線香花火大きな花火も華やかで好きだけど、小さな手持ち花火もまた風情があって綺麗だ。
任務が一旦落ち着いて、たくさんの花火を買い込んで寮の前に集まる1年生に、メッセージを入れればノリノリで来てくれた2年生。
「ちょ…!俺の近くで火付けんなよ!可愛いもふもふが焦げたらどう責任とってくれんの?!」
「大丈夫だろ。ちょっとくらい」
笑い声が絶えない中、火をつければ火花が上がり、綺麗な火の粉を振り撒いていく。大量にあった噴出花火は笑顔と共にあっという間になくなっていった。
唯は少しだけその場を離れ、残りの手持ち花火を見る。まだいくらか残っているようだった。その中で一番端にあった線香花火に手を伸ばす。
向こう側では火の粉が舞い上がるラストの大きな花火を3つ並べて、一気に火を着けたようだった。
「わぁっ」
歓声が上がり盛り上がる中、さっきまで輪の中にいたはずの狗巻先輩が唯の隣に座った。
「ツナ?」
唯は持っていた線香花火に火を着ける。
「大きい花火も良いですけど…、線香花火も好きなんですよね」
線香花火の先に丸い火の玉が出来る。静かに火花を散らしていた。
「しゃけ」
耳に届くのはいつものメンバーのたくさんの笑い声。真ん中の花火からは大きな火柱が上がっていた。青、黄色、赤と色が次第に変わっていく。
唯の手元では、線香花火の小さな火花がパチパチと散っていた。
「…綺麗ですね」
でも少しだけ儚い、楽しい時の終わりを告げる線香花火。
唯は顔を上げた。
「あ、でもまだ手持ち花火もありますよ」
そう言って振り向けば、すぐ目の前には思い掛けず綺麗な紫色の瞳があった。目を見開く唯の顔に、ふわりと掛かる狗巻先輩の髪。洗い立ての石鹸の匂い。
瞳を閉じた狗巻先輩の唇が、静かに唯の唇に重なった。
「…………っ」
線香花火の球が落ちる。パチパチと散っていた火花が一瞬で消えていった。
柔らかな唇はすぐに離れて行く。何事もなかったように狗巻先輩は立ち上がって、唯を見た。
今になって煩く鳴り出す心臓に。頬がかっと熱くなる。
狗巻先輩は呪印の入った口の端を持ち上げて、ニコリと笑う。人差し指を一本立てて、自身の口元に当てた。
“ ナイショ ”
End***