「またこの部屋か…しかも十個だと…?」
「前は一番好きなところだったのにね」
「なにを呑気に構えてるんだ…好きなところを十個だぞ?」
「うん、余裕だよね」
「……老温」
「なに」
「お前…本気で言ってるのか」
「え…もしかして阿絮は私の好きなところを聞かれて十個思いつかないの?」
「……………」
「阿絮?」
「……………顔と身体と性格?」
「……………」
「老温?」
「疑問形な上に何でしかめっ面なんだ…!それに物凄く適当に言ったな!?」
「そう言われてもな…他に何かあるか?」
「あーしゅーっ!」
「だったらお前はどうなんだ、十個も言えるのか」
「もちろんだ。阿絮の好きな所ならもっと増えても構わない」
「じゃあ聞かせてもらおうじゃないか」
「いいぞ。これは一番好きな所を聞かれた時にも言ったが、まずは顔だろ?それに絹のように滑らかな黒髪も好きだ。手入れさせてもらうのが私の楽しみだからな…無駄な肉のない引き締まった身体も、美しい肩甲骨も、抱きしめたら折れてしまいそうな細くしなやかなその腰も…」
「ちょっと待て老温」
「ん?どうした阿絮」
「いちいちお前の感想はいらないし肩甲骨と腰は身体に含まれるだろ」
「でも別々で数えられてるみたいだぞ」
「何故そんなことが分かる?」
「阿絮の後ろの壁を見てみろ」
「………五と十?」
「左側の数字も最初は十だったが、私が阿絮の好きなところをひとつ言うたびに数字が減っていったんだ。つまり私は五つ言ったことになるんじゃないか」
「…随分と雑な判定だな」
「私はまだまだ言えるぞ」
「だったら身体以外ではないのか」
「あるに決まってるだろ」
「例えば?」
「まて…どれがいいか少し考えさせてくれ」
「……(選ぶのに迷うほどあるとか嘘だろ…どうしたらそんなに思いつくんだ?)」
「……よし。分かった、決めたぞ。言ってもいいか?」
「あ、あぁ…」
「私はな、お前の声も好きだ。特にその声で名を呼ばれるのが一等好きだし、厳しく見えてもちゃんと師弟を導ていてくれる優しいところもいい。それに阿絮の戦う姿も私は好きなんだ。体術の美しさはもちろん、白衣剣を振るう姿は軽やかで、まるで空を舞っているかのようで…」
「まて老温」
「ん?今度は何だ、まだ残り二個あるぞ」
「…やはり俺から言わせてくれ」
「それは別に構わないが…阿絮…もしや照れているのか?」
「…照れてなどいない」
「しかし耳朶と頬のあたりが…」
「いいから聞け」
「……(肌が白いから赤くなるとすぐ分かる…やはり照れているな。阿絮のそんな可愛いところも私は好きだな)」
「何か余計なことを考えてないか」
「まさか」
「顔がにやけているぞ」
「気のせいじゃないか?私のことはいいから…今度は阿絮のを聞かせてくれるんだろ?」
「茶々を入れるなよ」
「わかった、善処はしよう…さぁ、聞かせてくれ」
「…そうだな、まずはお前と同じく顔だ。それから手触りのよいその髪に、鍛えられた身体と俺を呼ぶ声…それに面倒見がいいところや優しいところに、お前の戦う姿も俺は好きだ」
「ちょっと待て阿絮」
「なんだ」
「それは私の言ったことをなぞっただけじゃないか…?」
「しかしちゃんと数えられているぞ。残り三つだ」
「…なんだか釈然としないんだが」
「まぁ続きを聞け…あとは酒好きなところもいい。ふたりで飲む酒は格別だからな…それから、お前が俺の為に着物を選んでくれるところも好きだ」
「えっ…?」
「お前が選んでくれた着物は俺も気に入ってる」
「…それは初めて聞いたぞ」
「言ってないからな」
「気に入ってくれてたんだ…?」
「あぁ」
「…そうか」
「それと最後のひとつだが…」
「…うん」
「俺を見つけてくれたお前が好きだ」
「……………」
「……………」
「………あーしゅう」
「どうした?なんで顔を手で覆ってるんだ」
「それは卑怯だろ…」
「なんのことだ」
「……(そんな綺麗に笑うなんて!心臓が口から飛び出すかと思った…)」
「老温、赤くなった耳朶が隠しきれていないぞ」
「…楽しそうだな、阿絮」
「お前の反応を見るのは楽しい」
「阿絮が意地悪だ…」
「お前が先に始めたことだろ」
「私は自分の気持ちを素直に口にしただけなのに…」
「俺だってそうだぞ?嘘は言ってない…なんにしろ、これで俺は十個だな。お前は残り二個をどうする?」
「……(なにその得意気な顔!あぁもうっ、阿絮ってば格好いいのに可愛いし大好き!)」
という感じで…温周にはベタに互いの好きな所を言いあってほしい。
最後に阿絮がキュンとするような告白を老温がすることができたかはご想像にお任せしますw