矢辺琉気と藤波司 前編中1の春から夏頃二人は出会う。
この時中3のヤンキー先輩に虐められていた矢辺琉気を2、3度藤波が助ける。
この頃から矢辺は藤波に興味を持つようになる。
「何で俺を助けるんだ?」
「暴力は法律で禁止されてるからだよ。」
弁護士の父を持つ藤波、幼い頃からその手の知識が多く勿論頭も良く運動神経も良いおまけに天性のリーダー気質。所謂スクールカーストのトップ中のトップにいた。
一方母親からのネグレクトからの失踪で施設に入った矢辺はまず一般常識すら知らずルールもしらない。
日本語は話せるものの読み書きがかろうじてできる漢字はほとんど書けない状態。
この藤波の圧倒的な知識量その人間に興味を持って師となっほしいと懇願したが藤波から却下され友達となる。
二人が共に行動するようになって(矢辺が藤波の後ろをついて回るようになって)からと言うもの、矢辺は孤立していたクラスから段々と受け入れられ始めた。
そして事件は起きる。
藤波が進路について母親と揉めている頃、藤波の家に矢辺が遊びに来るようになった。
「お前さ…、突然うんことかしねえよな?」
「藤波は俺のことなんだと思ってんだ?…これが藤波の家か?」
「ああ。」
「庭にうんこしていい!?」
「犬かテメェは。」
何回か家に呼んでいた。
そして、とある問題が起こる。
「矢辺君…っていう子と付き合うのはやめなさい。あの子施設の子なんでしょう?あんまり良い噂は聞かないし。」
母のこの発言に対して反抗して言い合っていた声を矢辺が降りてきて聞いてしまう。
「おばちゃんと仲悪いのか?」
「…進路のことで色々揉めてるんだ。」
この時藤波は母親が良い教育を受けさせようとしてること、父親のようになることを望んでいることにうんざりしていると矢辺に話した。
事件が起きたのは後日、藤波が矢辺を家に呼び遊んでいる時、矢辺がトイレに行くと下に降りた。
そしてリビングに入り家事をしている藤波の母親に矢辺は殴りかかった。
その母親の悲鳴を聞き付け藤波は何があったのかと急いで下に降りるとそこには母親の上に伸し掛かる矢辺が。
咄嗟に矢辺を掴んで突き飛ばし、母親を匿うように位置取る。
「矢辺!!お前何やってんだよ!!」
「だって…ウザいんだろ…?だったら力で解らせればいいじゃん…。俺、女になら勝てるよ…。」
「ふざけんな!!…お前もう二度と家に来んな。」
「は?」
「二度と俺と俺の母親に近づくな!」
「え、え、なんで、俺は、藤波、藤波の為に…。」
「さっさと出ていけよ。」
矢辺は呆然と家を後にした。
「やっぱりおかしいわよあの子…。」
「…。母さん。」
「だから言ったでしょ、あんな子と付き合うのはやめなさいって。碌な事に…」
「母さん!!」
「…何よ。」
「ごめん、今回は俺が謝る。だから矢辺の事許してやってくれないか。」
「はぁ…?こんな事されたのにまだあんた…ー!」
「あいつさ、まだ子供なんだよ。右も左もわかんねえ。」
「だからって…。」
「俺がこうやって成績が良くて友達も居てって学校を楽しめてるのはさ、全部母さんや父さんのお陰なんだ。」
「…。」
「俺はこの家に生まれて運が良かった。…あいつは運が悪かっただけなんだ。」
「司…。」
「だから、俺は、あいつを変えられると思ってる。…バカだよな、わかってる。でも俺はあいつが普通に学校に通い出したのを見て変われるんじゃ無いかって思った。」
「…。」
「だから、あいつを許してやってくれないか。」
「…好きにしなさい…。でも、あんたが誰と付き合おうともうどうでも良いけど、もう家に入れないでね。」
「…わかった。」
