「ちょっと待ってよ、あしゅっ」
「やめろ老温…腕を掴むな、馬鹿力め」
「今朝の約束は?」
「さてな…一体なんの話だ」
「ん」
「おまえ…口を突き出して何の真似だ」
「目を閉じたほうがいいかなと思って」
「でれでれした顔で何を言ってるんだ?」
「蕩けた顔と言ってくれ」
「うん…?」
こてん、と俺が首を傾げると。
何故か老温は自慢げに胸を張る。
「これは恋する男の顔だぞ」
「は?」
「阿絮からの口づけを心待ちにしてる男の顔でもあるがな」
「…威張って言うことか、それは」
「今朝、私はいい子に待てをしただろう?」
「……」
「ご褒美をくれる約束を忘れたとは言わせない」
「お前が勝手に言ってた気がするが」
「わかったわかったって言ったのは阿絮だよ」
「百歩譲ってそうだとしても」
「事実だけどね」
「だとしても、褒美の内容は聞いてない」
「ご褒美だぞ?私が喜ぶことに決まってる」
「で?」
「口づけして、阿絮」
「直球だな」
「そして今朝の続きをしよう」
「おい、要求が増えてるぞ」
呆れて俺は眉を顰めたが。
構わず老温は目を閉じて唇をきゅっと結ぶ。
「ん」
「…老温。俺はするとは言ってない」
「ん」
「…しつこい」
「ん」
「…ふっ…」
「ん?」
「すまない…唇を突き出したお前の顔がなかなか愉快で」
「んっ」
「ねばるな、老温」
「んー」
「…俺が口づけするまで続ける気か?」
「ん」
「くくっ…わかったよ、俺の負けだ」
「ん…ぁ」
「ふ……」
「…あしゅ」
「続き…するか?」
「いいの…?」
「いい子に待てをするお前がかわいかったからな」
だからいいぞ、と続けるはずだった俺の言葉は老温の口に喰われて消えて。待てを終えた男は獰猛な笑みを浮かべたのだった。