いつかその時の瞬間まで夜も深くなった頃伸びる2つの影が扉の前で止まる。
毎晩マスターを寮室まで送るのがドライゼの日課になっていた。
名残惜しそうに振り返る姿を見るのが毎日の楽しみでもある。
「また明日」
こう言い合えるのはあと何回来るのか。
俺はいつまでこうしてこの姿でいられるのだろうか。
貴女を愛おしいと一瞬たりとも離したくないと。
欲を言えば貴女を永遠にこの腕の中で堕としたいと。
そう思ってしまう心がいつか来る最期を暗いものにしてしまう。
俺は革命戦争のドライゼのように悔い無くその役目を終わらせることができるのだろうか。
「ドライゼ…?」
「…!すまない考え事をしていた」
扉の前で微動だにしない俺を見て不思議そうにマスターがこちらを見ている。
「何か気になることでもあった?」
「いや。何でもない。まだマスターともっと一緒に居られたらと思っていた。思っていたのだが…ただ…」
「ただ?」
歯切れ悪く視線を外した俺をマスターは覗き込む。
「逃がさない」とでも言いたげな表情をするマスターに俺は負ける。いつだってそう、彼女に勝てないところ。
「一緒に居られるだけですむだろうか…我慢できるのだろうか…と…」
俺のこの欲望を貴女は求めてないのではないか。
俺の独り善がりになっているのではないか。
そんな不安が目まぐるしく俺の中を駆ける。
マスターはむーっとして目を反らす
「私だってもっと一緒にいたいしその先の事だって…」
少し照れた表情でぽつりと呟いたその一言を聞き逃すはずなんてない。貴女から発せられる言葉は一字一句全てだ。
なんだ。そうか。
マスターも俺と同じ欲望を持って。俺を求めて。
俺の独り善がりじゃない。この腕の中へ堕ちてこようとしてくれているのか…ならば…
「ああ。それならもう我慢しなくていいんだな」
マスターを部屋の中へ押し込むと後ろ手に鍵をカチリと閉める。
目の前のマスターが目を白黒させている姿が可愛らしいと愛おしいと絶対に離したくない…と。
先のことを考えるのはもうやめることにしよう。
今は2人の今だけの幸せと喜びだけを。
欲望を隠すことはもうしない。ふわりとキスを落とし抱き抱える。
夜はまだまだこれから…と揺らぐ2つの影が闇夜に倒れこんだ。