藤波は母と矢辺をどうするかについて深く話し合った後、その後も通常通り学校に行った。
が、矢辺が声掛けても藤波が答えない事に違和感を感じた周りの人間は、次第に矢辺と口を聞かなくなっていった。
「なあ藤波、矢辺となんかあったん?」
「別に、俺の取ってたプリン勝手に食われて喧嘩しただけ。」
「なんだそれ、幼稚かよ。」
あの日の出来事について、藤波は頑なに喋らなかった。
その事に矢辺はまだ何かやり直せるんじゃ無いかと藤波の友達を呼び出す。
「…どーしたん?矢辺くん。」
「藤波と…仲直りしたい…。」
「そもそも何で無視されてんの?ガチでプリン食ったとかじゃないでしょ?」
矢辺は全てを話す。
「あー…それはどう考えてもお前が悪いわ。」
「俺は、藤波の為にやろうとしただけだ!あいつが母親の事嫌ってたから、」
「んーじゃ分かりやすいように話すね。もしも母親の立場が藤波で君の立場が俺だったらどう思う?」
「…?」
「あー…えっと、今矢辺くんが無視されてる事に俺が怒って、藤波に殴り掛かったらどう思う?」
「それはダメだ!藤波は間違ってない、俺が間違えたから殴っちゃいけない!」
「矢辺くんがやったのはそう言う事。」
「…。」
「藤波とお母さんの間にも、矢辺くんが知らない話や事情がいっぱいある。生まれてきてからずっと一緒に居た人だ。」
「なる…ほど…。」
「わかったなら何より。」
「どうやって謝ればいい?」
「…そうだな、俺だったら、君の大切な人を傷つけようとしてごめんなさい、二度としないからまだ友達で居てくれますか…とかかな?」
「…わかった。」
矢辺は走り出し、藤波の元へ向かう。
「藤波!!!」
「…矢辺。」
「ごめん、俺が悪かった!!」
「何が?」
「え、っと、藤波の母さんを殴ろうとしてごめんなさい、俺はもう二度としないから、また、友達になってくれないか…?」
「…。」
「あ、あ、…ごめん、おれ、まだ謝らなきゃいけない事あるんだ…。」
「何?」
「俺、藤波に謝りたかったんだけど、悪いって分かってるんだけど、」
「うん」
「でも俺、すっげえわがままで、藤波の母さん殴った事より、自分の居場所が無くなる事が怖かった…。」
「…。」
「すげえ、自分勝手だよな、ごめん、俺は先輩に殴られてるのがお似合いだってのに…本当に…」
「いいよ、お前を許す。」
「え…。」
「許すっつってんだバカ。謝るにしてもそんな素直に言われちゃ許すしかねえだろ。」
「本当にいいのか…?」
「ああ。」
「まだ、友達でいていいのか…。」
「ああ。」
「うっ………………あり、がとう、ありがとう、藤波……。」
こうして仲直りした二人はまたいつもの様に共に歩く。
そして、数ヶ月が経った頃、
突然矢辺との連絡が途絶えた。
心配になった藤波は、矢辺が住む施設に向かう。
矢辺の部屋まで通してもらい、その部屋で見たのは窓ガラスが割れており如何にも強盗か何かに襲われた跡だった。
施設長に話を聞き、数日前に夜中窓が割れる音がして慌てて窓の外を見たら藤波と同い年位の男二人が矢辺と思われる人物を引きずって車に投げ入れたと。
今警察に捜索願いを出しているところであるがまだ受理されておらず警察からの連絡を待っていると言う状態だった。
藤波は部屋を漁り、矢辺とヤンキー集団の写真を見つける。
これをもとに藤波はネットで調べ場所を特定し、その場所へ向かった。念の為と火炎瓶を持ち。
藤波の思い通り矢辺とそのヤンキー達はその場所にいた。
そして、そのヤンキー達と矢辺が離れた瞬間を見計らって藤波は矢辺を救出する。
「藤波…?」
「矢辺、走れるか。」
「何で、ここに…。」
「いいから行くぞ!」
