎる態度にアラジンは気づいた様で、目をぱちくりとしてからオロオロと動揺している。
「いやって、そんな事は…」
「それじゃあその態度は何なんですか?」
「それは…」
「ハッキリと言ってくださいよ。俺は…」
底知らずかと言わんばかりに出てくる欲。あふれ出し過ぎて余計な事を口走りそうになり、唇を痛い程噛み口を噤む。
俺は何を言おうとした…、考えるだけでゾッとする。この関係を終わらせたくなくて、このままの関係を望んで消した筈の感情。きっと酒のせいだ、だからこんなにもふわふわとして、抑えてきたものが今にも決壊しそうとしている。
あんたのあの姿を見たからではないんだ…
「唇痛そうだよ」
「っ…」
柔らかくはあるけど少し骨ばってる彼の指が触れる。離れた筈の距離が近づいており、視界いっぱいにアラジンの顔があった。思考回路がショートし体が金縛りのように固まったかのように感じた。
「あんた、何してるか分かってるのか」
「何がだい?」
俺を試してるのか…と言いかけて口を噤む。どう見ても彼の瞳からはそんな感じはしない。寧ろ彼のお人好しか心配症が故に体が勝手に動いた所だろう。怯えつつではあるが確かに白龍の肌に手が触れていた。
この人はこの状況を分かっているのだろうか。本当に人を掻き乱すのが上手だとつくづく思う。
「俺がさっきした事忘れてるんじゃないですよね」
白龍が真っ直ぐと見つめれば、先程のやり取りを思い出したのか、ハッとした表情を晒した後、勢い良く逸らして距離をとる。
「べ、別に忘れてなんか!」
「はぁー、いいんですけどね。俺もきっと酔ってるんですよ」
「本当だよ…、早く寝ればいいじゃないか!」
「この状況下で寝れるとお思いで?」
「ぐっ…」
あ、理解してはいるのかも…と少しは彼が精神的にも大人になったのだと気づく。
体は確かに縦に成長し、ふっくらとした肌はガッチリとは言い難いが申し分のない筋肉が均等についていると思う。だが体質なのか、体が全体が薄くほっそりとしている。その上目が大きめで顔に幼さが少し残っており、長い髪を綺麗に手入れしている事もあり中性的な感じに見られる事もあった。
別に見た目に惹かれている訳ではないし、出会った頃の子供らしい彼に心奪われた訳でもない。というかそれはそれで犯罪的な匂いがして誰が見ても白い目で己を見るだろう。
気付かないうちに見とれていたのは、彼の何にも揺らがないピンとした強い心だ。自分の使命の為、誰かを幸せにしたいと切に願う心の強さ。そんな所に惹かれていた。
自分にないものだった。復讐に囚われていた自分のとは違い、陽の光を浴びた眩しい存在。アリババが太陽のような男だとアラジンは言うが、彼もまた人々を陽のあたる場所へと導く存在だ。マギだからではなく、アラジンという男が光そのものだ。
自分達は相反している。立つ場所が違うのだ。彼が光なら自分は闇。それが悪とか悲しい事だとは思わないが、一緒にいる事はきっと難しい。光ある場所に闇があったとしても、同じ場所にいる事など不可能だ。
無理だとわかっていても、それでも願ってしまう。
「あんたの隣にいる資格が欲しいと」
離れた筈の手を弱々しくではあるが掴む。ひんやりとした白龍の手から、彼が緊張しているのではと伺えた。
「一緒にいるじゃないか」
「そういう事じゃない。そういう事じゃないんだ、俺の言う言葉の意味は…」
こんな事を口走るのは酒だけのせいではない。今の自分に抗う事ができそうにないのだ。もう認めよう。
アリババとモルジアナの、2人の幸せそうな姿を目に焼き付けてしまったからだと。
今居ない2人、彼等はアラジンにとってかけがえのない大切な人。そこには硬い絆で結ばれた関係がある。恋愛なんて甘いものじゃなく、心で繋がるような、もっと説明し難い特別な何か。特にアラジンがマギとして認め王として選ばれたアリババの関係はもっと深いものだ。
自分には決してできない関係。羨ましいとすら感じる。唯一無二の繋がりが自分にも欲しい。自分以外刻む事のできない証をつけて、自分の物だと覚えさせ、離れる事のできない様にしてやりたい。ドロッとした汚く醜い感情が溢れてしまいそうになる。これが己が成長させた愛と言うのならば、人に見せれないほど酷いものに出来上がってしまった。
「白龍くん?」
不安気に見つめる、青い宝石の様な瞳には愛に飢えた獰猛な自分が映って見えた。
アンタの全てが欲しい…と。
「俺だけを見て俺だけを愛してください」
