沁みて届けよその言葉「1号、好き!」
「……」
「ね~?ちょっと聞いてる?」
「……」
「1号、だーいす」
「五月蠅い」
「ブベっ…っ!痛いなぁ!」
チョロチョロと自分の周りを妙なポーズを取りながら動き回る2号の頭を1号は掴んだ。
全くもって落ち着きが無い。
自分の後に生まれた2号は自分とは全く性格が違った。
人造人間といえど、感情もあれば性格だってある。
ヘド博士の考えは自分たちなどでは到底わからないが、この2号のようにお調子者、というのはいかがなものかと思わないわけではない。
人間のまねごとのように「好きだ」と繰り返した2号に1号は呆れるとその手を離した。
「そんなこと言って何になる」
「何に?さぁ?言いたいから言ってるだけだよ」
「バカバカしいな」
「え~?そうか~?好きなもの好きって言って何が駄目?ボクはヘド博士も1号も、兵士くんたちもみーんなまとめて大好きだよ!」
「……」
博士のところへ行ってくる。
と2号はそのまま弾むように離れて行った。
その後も、2号は博士に「大好き!」と言い、博士も「同じ気持ちだよ」と笑ってそれを無表情の1号が見て居れば2人に「1号もね!」と抱き着かれ、さらに繰り返される。
自分はその時何も言わなかった。
言う必要などないと思っていた。
恥ずかしいと言えばそうで、その意味を理解できていないと言えばそうだった。
止めてほしいと2人にそっぽを向いて。
その時の2人はお互いに顔を合せ笑っていたけれど。
多分きっとその言葉は自分が言わなくても2人が言ってくれるならそれでいいと、思っていた。
―今こんなことにならなければ―
「……っ……」
「1号……」
「私は……何も…言わなかった……」
残された手の中のマントの残骸を握り締めてももう何も応えないのに。
自らの指に食い込むほど強い力。
一言言えば良かった。
博士と2号から貰った言葉にせめて「一緒だ」と応えてやれば良かった。
屈託のない笑顔で「好き」と伝えてくれた半身はもう居ない。
残されたそれをどれだけ抱きしめても、もう、応えない。
「私は……」
「1号、ボクは君のこと、ずっと大好きだよ」
「……はか…せ……」
「2号も1号もボクの大切な子供で、友達で、ボクのスーパーヒーローだ」
「……っ……!……博士…私は!…!」
「言わなくてもわかってる。大丈夫だから」
ぎゅと小さな腕で抱きしめられ1号は視界が歪んだ。
故障(バク)だろうか、酷く身体の一部が痛い。
言わなくていい言葉なんてない。
伝えなくていい言葉なんてない。
もう遅いかもしれないけれど。
「……私は……貴方と…2号が……大好きです……」
零れるそれはマントに沁みて、博士と1号は顔を合せると同じ表情で小さく笑った。
『大好きだよ、ずっと』