「…ありがと…藤波。逃げねえの…?」
「…まだだ、手負いのお前じゃあいつらが追いかけてきたらすぐ捕まる。」
「オイ!矢辺が居ねえぞ!」
「あぁ!?アイツが逃げたのか!?」
「藤波、それ…。」
「シッ。」
藤波が、火炎瓶をヤンキー達の後ろに投げそれに気を取られている内に矢辺と共に完全に脱出した。
「お前、何で捕まってたんだ?」
「俺にもわかんない…けど、前藤波が警察に送った二人が戻ってきたらしくて…多分それの腹いせ…。」
「……住む場所、変えねえとな…。」
かくして二人は帰路についた。
その時既にヤンキーが見張りをしており二人は路頭を彷徨っていた。
藤波は母親と矢辺を家に入れない事を約束しており家に泊めることはできない、と思い次の施設に移るまで矢辺に住み込みのバイトをしないかと提案する。
矢辺も藤波が一緒ならとその提案を受け入れる。
藤波は矢辺に一泊分の金を渡し、自宅に帰る。
次の日から藤波は部活を体調不良と偽り矢辺と共にバイト探しをしだす。
当然、中学生を雇うとこなどない為年齢詐称をしながら保護者の証明など必要のない場所を探す。
探し続けていると老夫婦が営んでいる老舗居酒屋で働かせてもらえることになった。
一般的な居酒屋と比べれば時給は安いが、住み込みで働いても良いと言ってくれたところはここしか無く二人にとっては願ったり叶ったりの奇跡だった。
矢辺がその老夫婦にお世話になる事になり藤波は以前のような事件を起こさないよう再三注意して矢辺もそれに納得したようだった。
が、藤波の中にはまだ不安があった。
もし、次の施設が見つかるまでの間矢辺を追う奴らがまた襲撃してきたらどうする。
恐らく矢辺が住む家の事を知っていたからあの施設を襲撃できたのはわかっている、が、やはり注意すべき行動はストーキング。
藤波が矢辺を救出した際怪我の治療など終え施設に戻った頃には既に待ち伏せしていたのだ。
その為施設に留まることができずこうして矢辺が住居を転々とせざるを得なくなっている。
藤波と矢辺が通う中学校の先輩が居る時点で学校からストーキングしこの老夫婦の居る家に辿り着くのは容易い。
そこまで警戒せずとも、と考えるがそれは違う。奴らはわざわざ矢辺の家まで行き再び矢辺を仲間に戻そうとした。それぐらいの執着があった。
その藤波の予想は当たり、いつも通りに学校帰り例の居酒屋へと向かっている途中、藤波は何者かが追ってきていることに気がつく。
咄嗟に最寄り駅の方向へ向かい矢辺に遅れると連絡をさせ電車に飛び乗り追手を巻くことに成功した。
その日は通常通り業務を終え、藤波は矢辺の部屋に泊まることにした。
その時藤波の頭の中はかつて無いほどの思考を張り巡らせていた。
この先どうして矢辺を不良集団と関わらせなくするかについて。
「藤波ぃ、お前寝ないの?」
「…。」
「俺は寝るよ?」
「矢辺。」
「んー?」
「…いや、何でもない。」
「何、お前もしかして、難しいこと考えてんだろ。」
「…。」
「俺になんか聞いてみれば良いじゃん…バカだから役に立たないかもしれないけどさ。」
「矢辺、彼奴ら潰すぞ。」
「え?」
「お前のいた不良集団。」
「……。」
「気が乗らねえか?」
「あの人たち…強くて、怖い。」
「そいつらから逃げ回って過ごすのと潰してこの先の人生謳歌するのはどっちがいい。」
「難しいことはわかんねえよぉ。」
「少なくとも俺はこの先の人生の不安材料は先に消しておきたい。」
「…。」
「選べ、信じるのは俺か、俺以外か。」
「…………。」
「なるべく早く答えだせ。俺は帰る。」
「待って!」
「…。」
「藤波を、信じる。」
