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    #じゅじゅプラス 七
    ※死ネタではありません。

    七から遺書が届く話ナナミン夢 遺書

    私が七海さんのことを苗字ではなく、下の名前で呼べるような間柄になった頃、それは届けられた。
    大きめの封筒で宛名は私。差出人は七海さんだった。
    メールや電話では都合の悪いものなのだろうか。
    私は訝しみながら封を開いた。
    中からは数枚の書類が入っていて、1枚目には手紙が添えられている。
    『これをあなたが読む頃、私はこの世にはいないでしょう』
    見慣れた几帳面な文字で書かれた言葉に私の体温はスッと下がった。
    頭の中が漂白され内容を理解することを拒んだ。
    それでも目だけは先の文字を追っていく。何かを探すように。願うように。
    そこには側にいられなくなったことを詫びる言葉と、自身の有する資産を私に譲り渡すためにいくつかの書類を同封したと書かれていた。
    その言葉に導かれるように書類の束を捲ると、役所に提出するための書類が、きちんと必要事項を記入されて揃えられている。
    再び手紙に目を戻すと、冒頭の言葉が冗談だったのではないかと思えるほど、事務的に今後の私の身の振り方をいくつか提案していた。
    それから、その言葉は書いてあった。
    『最後に、折に触れて何度も伝えてきましたが、伝えきれなかったと後悔しないように何度でも伝えたいと思います。私はあなたを愛しています』
    一分の乱れもなく綴られたその言葉に私は口元を覆った。
    全てが指し示す事実を受け入れられずに、私はスマホを手にしていた。
    履歴から番号を呼び出し、耳に当てる。
    コール音が鳴る度に心を削られるような気持ちで待っていると、それは唐突に途切れた。
    「ーーはい」


    「はああああぁぁぁぁ……」
    肺活量の高さを窺わせる長いため息を追えると、七海さんはやれやれと頭を振った。
    私に書類が届けられた直後、現実を受け止めきれなかった私は電話をかけた。
    七海さんが電話に出たことで誤解は解けたものの話してるうちにいてもたってもいられなくなり、七海さんの自宅に押しかけて手にしていた封筒を突き付けたところ、この反応である。
    「健人さん、これは一体どういうことなんですか……?」
    私の絞り出すような問いに七海さんは困ったように首を捻った。
    「簡潔に言うならば誤配です」
    「ご、はい?」
    「誤配達、誤配送、どちらでも。本来ならば、その封書は今届くべきではなかった」
    「つまり、これは……?」
    「お察しの通り、私の遺書です」
    遺書。予想していたけれど、その言葉に手にしていた封筒の重みが増した気がする。
    そこでふと封筒が届けられた経緯を思い出した。
    「……でもこれ、五条さんから『いっけなーい‼︎ 七海から渡しといてって言われてたの忘れてた‼︎ でも今届けたからセーフだよね☆』って気軽に渡されたんですけど……」
    「……あれだけ私の死後に渡して下さいとお願いしたのに……」
    七海さんが頭を抱えた。その心労は察するには余りある。ご愁傷様です……。
    「まあ、あの人のことだから、そんなことだろうと思いましたが……」
    気を取り直した七海さんが顔を上げた。
    「いずれにしろ既にあなたの手に渡ってしまったのですから、それはあなたが持っていて下さい」
    「え、でも……」
    封筒の中身を知ってしまった今、それは私の手には冷たく重くのしかかる。それが私のために作くられたものだとしても。
    遺書。それから連想されるものは、どうしても縁起の良いものではない。
    私は封筒を強く握り締めていた。すると私の手を七海さんの手が優しく包んだ。
    「確かにこれは私の死を予感させる不吉なものかもしれません。ですが私にとってこれは変わることのないあなたへの愛の気持ちなんです」
    真剣な七海さんの眼差しが慈しみを帯びて私を温める。私の深いところにまで訴えかける真摯な言葉だった。
    「愛の、言葉……?」
    「ええ。証と言ってもいいかもしれませんね。生涯、いえ、例えこの命が尽きたとしても、あなたを愛し続けるという証明です」
    普段、ここまで直接的に情熱のこもった言葉を七海さんは口にはしない。愛情表現は少なくないけれど、それでもこれほどのものは受け取ったことがない。
    つまり、それだけ本気だということだ。
    いつの間にか私の視界は滲んでいた。
    「受け取っていただけますね?」
    「はい……!」
    確かめるような七海さんの言葉に私はしっかりと頷いた。
    私は封筒を胸に抱きしめた。そんな私を七海さんは胸に引き寄せた。
    「本来ならば指輪を用意して伝えるべきだったのでしょうが……」
    「いえ、代わりになるものをしっかりいただいたので」
    そう。確かに遺書は七海さんの死を連想させるかもしれない。けれど過酷で危険な呪術師という仕事は常に死と隣り合わせだ。
    七海さんはそんな事実を見据えた上で自分の死後も私を思い続けると約束してくれたのだ。
    例え側にいることが叶わなくなっても、愛する気持ちだけは置いていく、と。
    そこまでの覚悟を見せらたら私だってその気持ちを返さないわけにはいかない。
    実際に“その日”が来たら悲しみに打ちのめされることもあるかもしれない。
    それでも七海さんが与えてくれたものを決して無駄にしないように必ず立ち上がらなければ。
    私は精一杯の誓いを立てるように七海さんにキスをした。
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