こだわるやつはとことん「……運任せのゲーム……遊戯は苦手だったんだな。意外だ」
「……私は理路整然と考察し実行するのが任務ですので、聖上」
「いやそういうことを言いたいのではないんだが……まあ良い、それで、アルルゥの言う「罰」は実行するのか?」
「ええ、負けたらという、そういうお約束でしたので」
とある昼下がり。
たまにはと愛娘に強請られ、集まれる家族で神経衰弱、と呼ばれる古来の遊びに興じる事になった時のこと。
「一番ドベは、一番上がりの言うこと聞く罰をやる」
「おっ 小さな姐さんいい事言いやすね!」
「おいおい、あくまで問題にならない範囲の罰にしておくれよ?」
「ん!」
自信満々に頷いたアルルゥの頭をいい子だと撫でながら、さてどんな罰を願われているのかな、とハクオロは呟いた。
何となく蜂蜜色の視線がわくわくと父親を見ていたから、娘が一番ドベにしたいのが父であると言うのは分かっていたのだ。
きっと一日中甘えたいとかハチミツ狩りをしたい、そんなところだろうと思いながら遊戯を楽しんだところ――アルルゥがあっさり勘の良さで一番になるのは見えていたのだが、座り位置のせいなのか、アルルゥの次の手番になっていたベナウィがほぼ一組も取れずにドベとなったのだった。
「ま、まあ、アルルゥは勘が鋭いからな……」
「覚えていた札を片っ端から攫われましたからね……あれには参りました」
ほとほと呆れたように肩を竦めるベナウィの向こうで、むうっと優勝したようには見えない膨れ面を晒す娘の様子から、やはりハクオロにオネダリがあったのだなと理解する。
結局渋々と言った具合で娘がベナウィに求めたのは、意外なお願いだった。
「カミュとユズハと一緒に食べるオヤツを作って持ってこい、か。ベナウィ、料理はできるのか?」
「それなりには。野戦続きでの自炊経験くらいはありますので。まあどうにかなるでしょう」
「確かにクロウもあのなりだと言うのに、意外と肉くらいは捌いてマトモに焼けるからなあ。……まあ、無理のないようにな?」
「ええ、ありがとうございます。聖上」
てくてくと厨に歩いて行くベナウィを見送って、男は執務室へと戻って行った。
その数刻後である。
「おとーさん。ベナウィ、来ない」
「ん? ベナウィなら厨に……もう日が暮れてるじゃないか。夕飯の支度をエルルゥがしてる頃だな」
積み重ねられた書類に必死になっていたせいで気がつくのが遅れたが、明らかにおやつの時間など当に過ぎている。
何かあったのかと首を捻り、慌てて娘を連れて厨房へ向かう、と。
「わあ、ベナウィさんすごいですね……私自信無くなってきました……」
「ベナウィ殿、手先が器用なのだな……無駄なくらいに」
「いえ、作り方を教えてくださったエルルゥ様のお陰ですよ、おや、アルルゥ様お待たせしました」
「……なんだこれは」
「ベナウィ、すごい!!」
あっけに取られたハクオロの隣で、きらきらと目を輝かせるアルルゥが見たのは、厨の土間に置かれた大きな置物……否、ムックルの形をした飴細工だった。
「……これ、ハチミツか砂糖はどのくらい使ってるんだ?」
「先ほど山から採ってきました。自力で」
「……ああ、うん、おまえなら簡単だろうな……そうか」
「ベナウィすごいすごい! これカミュちーとユズッちに見せてくる!!」
「あっ アルルゥ走っちゃダメよ!!」
それなりの大きさの飴細工ムックルを抱え、風のように走り去っていく娘と姉を見送り、引き攣った笑いを浮かべたハクオロは、割烹着から袖を抜く男を見遣ってみせる。
「……ベナウィ……器用だが、こだわりすぎというかやり過ぎではないか?罰ゲームというのはもう少しこう、軽い……」
「いえ遊戯とはいえ全力でやって負けたのです。敗者として全力を尽くすべきでは?」
厨の土間できりっと顔をつくる男を見ながら、ハクオロはため息を落として一言。
「……頬に飴をつけたまま格好をつけてもな?」
「……それは、失礼しました」