「またこの部屋か…」
「でも此処は前みたいに扉がないね」
「散々な目にあったってのに何でまた…」
「阿絮」
「……あ?」
「私の話、聞いてる?」
「なにか言ってたか」
「えぇっ…酷いよ阿絮…」
「で、どうすれば出れるんだ……あぁ、また卓の上に紙があるな」
「なんて書いてある?」
「……此処はいいふうふの日をしないと出られません…?いいふうふの日をすれば扉が現れます…って。いいふうふ?」
「んー…夫婦って結婚した二人のことを言ってるのかな」
「…俺とお前で結婚?」
「私と阿絮はもう夫婦のようなものじゃないか」
「老温…どさくさに紛れて手を握るな…あと必要以上にくっつくな」
「でもこれってつまり良い夫婦をすればいいんでしょ?仲良くするのが正解じゃないかな」
「…………」
「ちょっと阿絮…そんな嫌そうな顔をしないでよ…私が傷つくだろ」
「……はぁ……で?」
「ん?」
「それなら何をする?」
「やってくれるの…?」
「此処から出る為には仕方ない…力づくじゃ無理だと分かってるからな」
「じゃあ………はい!」
「…なんで座って手を広げる?」
「私の膝に座って、阿絮」
「はぁ?」
「仲良いところを見せなきゃ」
「……………」
「あーしゅー」
「……わかった」
「此処ね、ここに座って!」
「分かったから少し落ち着け……これでいいか?」
「うん………あー…阿絮からいい匂いがする」
「おい…あまり首筋に顔を近づけるな」
「夫婦ならこれぐらい当たり前じゃない?」
「…だが扉は現れないな」
「まだ足りないのかも」
「老温」
「ね…口づけしよ?阿絮」
「言うと思った…」
「阿絮はそういう顔をすると思った」
「じゃあ、まずは指先からだな」
「えー………」
「俺からするからお前は動くなよ」
「ん」
「……………」
「……ふふっ、くすぐったい」
「…指先じゃダメか」
「そうみたいだねぇ」
「ならば次は額だ」
「なんだか照れくさいね」
「少し黙れ」
「はいはい…分かったからそう睨むな」
「…………」
「……また駄目みたい?」
「…そうだな」
「次は頬?」
「あぁ」
「………ん」
「どうした」
「阿絮の唇があったかい」
「…うるさい」
「でも残念。やっぱり扉は現れないみたいだ」
「…唇か」
「私からする?」
「お前は動くな」
「阿絮がそう言うのなら」
「…………」
「……え…?それだけ?」
「立派に口づけだろ」
「触れただけじゃないか…そんなお子さまみたいな口づけじゃ夫婦とは認められないと思うけどな…ほら、扉もないし。やっぱり私から…」
「動くな」
「あしゅ…?……っ…」
「…ふっ………」
「ぁ………っ……」
「………ん……」
「あしゅ……っ…んん!?ちょっ…なんで唇を噛むのさ!?」
「はぁ……お前からは動くなと言ったはずだ。それに口づけは正解じゃないみたいだからな」
「だからってそんな離れなくても…」
「さて、どうするかな…」
「あーしゅー…」
「まさかとは思うが…」
「あ、それは私も思った」
「…まだ何も言ってない」
「でも口づけが駄目なら…次は共寝じゃないか」
「うわっ…!?」
「えっ…?」
「……寝台が現れた?」
「ということはやっぱりこれが正解…?」
「……………」
「……………」
「おい…まて老温、それ以上は近づくなっ」
「どうして?近づかなきゃ共寝ができない」
「…本気でする気か?」
「阿絮は私とでは嫌…?」
「だから顔を近づけるな…!」
「…最後までしなくても肌を合わせたら認められそうじゃないか?」
「老温…!」
「私は阿絮がいい…こんな状況でも相手が阿絮じゃなければ絶対しない…」
「…別に、嫌と言ってるわけじゃ……」
「あしゅう…すき」
「………………」
「お前が嫌がったら絶対に途中で止める…誓ってもいい」
「……そうしたら出られないかもしれないんだぞ」
「その時はまた考えよう。それに私が阿絮にやめないでくれって懇願されるぐらい気持ちよくすればいい話だ」
「…よくまわる口だな」
「優しくする…阿絮」
「…老温」
「ん?」
「俺だってお前以外となんて考えられないからな…」
「ほんと?阿絮も私としたいと思ってる?」
「言わなくても分かるだろ」
「阿絮の声で聞きたい」
「…………思ってる」
「あーしゅー?」
「しつこいぞ、老温」
「聞かせてよ阿絮」
「こんな時ばかり甘えた声を出すな」
「師弟には優しくしなきゃでしょ?」
「まったくお前は…」
「んん?」
「………好きだよ、お前が。だからしたい」
「阿絮…!」
「…………あ」
「え………?」
「「扉がある…?」」
正解は気持ちを伝えあう、でした。