お題「スティック」「壊れる」「イベント」時は3021年、荒れたドームの中でイベントが行われていた。
究極と言われたAIロボットと、3000年に一人とうたわれたゲームの天才による格闘ゲーム大会である。
勝負は一昼夜かけても終わらず、画面の中ではAIが選んだロボットキャラと天才の選んだ女の子キャラが死闘を繰り広げていた。
「すごい!こんなにゲームやって集中力が衰えていないわ!」
「もう肉眼では追い切れねえ!」
観戦をしていたほとんどの者は思っていた、もうわけわからん。
だが、一部の者はしっかりと見ていた、
「ふっ、まさかここでバーニングヒップアタックをするとはな、我が代表も少しはやるようだ」
「だが相手はゲームのすべてを知り尽くしたわたしの作ったAI勝つのは私だな」
丘の上からドームにかかげられた画面を見ていた4人の人間は、口元に笑みを浮かべながらその光景に汗を流していた。
双方とも限界は超えているのは見てとれる、あいつら、死ぬ気か?
AIは煙を出し、天才は汗まみれであった。
しかし二人とも操るスティックさばきにミスはない。
それどころか……、
「ニンゲン、ムリヲスルナ、コレイジョウハニクタイニヒビクゾ」
「ふっ、それを言ったらお前もだろう、ケムリがすごいことになっているぞ」
と言う会話まで聞こえてきた。
「ワタシハコワレテモナオセバイイダケダ、ニンゲン、キミホドノイツザイヲコワスノハオシイ、コウサンシロニンゲン」
「しないな、ごちゃごちゃ言わずに勝負に専念しないと足元をすくわれるぜ」
天才の操作している女の子キャラの足技が決まった!
AIの操るロボットキャラは……、
「…………」
何もしなかった。
「いけー!天才!」
「ロボットをぶっ壊せ!」
観客たちが沸き踊る。
しかし天才のキャラも動きを止める。
「なんだ?」
「なぜ何もしない?」
どよめく観客たち。
それどころか天才はスティックを手から離して、歩き、ロボットの顔を、
「馬鹿野郎!!」
殴りつけたのだった。
「てめえ、手を抜いたな!それだけは、それだけはしちゃいけなかったのに!」
血を流した拳を受け、ロボットの体は倒れ伏した。
「ニンゲン、ワタシハアナタノモツイデンシヲマモリタイ、アナタハコンナトコロデシンデイイモノデハナイ」
「死なねえよ!戦え!」
天才は手を振りかぶると今度は、AIロボットの前に手を差し出した。
何も言わずにロボットはその手を取り立ち上がった。
「ワカッタニンゲン、ノゾミノヨウニ、ゲンカイヲコエヨウ」
試合は再開された。
彼らはもう何も言わなかった。
言うことができなかった。
それくらいの真剣勝負あった。
遠くの丘からその光景を見ていた4人も目を疑った。
「わ、ワシの動体視力がおいつかんじゃと?」
「先生!コンピューターが!きゃあ!」
彼らの足元にあった機械が火を噴いた。
「コンピューターが…まずい、これではもうAIが持たない!」
そう言った彼がドームの画面に目を向けた時。
勝負は終わっていた。
YOU WIN。
そう頭についていたのは、ロボットキャラだった。
歓声が沸き起こる。
「二人ともよくやったー!」
「感動した!!」
「大好き二人とも!!」
そんな言葉を聞きながら、天才はロボットに目をやる。
「ふっ、やられたな」
「rmjjhamtqgam……」
ロボットは何か言いたそうに口を開いたが、煙を吐きながら出されるその言葉は意味不明だった。
「jtwmdakh@akt」
「おいおい壊れるのは早いぜ、再戦してやるから待ってろよ」
その時ドームの入り口で悲鳴が上がった。
威風堂々と立つそれはティラノザウルスだった。
温暖化により氷の中から蘇った怪物は、けたたましい鳴き声と共にドーム内を走り出す。
「vjamjhajm」
それを守るように前に出た勝者に、敗者はさらに守るように前に出る。
「俺たちの戦いはまだ終わらねえってか」
敗者は走り出した、自分より巨大なその相手に、天才はゲームの天才であるとともに格闘技の天才でもあった。
数年後。
彼らは幾度となく戦い、その結果は7対3であったという。
どっちがどっちかかは、あなたのご想像に。