情けない程の愛の囁きに自嘲する。結局は皇子らしくカッコイイものとは程遠いものに出来上がってしまった。泣きはしないが、自分の格好悪さに呆れて声も出ない。
だけど身体は素直で、繋いだアラジンの手を自分の方に引き寄せ、重心が傾いた彼の身体をぽすんと受け止める。胸元で驚いた声をボソボソと呟いている様だが、離れようとはせず空いた腕を白龍の背中に弱々しくも回した。
「あんまり思わせぶりな態度はやめてください」
言葉では棘のある事を言ってしまったが、離したくないとガッチリ抱き締める。折角捕まえた彼をみすみす逃したくはないわけで、より一層腕に力が入る。
「その割には離してくれないみたいだけど」
「あんたうるさいです」
自分より少し小さな彼の方に顔を埋める。ビクッと体が反応したが嫌がってはいない様だ。それに嬉しいと思い心臓が高鳴る。想い人を抱き締めるてるという事実だけで緊張し、心音がバクバクと大きく鳴ってるせいで、胸元にいるアラジンには筒抜けだろう。だが今更もうどうでもいい。
「ふふっ」
「何ですか急に?気持ち悪い声出さないでください」
「ええ、酷いな〜」
密着した体が急に離れて互いの視線が交わる。赤らんだ頬と潤んだ瞳が色気を増しており、ドクッと心臓が大きく鳴った。
クソガキの癖にその色気あてられるとか…、どれだけ自分は彼が好きなのか思い知らされる。好きが故に盲目で虜にされていく。
「僕の事好きなの?」
直球な言葉が白龍を襲う。ここが正念場かと思い、覚悟を決めて震える手に力を入れて握りこぶしを作る。
「好きですよ、誰よりもあなたをお慕い申しておりました」
顔に熱がこもり段々と顔が赤くなるのを感じる。どうにでもなれと言わんばかりの勢いで言ってしまったが、返事を聞くのはまた別の話だ。ここまで来たからもう振るならメッタメタに振ってほしいし、立ち直れないくらいにしてほしい。
吐息が漏れる音が聞こえて、ギュッと目を瞑って覚悟を決めると、何かが触れる感覚を肌が感じ取って目を開ける。そう触れたのだ、熱くなった頬に柔らかい何かが。それがアラジンの唇だと気づいたのはすぐ後のことだった。
「あなた何して…」
「僕なりの返事なんだけど?」
唇が触れた部分を手で触る。そこだけ熱が集中してしまったのか熱くて熱くてたまらない。でも熱が引いて欲しいとは全く思わない。
「何か反応しておくれよ」
「はぁー?」
赤らめたアラジンが上目遣いでこちらを見る。やっぱり可愛いぞと思うが、現実感がなく、ふわふわと夢の中にいるような感覚に陥る。反応も素っ気なく気の抜けた言葉しか出てこない。
「夢…ですかね?」
「君ね〜、人が頑張ったのに夢で終わらせるとか非道だと思わない!」
「あんたがそんな事するだなんて夢しかないでしょ」
「僕をどれだけ最低な奴だと思ってるのさ!」
最低だとか冷酷とか全く思わないが、自分に対して向ける感情に関してはもっと冷めきったものだと思っていた。嫌いとかは無いとしても、いっぱいいる友人の中の一人くらいの程度だと思っていた。
未だ現実に戻りきれていない白龍に何を思ったのか、アラジンは大きな溜息と共に恥ずかしそうに頬を赤く染め上げた。そしてボケーっとしている白龍の顔を両手で掴んだ後、グイッと顔を近づけた。互いの吐息がかかる程近く、2人の距離がゼロになった瞬間、唇が重なった。
「これで分かったでしょ!!」
触れるだけの軽いものではあったが、2人の呼吸が荒くなるには充分だ。無意識で唇に指を触れる。柔らかくて温かくて、もっとしたいと思う程に心地良かった。本当にこれが現実ならと、アラジンの濡れた赤い唇に目が行く。そこにはリンゴの様になったアラジンがしてやったと言わんばかりに涙目で訴えていた。
「俺と同じ気持ちなんですか?」
「ちゃんと態度で示したじゃないか。まだ信じてくれないのかい?」
信用してないわけじゃない。だが欲に溺れた白龍には態度だけじゃ満足できない体になってしまっているのだ。
「言葉で教えてください」
「我儘だね、君は」
「そうですよ、我儘で強欲だ。でもあなたの声で言葉で知りたいんです」
熱くなった互いの掌をゆっくりと重ね絡めとる。触れた部分が擽ったいと感じるも離れ難くて繋がったままだ。
「白龍くん、君が好きだよ。僕を君の隣に置いてくれないかい?」
淡い星明りに照らされたアラジンがあまりにも綺麗で、幻想的な景色を見ているようで、喉を震わせる。
俺はこの人の隣に立っていい、そう思考が理解した瞬間、寂しさを補うように体を密着させて抱き締める。さっき程よりも力強く全身で。
