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    krbslv_kan

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    krbslv_kan

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    仇追人いつも通りの日常、今日も沢山の人間を見た。
    得られるものが見た人間の数だけあった。
    が、どうにも納得いっていないことが一つある。

    家を荒らされた形跡がある。窓が開いている。恐らく今すぐ外に行けば犯人を捕まえられるかもしれない。だがこの建物のオートロックを解除してまで忍び込んできた人間だ。一人で追ったとて逆に自分が危険に晒される可能性がある。

    「あーあー…聴こえていますか?数日以内に必ず犯人を特定します。明日も寝床で安心して眠れるとは限りませんのでそちらはご了承くださいね。」

    盗聴器を仕掛けられていたら、と考えて発した言葉だがその独り言があまりにもバカらしくなった。その日は部下に車で迎えに来てもらい家に泊まることにした。

    「ストーカー…かあ、ていうか復讐じゃないか?あんたに恨みがある人間の。」

    「ふむ…心当たりは星の数ほどありますから特定は難しいですねえ。私に近しい貴方には何もなかったのです?」

    「俺には特に。日中気をつけているが変わったことはない。」

    「ならターゲットは私で間違い無いですね。」

    「後ろの荷物は何なんだ?貴重品だけ持ってくりゃあ明日以降にでも運び出せばいいじゃねえか。」

    「あれは…私の見てきた掛け替えの無い物達の結晶ですよ。」

    「はぁ?」

    「詰まるところ今まで会って見てきた人間の記録です。貴方もありますよ。後で見ます?」

    「…いやいい。気色悪いな。」

    「褒め言葉として受け取っておきます。」

    「はぁ…。」

    彼の名前は白場賢人。私の部下、もとい取引相手でもある。
    腕の立つ格闘家で裏の世界のリングで戦っていた戦士だったが、彼は対戦相手を殺したことにより大会主催者の組織に捕縛されていた。
    ところを私が買い取った。
    私が連絡を入れた時必ず答えること、命に換えても私を守ること。
    報酬として金を彼に渡すことによって成り立っている仕事の関係。でもまあ、お金というのはこの世で大概のものに代えられる価値があるものだ。私にはその良さがあまり分からないから都合のいい利害関係だ。

    「犯人を捕まえたらどうするんだ。」

    「ふむ…そこまでは考えていませんでしたね。どうしたらいいと思います?貴方の意見を聞かせてください。」

    「そりゃ、そういうこと二度とできねえように殺すしかねえだろ。」

    「勿体無いですねえ、私に執着する物珍しい人間なんですから泳がせておいて観察したいものです。」

    「じゃあそうすりゃいいだろ。何で聞いたんだ。」

    「短気ですねえ…しかし貴方、こんな時間に私を家に泊めていいんです?」

    「そういう契約だろ。いつ何時でもあんたの要望には応えるっていう。」

    「ですが、彼女が家にいたりしたら流石の私も気まずいのでねえ。」

    「チッ余計なお世話だ。」

    「そう言わずに。偶には浮いた話の一つや二つ聞かせてくださいよ。」

    「ねえよ。あってもあんたなら誰よりも先に知ってるだろ。」

    「ふふ、そうですねえ。」

    「何ニヤニヤしてんだ。」

    「失礼。思い出したのですよ、私の職場にストーカーされた経験のある若者がいたんです。」

    「…あんたがよく話すふじ…なんとかだろ。」

    「藤波司君ですよ。彼ねえ、学生の頃に出会していて、結局ストーカーしてたのは…。」

    「友達の所属してた不良集団、だろ?」

    「あれ、知ってたんです?」

    「あんたがその情報を知った時嬉々として喋ってきてたからな。あそこまで上機嫌だったのは珍しい。」

    「彼、どうやって切り抜けたと思います?」

    「引っ越でもしたんだろ。不良ってのはバカだから追えねえだろうしな。」

    「違いますよ、ヤクザの家に銃を盗みに行ったんです。」

    「はあ?」

    「そしてその銃を持って不良集団を潰しに行ったんです。」

    「…頭がおかしいな。今あるリスクを回避するために更なるリスクを負ってる。」

    「ですよねえ、滑稽ですよね、頭が良いはずなのに。なのでヤクザの家にでも行きましょうか?」

    「バカ言え。あんたが頭おかしい行動をしてもヤクザから攻撃されてないのはヤクザ自体に攻撃をしてないからだ。そこを弁えて行動してくれ。」

    「冗談の通じない人ですねえ。」

    「…どうとでも言え。」

    その日から私の家と彼の家を往復し次の住居を見つけるまで居候していた。
    念の為、私の人間観察記録は貸金庫に移した。これが、これだけが私の生きがいだから。
    と、同時に自分の自宅に侵入した者の身元が判明した。お世話になっている情報屋に聞いたら最も容易く特定してくれた。

    侵入した者の名前は井形正吾。
    名前だけ聞いたら十分だった。
    彼は放火の罪で警察に捕まっており、先日仮釈放されたようだった。

    何処で出会ったか毎に冊子を分けてかな順で人物の情報を書いたルーズリーフを入れていく。いつ見ても私の人間観察記録は惚れ惚れする。
    ああ、彼もとても美しい人間の一人だ。
    なんたって私の人生の岐路に立つ人物でもある。

