好きなもの「阿絮は天気なら何が好き?」
「…は?なんだ、急に」
「考えてみたら阿絮の好きなものをあまり知らないなと思って」
「そうか?」
「私が知ってる阿絮の好きな物は酒と日向ぼっこぐらいかなぁ」
「知ってるじゃないか」
「他にも知りたいと思って」
「それで何故天気なんだ?」
「とりあえず空が目についたから」
「適当だな」
「で、どうなの?阿絮」
「お前は?」
「私?私はもちろん晴天だよ。晴れ渡った空は気持ちいいよね」
「なるほど」
「あーしゅー…私が質問したんだけど?」
「んん?…俺は…そうだな…」
「えっ…そんなに考えること?」
「…晴れは好きだぞ。お前と酒を酌み交わして、くだらない話で笑ったことを思い出すから」
「くだらない話って…」
「人の名前を何度も呼ぶ酔っぱらいとの話だ」
「あれは…それなら阿絮だって私の名を呼んだじゃないか」
「俺も酔ってたんだろうな」
「へー…幸せに酔ってた?」
「ふっ…」
「ん?」
「ははっ!」
「そこは老温格好いい!って惚れ直すところじゃない?」
「くくっ…やめろ、これ以上笑わせるな…」
「阿絮は笑いすぎ」
「お前がおかしなことを言うからだ」
「そんなつもりはないけどなぁ…じゃあ、阿絮が好きなのは晴れの日だね」
「いや、曇りも好きだぞ」
「えっ…?」
「ぶ厚い雲の隙間から、いつ太陽が覗くのかと思うと少しわくわくしないか」
「…確かに雲の合間から陽の光が見えるのって幻想的ではあるね。阿絮に後光が差したのかと思った時があったよ」
「俺は神仏か」
「それぐらい神々しかったってこと。阿絮だって私に後光が見えた時とかないの?この美貌だよ?」
「自分で言うな、ずうずうしい」
「笑って怒られても説得力がないぞ」
「質問に戻るが」
「逃げたな阿絮」
「俺はな、老温。晴れも曇りも好きだが雨も好きだ」
「えぇっ…?それって結局全部じゃないか」
「駄目か?」
「だめではないけど…雨は何がいいのさ」
「雨が上がったらお前が笑う」
「…………んん?」
「それに雨上がりは虹が見えるかもしれないと成嶺がそわそわしてるのが可愛いな」
「……えぇと」
「もちろん雨自体も好きだぞ?雨音も独特な雨の匂いも俺は嫌いじゃない」
「あの…阿絮……?」
「だが音もせず降る霧のように柔らかな雨もいいな。幻想的で、気分が少しばかり浮き立つ」
「まって…お願いだから、ちょっと待って阿絮…」
「ん?」
「はじめのが気になって阿絮の雨を好きな理由が全然頭に入ってこない…」
「はじめの?」
「………私が」
「お前が?」
「……私が、笑うって」
「…………」
「…………」
「ふっ……」
「笑うなっ、あしゅ!」
「だってお前…真っ赤だぞ?」
「阿絮がおかしなことを言うからだ!」
「別に俺はおかしなことを言ったつもりはないが?」
「…じゃあ、どういう意味」
「言葉のまんまだぞ?雨が上がったら、これでようやく太陽が見れるって嬉しそうに笑うじゃないか」
「えっ…?」
「俺にはそんな顔に見えた」
「阿絮の想像…!?」
「あと、これで洗濯物が乾くぞーとも喜んでたな」
「…あぁー…それは確かに言った記憶があるけど」
「好きだろ?晴れが」
「……好きだよ」
「だから俺の想像は間違ってない」
「阿絮が強気すぎる…」
「実際、笑ってるのも見たことがあるしな」
「私、そんな顔をしてた…?」
「してた」
「…よく見てるね、阿絮」
「お前が好きだからな」
「っ………!!!」
「俺の一番好きなもの、知ってるだろ?」
「もうっ…!知ってるよ!!」
「これを言わせたかったんじゃないのか、老温?」
「そういうとこ…!」
「ん?」
「私だって大好きだよ!阿絮が一番!!」
「俺もお前が大好きだよ、老温」
「あぁぁぁ……」
「どうした」
「そんな綺麗に笑って言うなんてずるい…阿絮は何度私を惚れなおさせたら気が済むの?」
「さぁな。お前がしわくちゃになっても気が済まないかもな」
「私がしわくちゃになっても阿絮は口説いてくれるんだ」
「口説く…なぁ。口説いたことになるのか、これは」
「なってる。私は口説かれた」
「くくっ…そうか、ならお前は?」
「うん?」
「お前は俺を口説いてくれないのか」
「…言ったね?阿絮」
「老温?」
「阿絮には、これからじっくりたっぷり私の好きなものを教えてあげるから」
「…お前、ちょっと笑顔が怖いぞ」
「気のせい気のせい」
「あー…藪蛇だったか?」
「なに?阿絮」
「老温」
「うん」
「…程々で、な?」
なお、阿絮の「な?」の言い方が老温にはめちゃめちゃかわいく見えて余計に煽ってしまったことを阿絮は知らない…。