お年賀ワンライ【ライコウ&シチーリヤ】
足跡を必死に追う。
歩幅の違う――それ以前に歳が違い過ぎる上司は時を無駄にするのを好まない。その性質を知っている少年は必死に駆ける。ふと眼前の長い影が立ち止まった。
口元だけが困ったように彼が笑った。
「早く来い、夕餉に遅れるぞ」
「……はいっ」
早く大きくなれ、そう言いながら頭を撫でられた。
【ハクオロ&エルルゥ】
はい、ハクオロさん。いつもの口調が微笑んで粥の入った器を差し出してくる。
モロロの甘味と、微かに入れられた塩、そして煮込むヒトの腕が絶妙に良く混ざり合い、美味である筈――だった。
「ぐふっ え、エルルゥ……このモロロ粥、何だか苦味が……」
「何ですか? ハクオロさん?」
「お、怒っているのかい。昨晩のカルラとは何も……」
「全部食べてください。滋養に良い薬草を数種入れたんです。皇の為、ですよ?」
「……うう……本当に何でも無かったんだが……っっ ぐう……」
胃の調子は良くなった気がするのに、何故かハクオロのそれは暫くきりきりと痛んだ。
【ハク&クオン】
ひやりと僅かに背が震えた。帝都が温暖な地とは言え、夜はそれなりに冷える。
こっくりこっくり、船を漕ぐ。紙を広げた机に肘を着いたまま、被保護者である男が涎を垂らし掛けて寝息を落としていた。
この所、酷く外の仕事で忙しかったから、文字の練習も疎かになっていた。
今日はきちんと見てやらねばとそう思っていたが――娘は致し方ないとくすりと口元から笑みを溢した。
「お疲れ様、ハク。今夜はしっかり寝てね、明日は早起きしなきゃ駄目だから、ね」
ひょいと腕に抱え込んで彼の布団へと転がり落とす。
優しく耳元に溢した音に、寝言が少女の名を小さく呼んだ事に、尻尾をピンと立てて桜色に頬を染めた。
【キウル(青年)&ネコネ】
ぽかんと口を開けて固まった少女を見下ろす。空に透く茶の長い髪が揺れている様を見下ろすと、ああこの頃の彼女はどんなに頭が良くても、何処にでもいる快活な少女だったのだなあと、どこか微笑ましくなった。自然洩れたこちらの笑みを仰ぎみた娘はぴくりと耳と尻尾を立て、不精髭を蓄えた男の後ろに隠れてしまう。
耳の先と頬を幾らか赤く染めた幼子の亜麻色の髪を思わず撫でる。
「キッ、キウルのくせに、大きくなったからって生意気なのですっっ」
前置きもなく毛を逆立て脛を蹴り上げたネコネに声に為らない悲鳴を挙げる。そんなところまで兄分と同じ経験はしたくなかった、そう呟いて。