一方、老夫婦の元で働き始めて藤波の母親は息子に対して不信感を募らせていた。
「司。」
「…。」
「あなた、最近部活に行ってないんですって?それでこんなに帰りも遅くて。」
「関係ないだろ。」
「関係なくないでしょ!私はあなたの母親よ?何をしているのかだけでも教えてちょうだい。」
「…。」
「言えないの?もしかして矢辺君?」
「ちが…。」
「はあ、そうなんでしょう。あのね、矢辺君と付き合うのはあなたの勝手って言ったけどそれで成績落としたりしたらどうなるかわかってるわよね?」
「…!」
「あなたにはいい学歴を経て安定した生活を手に入れて欲しいの。わかるでしょ?」
「うるさい…。」
「何?」
「母さんはいつもその事ばっかりだ、俺は父さんじゃない!いい大学を出て、いい生活して!それだけが本当に幸せな生き方かよ!?」
「…。」
「父さんの真似事を俺にさせるのはやめてくれ。俺は父さんじゃない。俺の人生は俺のものだ。」
「司、聞いて。」
「…。」
「司、違うの!私はあなたに父さんの真似事をさせたい訳じゃない!」
「…?」
「確かに小さい頃、そういうふうに言ったかもしれない。父さんみたいになってほしいって。」
「…。」
「でもね、そうじゃないの、今あなたに望んでいる事は違う。」
「何が違うんだよ。」
「私のように、なって欲しくないのよ…。」
「は…?」
「今まで、子供にこんな話をするのは怖かった。けれど司、私は貴方の父さんとは違ってとんでもなく頭が悪くて、生きていく力がなかった。」
「…。」
「お父さんの家系、代々弁護士だったり、公務員だったりとてもしっかりした家系なの知ってるでしょ?」
「ああ。」
「私は、風俗店で働いていたわ。体を売るしか生きる道がなかったの。」
「…!」
「そこで働いてた時、お客さんとして来たお父さんが私を見つけてくれたわ。」
「父さんと同じ職場で出会ったって…。」
「嘘よ。子供にこんなこと話せないじゃない。」
「…。」
「だから、父さんの両親や親戚の人達に私はよく思われてなかった。父さんもね。」
「…。」
「結婚するってなった時、父さんは家族の反対を押し切って私との結婚を選んだから、父さんは今でも家族と絶縁してるのよ。」
「…。」
「…貴方、私の両親には会ってるけど父さん方の親戚に一度も会った事ないでしょ?それは、私のせいなの。」
「なんで、今そんな事を…。」
「私は父さんと出会ってなかったら、こんな恵まれた生活はできてなかった。」
「…。」
「一生夜の店で働いて、若くなくなったら捨てられて、野垂れ死んでたかもしれない。」
「…。」
「そう、ならないように少しでも安定した道を進んでほしいのよ。だから、父さんの様になれなんて言わない。」
「………………。」
「司、」
「わかったよ、わかった。」
「司…!」
「俺は必ず県内で一番偏差値が高い公立に行く。それを約束するから、今は俺のすることに目を瞑っていてくれないか。」
「…できるの?」
「やる。母さんは知らないかもしれないけど、俺成績全然落としてないよ。ほら、今日テスト帰ってきたんだ。」
「…!」
「俺は大丈夫だから、母さん。」
「やっぱり…父さんの子ね…。」
「…父さんに言われて、もう受験勉強始めてるしね。」
「そんなに早く?貴方まだ一年生でしょ?」
「…頭いい人ってただ頭がいいんじゃなくてさ、人より早く物を知るだけなんだよ。父さんはそれがわかってて仕事終わり俺の勉強見てくれたりしてた。」
「そう…ね…。その話も聞いてたけど、こんなに早く進んでるとは思ってなかったわ。」
「…。」
「あなたなら大丈夫ね。司。」
「ああ。信じてくれてありがとう。」