    話は遡り私が生まれた家は宗教だった。
    良く言えば仲間同士の結束が強くその宗教を抜け出そうとする者を引き止める力も強い。
    彼はその宗教を嫌がり何度も抜け出そうとしていた。
    だから私は彼に生き残るための助言をした。

    「後一回脱走しようとしたらこの組織は貴方を殺しますよ。」

    その言葉をかけた瞬間彼は青ざめていた顔でぶつぶつと何かを唱えながら去っていった。
    そして打って変わって改心したように見えた彼は監禁生活を終えた。行動の制限もなくなり皆も安心していた。
    そして彼は、宗教の根城に火を放った。

    美しかった。

    燃え盛る彼の放った怒りの炎は私が人生の半分以上を過ごした建造物を、人々を次々と飲み込んだ。

    その彼が私に何の用なのか、自分から会いにいくことにした。

    「倍の料金払ってくれりゃ俺が会いに行って単独で殺してもいいんだぜ。」

    「嫌ですよ。そんなお金持ちじゃありません。それに対話がしたいんです。彼ほど美しい人間はいませんから。」

    「…。あんたの感性はどうかしてるぜ。」

    「そうですか?」

    そんな無駄話をすること数時間。
    彼は帰ってきた。

    「あ…あ?」

    「お久しぶりです。井形さん。元気でしたか?」

    「せ…れな…?」

    「はあい。貴方の世礼那ですよ。」

    「………。」

    「どうしたんです井形さん。私はお客さんですよ。お茶でも出したらどうです?」

    「あんた…。」

    「黙っていてください。対話の邪魔です。」

    「てめえ…!」

    「井形さん、出所おめでとうございます。」

    「…!危ねえ!」

    「おっとぉ…体捌きが俊敏になってますね。刑務所で筋肉トレーニングの時間があるってのは本当の話なんです?あははは。」

    「お前の……せいで………!」

    「井形さんの入った刑務所のご飯は美味しかったですか?意外と美味しいところもあるみたいなんです。次はその刑務所に行けるように私が斡旋してもいいんですよ?」

    「お前のせいで!ムショ入りなんかして!殺してやる…!殺してやる!」

    「沖合!こいつを殺すぞ!いいか!?」

    「ダメですダメです、手足を折って出来るだけコンパクトに生かしてください。話がしたいです。」

    「……俺を地獄に放り込んでおいて…自分はまた新しい男とちちくりあってんのか?いいご身分だな…。」

    「ふむ…不愉快ですね。そもそも私は貴方が生き残る為の助言をしたまでですよ?」

    「助言…だと…?」

    「ええ。ええ。貴方があのまま宗教に身も心も売れば良かったのに、貴方自身が選んで燃やしたんでしょう?あの場所を。」

    「…………。」

    「あははははは、すごく、傑作でしたよ。貴方が今まで見てきた人間で一番美しかった!あの瞬間だけは!」

    「…死ね………死ねえええぇぇぇぇ!!!!!」

    瞬間、白場が井形の首を掴んだ。

    呆気ないものだ。

    「貴方じゃ、足りませんでしたねえ。」

    「ぐる…しい………はな……せ…。」

    「物足りないのですよ。端的に言うと言うと貴方、馬鹿なんです。」

    「う………あぁ………。」

    「私より馬鹿な人間に私は殺せませんよ。そんなこともわからなかったんです?ガッカリです。でも楽しかったですよ。私を想ってくれたんですよね。ありがとうございます。」

    「………………………。」

    「……そろそろ離してあげたらどうです?死んでますよ。」

    「…そうだな。」

    「もう、殺してしまうと後処理が面倒なんですから。」

    「…。」

    「折角ですから、藤波君の使った処理場に行きましょう。ふふふ。」

    井形を車に乗せ処理場に向かって処理をした。
    どうにも呆気ない。
    何かを見落としている気がする。

    そう、彼が私の家のオートロックを解除出来るほどの知能を持っているとは思えないのだ。
    別の人間が介入しているに違いない。
    ああ、やはり人生とは飽きない。突然過去自分に恨みを持った人間が自分を殺そうとしにくる。実に十二年越しにだ。
    素晴らしい。これが、人生だ。

    「なあ、思ったんだが…。」

    「はい?」

    「あいつが侵入した奴なら、最初に家に入った時あんたを殺せば良くないか。」

    「…確かに、そうですね。」

    「あんたも、一杯食わされたな。」

    「くく…やってくれますね、あの情報屋。まだ敵はいる、ということですね。」

    「こりゃぁ俺らが安心して夜も眠れそうにないな。」

    「…!」

    「どうした?」

    「いえ…。そうですね、飽きないです。人生というものに。」

    「やっぱりあんたはおかしいよ。」


    いつだってそう、この世界はどんなに身近な人間でも敵である可能性で溢れすぎている。
    ああヒーロー、私を助けに来て。
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