夏の誘惑 蝉の鳴き声が鬱陶しく汗が額にまとわりつく。遠くの景色ががぐわんぐわんと歪み、足取りが重くなる。耐えきれずハンディタイプの扇風機を取り出した。しかし、こんな暑さではなんの足しにもならないかもしれないと、取り出しながらファウストは思った。
隣で歩いてるネロがこちらを向いて
「あっ! それ今流行ってるんだよね! いいなーファウスト。 」
と羨ましそうに言った。
「叔母がくれたんだ。暑いだろうと言って」
「私もやってみていい?」
キラキラした笑顔を浮かべながらネロはこちらを見ている。きっちりと制服を着ているファウストとは対照的にネロは制服の襟のボタンを二つほど開けていて、決して細すぎず白い太ももが見えるほどにスカートも短い。そして、滴り落ちる汗が首元をつたうのが見える。その水滴が彼女の色っぽさを増し、ファウストはドキッとしてしまう。恋人としては心配になってしまうほど彼女は魅力的なのに本人は無自覚なのだ。
断るつもりなど毛頭ないが、すこし、すこしだけネロにいじわるをしたくなってしまった。可愛い彼女を僕のなかに閉じ込めてしまいたい、そんな顰めている欲がじわじわ溶けだしてしまう。
「涼しくなりたいの?それなら僕の家に来ればいい。」
ファウストはネロの目をじっと見た。
するとネロは思ってた答えとは違う言葉が出てきて驚いたのか少し目を見開いた。そして、
「えっ、ほんとに?」
すこし動揺しながら答える彼女が愛しくて思わず手を取って抱きしめたくなってしまった。顔がほんのり赤いのもきっと夏の暑さだけのせいではない。だって彼女はファウストが一人暮らしをしていることを知っているのだから。
「ネロ。」
ファウストは立ち止まり、またネロの方を向いた。彼女の片手を握り、
「すまない、可愛い君を見ていたら少しいじわるをしたくなってしまった。」
「かっ、かわい、、なんてそんな」と
もじもじしながらぎゅっとファウストの手を握り返した。そして
「結局ファウストの家、行っちゃだめ、なの?」
とうつむきながら答えた。
そんないじらしい姿を見てだめと言うはずもなく、ファウストは彼女を握っていた手を離し、彼女の頬に両手を添えた。
「ファウスト、私汗かいてるから!」
そう言って咄嗟に退けようとするがファウストは離さない。
ファウストはおでこを彼女と重ねながら
「もちろん、一緒に帰ろう。」
そう言ったあとファウストはネロをそっと抱きしめた。
「んふぁっ、ファウスト!」
「ふふ、いい匂い」
顔を埋めると、柔らかな感触ととともにネロの心臓の鼓動が聞こえてきた。
「ファウストのえっち。」
ネロが瞳をうるうるとしながら物欲しそうに言うので、
「これからだよ。」
と彼女の耳元で囁いた。
「んっ、」
くすぐったかったのかネロは肩をすくめこれからのことに少し緊張しているようだった。先程よりさらに顔を赤らめており、ファウストの心をかき乱す。
ネロの緊張をほぐし、自分を落ち着けるためにファウストは微笑んでまた彼女の手を握り、帰り道をふたりで歩き始めた。