物騒な村来「死体は全て沈めました」
「有難う、鋼」
「……、」
でも、良かったんですか?来馬先輩。その言葉を村上は飲み込んだ。埠頭の向こうに船の汽笛が長く音を立てている。カモメが五月蝿く鳴いていた。コンクリートで固められた岩壁に波の打ち寄せる音と、繋ぎ止められた漁船のぶつかるごとごとという音が静かに響いている。空が赤く染まり、来馬の横顔をオレンジ色に染め上げていた。
地獄の果てのようだ、と村上は思う。
この人は自分の手を汚さずに、だが敵対する全ての相手をこうして海に沈めてきた。穏やかな海はどこまでいっても平和だ。この平穏が、死体で埋め立てられた地面の上に成り立っていることを、来馬のほかに村上しか知らない。知らないように、来馬が取り計らっていた。そうするのだと決めた日の悲壮な瞳を、多分村上は一生忘れない。
人殺しが、上手くなった。
こんなことをさせてごめん、と初めて人を殺した村上の手を取って泣いた来馬の顔を、村上はこの先ずっと忘れない。SEなど無くとも、ずっと。
「行こうか、鋼」
来馬が海を眺めるのは、死者への弔いだと村上だけが知っている。その鎮魂歌を、いつか自分にも贈ってほしいと村上は思っている。最期の我儘を聞いてもらえるときになったら言おう、そう決めていた。