「もう手放してはあげれませんよ」
「それでもいいさ、僕を好きでいてくれるなら」
「あんまり煽らないでください。コレでもかなり我慢してたんです!」
既に色々とめいいっぱいで爆発しそうになっている。この数時間だけで色々と起こり過ぎたのだ。一生の運を使い切ったと言っても過言では無い程自分には良い事尽くしで、これ以上幸せになったら多分己は死ぬ。いやいっそ死ねたら幸せのままかと、訳の分からない事が頭に浮かび上がる。
「我慢しなきゃいいじゃないか…」
ボソッと聞こえた声に体が強張る。今何て行った?…確かめたくて密着した体を剥がして顔を見る。やっぱり顔は真っ赤で恥ずかしそうに視線を逸らしている。わざと視線を合わせにいけば、目をいっぱいいっぱいに見開きふるふると唇を震わせていたアラジンがいた。その姿が可愛らし過ぎて、口の両端が緩んでニヤける。
「あ、あんまり見ないでおくれよ!」
「好きな人の顔を見たいのは当たり前の事じゃないですか」
「うぅ…」
愛らし過ぎて、自分の唇を相手の唇に触れさせた。触れるだけのキスでは無く、啄む様なキス。それから閉じられたアラジンの唇を割るように白龍の舌が差し入れられ、長い舌に絡めとられていく。熱い舌が上顎をなぞり、口の中を蹂躙しゾクゾクと背筋を震えさせ熱が体中を駆け巡る。アラジンのくぐもった甘い声が漏れ出し、ぴちゃぴちゃとなる水音が耳にダイレクトに聞こえた。知らない感覚と怖い程に襲いかかる快楽に涙がこぼれ落ちる。激しく絡めとられた舌が甘く噛まれ吸われ、そしてゆっくりと離れていく。
「ん、んぅ……はっ…」
互いの舌を星明りでキラキラと輝く銀色の糸が繋げ、ぷつりと切れる。酸欠になったアラジンの体は、自力で支える事ができず白龍の体に凭れかかる。そして酸素を取り込もうと体が上下に呼吸を繰り返した。
「が、っつき過ぎ…だよ…」
「煽ったアンタがが悪い」
全身に駆け回る熱に翻弄された上に、腰が抜けたアラジンは白龍の胸元の裾を掴む。倒れないように腰に手を回せばビクビクと反応し、頬をまた真っ赤に染め上げた。
「僕ばっかりこんなのって不公平だよ」
余裕そうな白龍の姿を見れば、少しほっぺたを膨らませる。女の子慣れというか、こういう行為に慣れてるのは如何なものかと思い、勝手に自己嫌悪に陥る。
「俺だっていっぱいいっぱいなんですけど」
「嘘だ…、上手過ぎるもん」
「腰を抜かす程ですか?」
茶化すような発言にイラッとくるが、事実過ぎて何も言えなくなる。テクニシャン過ぎて経験豊富なんだろうなと想像すると胸がズキズキと痛い。自分以外に知ってる人がいるのは嫌だと、嫉妬心が顕になる。
「勘違いしている所申し訳ないんですけど、あなただけですから」
「え…」
「あなた以外となんかしてないって言ったんです!」
嫉妬するだけ無駄ですよと眉を顰め恥ずかしそうに口を開く白龍。キスは別だ、好きな人以外にしたいとは決して思わない。姉である練白瑛にも大切にしろと言われ、大事にしていたのだ。子供じみてると思われるかもしれないが、何をするにも愛した人に、その人だけを生涯愛したいと子供ながらに思っていた。自分の実の父親のように。
「そっか…。へへ、良かった」
心底安心したような嬉しさを表情に滲み出させる彼が愛おしかった。もうここで止まれるほど聖人でないため、抱き締めたアラジンの体を持ち上げ抱える。今の彼は既に欲に忠実で、躊躇するという言葉は彼の辞書から消え失せていた。
「え、何処に行くんだい?」
「何処って続きをするんですけど」
続き、その言葉にピンときてしまったアラジンは頬を染めてワタワタと暴れ出す。体を落すなどのヘマはしないが、流石に激しく動かれては溜まったもんではない。
「何ですか、野外の方がいいんですか?」
「そんな訳ないじゃないか!!…心の準備がまだ………」
「何、生娘みたいな事言ってるんですか。そっちの経験無くても知識くらいはあるでしょ?」
「生娘って…、というかやっぱり僕が下?!」
「当たり前でしょう。アンタに抱かれるとか想像するだけで吐き気がする」
「そこまで言わなくたっていいじゃないか!」
やいやいと夜に喚くアラジンに苛立った白龍は、彼の唇に己の唇を重ねた。深いものではなく触れるだけの物を数秒間。
「うるさい、黙って抱かれろ」
「………ふぁ…い」
その後2人がどうなったかは誰も知らない。
だが次の日、寝床が起き上がれずにいるアラジンと、スッキリとした表情をする白龍がいたのだった。