ムックルがいうにはインカラを落とすべく、食料事情とも戦いながら皆を戦乱へと巻き込んでいた頃のこと。
食料の配給を終えたエルルゥとハクオロのところに、きゅうきゅうと鳴くムックルがやってきた。
「すまない、おまえの言葉はアルルゥではないから分からなくてな」
「きゅう……きゅう」
少ないご飯を食べ終えたアルルゥに振り返ると、ムックルが再びなにかを訴えて啼く。
双子の様な仲の良さにハクオロとエルルゥがほんわかとして一時の癒しを得ていると。
「ムックル、お腹空いたって」
やはり大きくなる獣に、今程度の食料では足りないのだろう。
自明の理とはいえ哀れに思い、エルルゥはその白い頭を撫でながら、ごめんねと小さく溢した。
「皆の分が足りなくなっちゃうから、我慢してくれるかしら……って、きゃああっな、なにするのムックルっや、ちょっと!?」
「な…………っ……む、ムックルやめなさい! エルルゥに何をして、やめるんだ、おいっ」
一瞬棒立ちになり固まっていたハクオロが、エルルゥの悲鳴で我に返った。
ムックルが何故かエルルゥの懐に吸い付いており、側からすると猛獣が襲っている様にしか見えない。そんなムックルを見て、思いっきり動揺していたハクオロは、顔を赤くしながら慌てて鉄扇を振り回してムックルを引き剥がそうと駆け出した。
ぼかりと軽く殴られて我に返ったのかなんなのか。
アルルゥの元に戻ってしおれたムックルが、ぼそぼそと啼きだす。
「……かわいそう? かわいそう、だって、お姉ちゃん」
「……な、に?」
意味を反芻しきれず、いや脳が受け付けず、つい聞き返してしまったハクオロの後ろで、辺境の女のオーラが漂い始める。
「ムックル……ハクオロ、さん?」
「ひっ す、すまないっ私はなにも!」
「ぴいいいいっきゅううううう!?」
「ムックル!ハクオロさんも正座です!!」
「す、すまなかった!!」
「きゅうきゅうきゅうううう!!!」
「お姉ちゃん、おこりんぼ」
「アルルゥ!!」
この日から数日、ハクオロのご飯が気持ち減らされていたらしい。