「今夜はお越しいただきありがとうございました」
「こちらこそ良き夜をありがとうございました。それから、ご婚約おめでとうございます」
一通りのやり取りを終えて最後の馬車が門をくぐる。馬車の明かりが闇に消えていくのを見送った後で、パーティーの主催者は「マリア」と傍らに寄り添う婚約者に呼びかけた。
「体調はどうだい。長く立っていて疲れただろう」
「もうこのくらいなら大丈夫よ、ジル」
そう言われてもやはり心配で、早く屋敷にと促すが「もう少しだけ」と微笑まれる。
「こんなに星がきれいな夜だもの。なんだかもったいなくて」
薄桃色の瞳が映す先を追って見上げれば、雲一つない星空が広がっていた。昔マリアンヌに逢うのを耐えて、瞬く星に首をもたげた頃をふいに思い出す。
自身の特殊能力を知ってこの国の上層部になるべく努力していたあの頃は、死後にマリアンヌと同じ星空に昇れたらと願っていた。死に別れた片割れを追って不死のもう一人も星座になった、双子座の神話のように。
「ああ、本当に」
大罪を背負う自分では、と今は思う。
例えあの頃の願いが叶わなくとも、彼女と共に同じ夜空を見上げることができる今がジルベールは何よりも愛おしかった。