ハルシャルはらすめんとその日、屋敷の縁側でなんぞ溜息を吐いてぼんやりしている、屋敷主の弟子である青年が居た。
どうも今朝方「チィ」と喧嘩をした――というか一方的に乙女心を悪戯に揺さぶるような事でも言って怒らせた――らしく、妹分だと親しくしてきた娘から大きな紅葉を頬に頂いてしまったらしい。
ひりひりと痛む頬を治療もせずそのままにしている時点で、反省の色は見えるが、「何故」が分からない辺りがまだまだ朴念仁。
人生経験の浅い少年という面があるということなのだろう。
チィの世話が第一の使命、己の存在理由である。
だが仲間を認識する程度の知能はあるのと、チィがムネチカと出掛けている以上、彼女の世話が今は必要ないという理由の複合から、凹んでいる仲間を慰めるというモードに判断が切り替わった。
厨でユーリの目を誤魔化してちょろまかしてきた菓子のひとつを手に、青年へと押し出した。
「おういオシュトルどうした、一人で黄昏れて。ミカヅチも外へ元気に修行出ちまったから、留守してるのはおまえだけだぞ?」
「ああ、ハルか……ありがとうな……」
「オシュトルおまえ、どう落ち込んでても所作が綺麗なのは良い事だが、固いなあ」
「……ありがとうな」
目に見えて落ち込んでいる茜色の双眸は、へにょりと地面を見据えている。
あまり怒る事をしない暢気なチィが、朝食の席で顔を真っ赤にして着いてこないで!と言い放って怒ったのだ。兄分としては何が悪かったのかとうじうじ悩むくらいは青少年の健全な成長である。
頭脳明晰な機能がそう叩き出してうんうんと頷きながら、丁寧に菓子を口に運んでいるオシュトルの膝に乗っかると、ぺちぺちと二の腕を叩いた。
それでも簡単には気分は上向きにはならぬもので。
これは普段世話になっているのだから、少しくらいサービスしてやってもよかろう。そんな気紛れから、耳をパタパタと振り回して上目遣いに窺ってみせる。
「ほーれほれオレ様の魅惑ボディにメロメロになれオシュトル? 今日は特別にもふもふさせてやるぞ!」
「え、いや……女性陣は喜んでるが、同じ事を勧められても。だいたいハル、そんな事をして何か楽しいのか、おまえ」
「何をぉ? オレ様が女好きみたいな言い方するな! それはセクシャルハラスメントだぞオシュトル!! 仲間なのに失礼な!」
「せく……? はあわかった分かった、もうすぐ夜になるんだから少し静かにしてくれ……」
ぺちぺちとこちらの頭を叩いてきた手が、もふりと頭上の毛を掴んだ瞬間、少し固まった。
目をぱちぱちと瞬かせて数秒固まっていたオシュトルは、煩い口を黙らせようと口に添えていた手を軽く握ってくる。
どうも、思った以上に掌に感じるそれが、良い手触りだったのだろう。
もふ、もふり……
「おうその気になったか! さすが俺のキューティープリティなボディ……」
もふもふさわさわ……
「お、おいオシュトル? オシュトルさん?」
もふもふさわさわさわさわさわさわさわさわ
「ちょ、ちょおおおやめえええええ!! ぎぶぎぶぎぶうううう!!??」
ちりちりとオシュトルの掌とハルの間から摩擦で何かが燃える音がし始める。
「熱っ って、あ、ハル?」
「う、うううっどちくしょおおおお!!! オシュトルのイケずっ 莫迦やろおおおお!!!」
「え……えええ……」
「何やってますの、オシュトル殿……?」
「ただいまあ……あ、あれ? 今の、ハル?」