母親との不安が払拭され、藤波は本格的に不良集団を潰すための作戦を立てる。
こちらの人数は二人、どう考えても正攻法で勝てるはずはなく、どんな事になっても対応できる様保険は何重にかけておいても損はない。
藤波の立てた作戦はこうだった。
ストーキングしている不良を捕まえて相手の正確な人数や住む場所の情報を得て、不良集団を完全に潰すまでは拘束する。
拘束がバレるまではこちらもゲリラ戦仕掛け続ける。
ゲリラ戦において藤波が設けたルールは三つ。
一つ、必ず敵が一人の時に仕掛けること。
一つ、藤波矢辺二人が揃っている場合にしか仕掛けない。一人の場合は不良集団の誰を見つけても逃げに徹すること。
一つ、ゲリラ戦を仕掛けたら必ず足を狙い機動力及び戦闘力を奪うこと。
やがてゲリラ戦も通用しなくなってくる。
その場合は二人で相手の本拠地に乗り込み、交渉をする。
これ以上危害を加えられたくなければ二度と矢辺には近づかない事。
ただ、それだけ。
二人は、平穏を望む為戦争を仕掛けることになる。
藤波の立てた作戦は、本人も驚く程順調に進んでいった。
所詮中学生そこらの喧嘩だ。世間への不満を募らせてただ集まり我武者羅に八つ当たりしているに過ぎない。藤波が慎重すぎだった。最も、それが功を成したのだが。
この出来事は藤波矢辺が二年に上がる頃だった。
いよいよ最後の正念場。
二人で相手の本拠地に乗り込む。
「…矢辺と…お前は誰だ?」
「お前ら如きに名乗るもんなんて持ってねえよ。」
「はは!それもそうか。ここまでやられてるんだもんなぁ。」
「…。」
「だが中坊、あまり舐めるな。お前が潰してきたのは下っ端に過ぎねえ。こんな所に二人で乗り込んでどうするつもりだ?」
「交渉をしたい。」
「交渉?」
「こちらの言い分を聞いてくれれば俺達は二度とお前らに危害を加えない。」
「ククッ…いいぜ、聞かせてみろ。」
「矢辺に二度と近づくな。」
「…!」
「答えは?」
「……………はは、ははははは!!!」
「何がおかしい。」
「お前、まさかそんな事の為にこのゲリラ戦を仕掛けたってのか!?」
「あ…?」
「まさか、そのチビの為に、俺たちに喧嘩を売ったってのかよ!!お熱いねぇ!!友情ごっこってのは!!」
「…。」
「矢辺ぇ、賢くてお強い友達の影に隠れてねぇでなんか喋ったらどうだよ。」
「………。」
「言っておくが中坊、お前がそこまでする価値はねぇよ。そのチビには。」
「お前らには関係ねえだろ。」
「あるね。俺はそのガキが豆見てえな時から面倒見てやってんだ。そいつは使えねぇただの腐れチビだよ。」
「………。」
「お前が、お前らがそうやってまともな人間扱いしねえからこんな事になってんだろ?臭え豚小屋で育ててくれてどうも感謝してるよ。」
「……お前、生意気だなぁ。俺は本当は期待してたんだぜ?このチームをここまで追い込んだのが唯の中坊二人だったことに。」
「だからなんだ。俺の提案を受け入れるのか?」
「まぁそう急かすんじゃねえ。お前、俺のチームに入らねえか?」
「は…?」
「俺の、側近になれよ。…………今だ。」
小声でリーダー格の人物が言い放った時、彼の後ろにいた仲間が一斉に動き出す。
リーダー格の人物がニヤリ、と藤波に目線を送った時、その仲間達が一斉に動きを止めた。
「動くな!!!!!!!」
「おいおい、お前ら何で止ま……。」
「お前も動くんじゃねえ。」
「はは、どうせオモチャだろ。ほらほら撃ってみろよ、」
パン、と言う甲高い音と共にリーダー格の脚が撃たれる。隣で一緒に戦ってきた矢辺ですら困惑していた。
動くな、と彼が手に持っていたのは
拳銃であり、本物だった。
