その相性は占わずとも「おや。ステイル様にしては珍しい分類の書物ですね」
ステイルが姉妹との休息時間を終え、ヴェストの執務室に戻ってすぐのこと。ジルベールの指摘にそういえばとステイルは瞬間移動で部屋に移すことを忘れていた本の存在を思い出した。
「ええ、まあ。先程ティアラから是非にとすすめられたもので」
表面上はにこやかに返し、ステイルはその本を手に取った。ヴェストがいる手前、目ざといジルベールを特に理由なく睨みつけるのは控える。普段目を通す機会はない分類なのは本当だった。
執務室を出た時は本を二冊手にしていたステイルが今しがた自分の机に置いた本は三冊。うち二冊は持ち出し可の王配業務関連の資料だが、増えた一冊は星座にまつわる書物だった。
ヴェストが懐かしそうに目を細める。
「星座か。ティアラらしいと言えばティアラらしい」
「姉君が花言葉に詳しいのに影響を受けてか、ティアラは最近星言葉を覚えることが楽しいようで。ここ数日の休息時間は星の話が多くなりました」
星座を構成する星にはひとつひとつに星言葉がある。星座の神話にからめて楽しそうに語るティアラはいきいきとしていた。プライドも自分も特に止めることなくティアラの話に耳を傾けているため、今では二人してそれなりに星に詳しくなったとステイルは思う。
「良き休息時間をお過ごしになっているようで何よりです」
ジルベールに微笑ましげな目で見られて「お陰さまで」と返す声が若干低くなる。本心から言っていることはわかるため、条件反射のようなものだった。
そんなステイルの気配を察してジルベールは一度ヴェストを振り向く。このまま今度はからかっても良いが、それはヴェストがいない時にすることにした。
「星座と言えば。女王陛下も昔はそちら関連の書物をよく図書館から借りられていた時期がございましたね」
「そうだな。ローザも星座にまつわる神話に興味を持っていた」
「その名残で図書館は星関係の書物が更に充実するようになりましたねえ」
母上も、とジルベールの言葉にステイルは瞬きを繰り返す。意外なような、なんとなく納得のいくような情報だった。
ジルベールより先に同じことを思い出していたヴェストは頷き、記憶をたどる。休息時間の残りまでもう少しあった。若干ローザに恨まれる話題のような気もするが、このくらいはと口を開く。何より、ローザと姪の共通点を思いがけず耳にした微笑ましさが勝った。
「書物が増えたのは星とその神話、あとは……星占いの類だったか」
「星占いですか」
今度こそ意外でステイルがぽつりと呟く。プライドもティアラも占いを娯楽として楽しむことは多々ある。以前二人が図書館で開いた星関連の本の中には、ローザも読んだ本があるかもしれなかった。
「外れている箇所はさておき、当たれば楽しそうにしていたな。……プライド達はどうだ」
「星占い、というよりも占い全般を好んでます。ティアラは相性占いがあれば必ず確認していました」
「ああ、先日ティアラ様がまさに相性占いの本をお見せくださりましたね。私とマリア、ステラの相性を占っていただきました」
「占いはあくまでも占いだが。……さて、そろそろ執務に取り組みなさい」
時計の針が時刻を示すのとほとんど同時にヴェストが会話を終わらせる。ステイルとジルベールも返事と共に書類に目を落とした。
「待たせて悪かったな。この書類はこちらで引き受ける。処理したらステイルに持っていかせるから、その後は王配業務補佐に専念してもらって構わない」
「とんでもございません。それでは失礼いたします。──ステイル様、それでは後ほどお待ちしております」
「ええ、後ほどよろしくお願いいたしますね、ジルベール宰相」
小さく走った火花は見ない振りで、ヴェストは粛々と書類にペンを走らせる。ローザが星座占いにのめりこんだきっかけが、ティアラ同様相性占いだったことはあえて言わないことに決めていた。
それを話せば、ローザがアルバートとの相性占いの結果に一喜一憂していたことも話さなければいけなくなる。