「久しぶりだね、この部屋も」
「あぁ…まぁ指示にさえ従えば出られることは分かっているからいいんだが…今回のこれはなんだ?好きなところしりとり…?」
「待って、多分あの卓の上に置いてある紙に説明があると思うから…えぇと……うん。好きなところしりとりっていうのは互いに相手の好きなところを言いながらしりとりするみたい」
「それはかなり難しくないか?」
「細かい規則は私たちで決めていいみたいだけど…あと罰ゲームの内容も話し合って此処に書けってあるよ」
「そうか…とりあえずそのしりとりをして罰ゲームとやらをすればいいなら、適当に終わらせて簡単な罰にすればいいな」
「そうだね」
「……おい、老温」
「んー?」
「お前、何をしてる?」
「罰ゲームの内容を書いてる」
「待て。なにを勝手に決めようとしてる…?あっ…」
「あ…紙、消えちゃったね。それにほら、壁の字に罰ゲームが追加されたよ」
「…負けたほうが勝ったほうへ自ら口づけをする…だと?」
「簡単でしょ?」
「老温…」
「で、あとは適当に勝敗をつければいいと…ちなみに私は負ける気はないからね、阿絮」
「…俺も負ける気はない」
「え?適当に終わらせるなら阿絮が負ければいいだけだよ?」
「気が変わった…お前の書いた罰ゲームのせいでな…」
「ふふっ…じゃあ、真剣勝負だね!どちらから始める?」
「お前が勝手に罰ゲームの内容を決めたんだから順番は俺に選ばせろ」
「いいよ。先攻と後攻、どっちにする?」
「俺は後攻でいかせてもらう」
「わかった。じゃあ私からだね…まずはどうしようかなぁ…」
「はやくしろ」
「うーん…だったら、笑顔」
「『お』か…」
「笑顔に反応はなし?」
「考え中だから黙っててくれ」
「本気だね、阿絮」
「……………」
「あーしゅー」
「…分かった。美味しい料理をつくれるところ、だ」
「えっ…?」
「なんだ」
「私の料理、美味しいと思ってくれてたんだ…」
「うまいと言ったはずだが」
「…少しはお世辞が入ってるのかなぁって」
「俺は世辞なんて言わない」
「うん…嬉しい」
「そのにやけた顔はやめろ…『ろ』だぞ」
「阿絮の言葉は嬉しいけど…『ろ』はなぁ…それだと何々なところ、で『ろ』が大量発生する予感しかないんだけど」
「だったら降参でもいいぞ?」
「そんな簡単に終わらせるなんてつまらないじゃないか。だから…そうだな。この場合は美味しい料理の『り』でもいいことにするのはどうだ?」
「……まぁ、それぐらいならいいだろう」
「じゃあ『り』だな…これは簡単だ。凛々しいところ」
「ならば『い』でもいいというわけだな」
「うん」
「……俺に一途なところ」
「……ちょっと待って阿絮。なんで『俺に』をつけたの…?」
「間違ってるか?」
「…ッ…間違ってないけど…!」
「ならいいだろ」
「…そんな可愛い顔で言うなんてずるい」
「なにか言ったか?」
「言ってないよっ、もう…そしたら私は『ず』だね…え…?『ず』……?」
「降参か?」
「いや、考えるから待って…『ず』………?」
「そういえば時間制限は決めてなかったな。あまり長く悩むようなら…」
「分かった、ずっと私をあきらめないでいてくれたところ…!」
「なっ…(ずっと、だと?そんな使い方があったとは…)」
「阿絮?…(驚いた顔してるけど、これって内容に関してじゃないよね…ちょっと残念だな)」
「ならば今度は『い』か…『い』………いつも俺に似合う服を選んでくれるところ…?」
「え…なんで疑問形なの、阿絮」
「捻りだした」
「そうは思ってないってこと…!?」
「いや、ちゃんと思ってる…多分」
「あーしゅーっ…!」
「ほら、いいから次へ進めろ。服の『く』か、選んでくれるの『る』のどちらでもいいから」
「………じゃあ、『く』で私と苦楽を共にしてくれるところ」
「なら俺は苦楽の『く』で……屈強な身体…?」
「だから何で疑問形…!?」
「細かいことは気にするな。ほら、身体の『だ』でも濁点をなくした『た』でもどちらでもいいぞ」
「私に選ばせたら誤魔化せると思ってるでしょ、阿絮…」
「今は勝敗をつけるのが先だろ?老温」
「…わかった。分かったよ…『だ』か『た』ね………じゃあ、大腿」
「だいたい…?」
「ふとももってことだよ」
「…老温」
「苦情は聞かないよ。屈強な身体とか言った阿絮には言われたくないし」
「…わかった。『い』だな。それなら…一緒にいると幸せなところ」
「…………」
「ん?どうした、俯いたりして…何だか顔が赤くないか?」
「分かってて言ってるでしょ…」
「うん?」
「いじわる…」
「聞こえないぞ、老温?」
「いや、いい…私は『せ』だな。それなら世界で一番かわいいところだ」
「…………は?」
「世界で一番かわいい…阿絮が」
「…大の男に使う言葉じゃないな」
「いいんだよ、私がそう思ってるんだから」
「……………」
「あれ?阿絮も顔が赤くない?」
「気のせいだ…次は『い』……また『い』か…」
「降参する?」
「いや、まだだ……まだある」
「なに?」
「…いつも言葉で愛を伝えてくれるところ」
「…(何これ何のご褒美…?恥ずかしそうに言うなんて反則じゃないか!?もう負けても悔いはないな…悔いはない、けど…)」
「どうした、お前のほうこそ降参か」
「いや、次も愛の『い』でいく」
「まだ『い』で何かあるか?」
「…一鍋との思い出を私にくれたところ」
「…(ここで一鍋のことを持ち出すだと…?クソッ…はにかみながら幸せそうに言うなんて反則じゃないか!?このしりとり、恥ずかしすぎるだろっ…もう負けてもいい気がしてきた…)」
「阿絮は思い出の『で』か『て』でいいぞ」
「…だったら、手が大きいところだ。また『い』だぞ、老温」
「いつも膝枕をしてくれるところ」
「…いつも?」
「頼めば阿絮はしてくれるだろ」
「それはちょっとこじつけじゃないか」
「膝枕をしてくれる阿絮が好きだから私にはありだ」
「…わかった。じゃあ俺は『ら』か……『ら』………」
「今回のしりとりで『ら』は初めてだな」
「……………」
「阿絮?降参?」
「……老温」
「なに?」
「だから老温だ」
「私の名前…?」
「響きが好きなんだ…(俺だけが呼べる名だというところもな…)」
「しりとりのやり方、知ってるよね?阿絮」
「知ってる」
「私の名だと『ん』がつくよ?」
「俺の負けだな」
「…いいの?」
「お前の名以外に思い浮かばないから、いい」
「ッ……あしゅっ…!!」
感極まった温客行は周子舒に抱きつき、そのままの勢いで口づけをしてしまうのだが。周子舒からの口づけではなかったが為に勝負は無効となり、再びしりとりを行わなけらばならない状況に陥ってしまう未来を――――この時の二人はまだ知らない。