二週間前。
どう考えても作戦の二人で乗り込む部分だけが不安材料だった藤波は考えていた。
以前作った火炎瓶等では物足りない。
己の戦闘能力を過信してはならない。
そう考えた藤波は海外通販でとあるものを頼む。
それはモデルガンだった。
そして、藤波は地元では有名な暴力団組織に目をつけていた。
あろうことか藤波はその団員の一人を付け狙い自宅に侵入し、その男が持つ拳銃とすり替えた。
モデルガンとすり替えたのは早く気付かれない様にする為、そして、この行動によりもう一つメリットが付いてくることに藤波は気がついた。
「これは、とある暴力団組織の一員から拝借した物だ。」
「ふ、ふざけんな!嘘に決まってる!こんな、ただの中坊が拳銃なんか貰えるわけ…!」
「嘘じゃねえよ現物が目の前にあんだろ。バカか。」
「ひっ…。」
「矢辺、アレを出せ。」
「…!あ、わかった。」
そこに置かれたのは何やら文言が書かれている紙と、朱肉だった。
「何だよ、これ…。」
「誓約書だ。二度と矢辺と俺に近づかないっていうな。」
「こんなもん、ただの口約束だろ!」
「いいや、誓約書は大事な物だ。もしお前らがこれを破った場合裁判を起こしお前らを有罪にする事ができる。」
「………。」
「書かねえってのか?」
「………。」
「中坊にここまでやられて、悔し涙も出ねえか。だがお前に書かないと言う選択肢はない。」
「はっ…いや、お前は撃てない。俺が従う義理はねえ!平穏な日常を求めてんだろ!?ならここで俺を殺したら殺人罪!お前だよ!刑務所行きは!」
「そうだな、俺は殺さない。が、一つ言っておくがある。これは譲り受けた物じゃない。俺が買ったモデルガンとすり替えただけだ。」
「は?」
「これがバレれば俺は締められる、最悪殺されるかもな。」
「…。」
「だから俺は気付かれねえ内に返すつもりでいるんだ。」
「だから、なんだよ…。」
「俺はお前の住所を知っている。」
「!」
「そういや、お前身分証ちゃんと持ってっか?」
「は、そんなもん…まさか!」
「悪い、この銃の持ち主の家に置いて来ちまったわ。」
「…………お前!!!!」
「手出しできるか?俺に。」
「くっ……!!!」
「持ち主の家を知るのは俺だけだ。これを返せるのは俺だけだ。これを返さなかった場合、狙われるのは…誰なんだろうな。」
「く…………そがあああぁぁぁ!!!!!!」
こうして藤波と矢辺は不良集団との取引きを成功させた。
藤波のあまりにも周到な準備に迎え撃つと選択した不良集団のリーダーは対処しきれなかった。
この事件は不良の中で瞬く間に有名になった。
数ある不良集団の中で、中堅ぐらいのチームだった為に、それを二人の男子中学生が潰したのだ。
その中学生二人は今回の作戦の成功に一息つき、胸を撫で下ろしていた。
「やっと終わったな。」
「……藤波が銃を持っているなんて知らなかった。」
「まーな。お前に報告する必要なかったし。」
「…。」
「これでやっと、お前は不良から足を洗えるよ。」
「なあ、藤波、何で俺なんかのためにこんなにしてくれるんだ?」
「…なんでだろうなぁ。」
「え。」
「一度、俺がお前を変えてやりたいって思ったんだ。」
「…。」
「学校にも、不良達の中でも居場所が無かったお前に、同情したのかもしれない。」
「藤波…。」
「俺が一度決めたことだ。とことんお前の面倒は俺が見てやるよ。」
「うっ……。」
「あ、おい!?泣くなよ!!矢辺!」
「うぅるさぁい……お前が優しすぎるのがいけないんだぁ……。俺にこんなに優しくした人今まで、…一人も…ひくっ、いながったのにぃ……うっ。」
「………そうかよ。」