陽だまりの憩いとある昼下がり。
トゥスクル城の縁側にて。
普段の書類の山に襲われている光景はなく――珍しく暇を持て余し、うとうととしていたハクオロは、少し前までの書類地獄から解放された気の緩みからか、そのまま寝入ってしまっていた。
ゆるゆると揺籠のように揺れる風を頬に受け、その涼やかさに人心地つく。
穏やかに降り注ぐ春の陽光を受けて、小さく寝息を落としていた男を――物陰から不意に見つけたのは、大き過ぎて茂みに隠れきれていないムックルと、その背に乗ってはしゃいでいたアルルゥだった。
「おとーさん? お昼寝?」
「グルゥ……ググぅ?」
とんとんと小さなもみじが肩を叩いて見せても、肩肘をついて床に転がったままの皇は起きる気配もなく、むう、と頬を膨らめた娘はふと思いついたように縁側の下に草履を脱ぎ捨てると、ぽてんと父の胸元へと転がり込んでみせた。
「えへへ、おとーさんとお昼寝。ムックルも、一緒」
「ウルルゥ……クル……」
のそのそとハクオロの頭よりの縁側に上がろうとした白い巨体が、床板に肉球を乗せると、きしりと縁側が悲鳴を上げる。
バキリ。
大型肉食獣が乗り上げることなど計算のうちに無い建物の部分は当然に脆く……ムックルの前足の形に抜けてしまった。
そして運悪く、その箇所は皇の肘が乗っていたところで。
「いぎゃああああああ!!!?」
「おとーさん?!」
「フギュウウウ!?」
「あら何大騒ぎしてるのアルル……ってムックル!! 離宮には入っちゃいけないってあれだけ教えたでしょう!! ハクオロさん大丈夫ですか!?」
「う、ううう……一体、何があった……がくり」
安眠から突然天地がひっくり返る勢いで、地獄の痛みに追いやられたハクオロ。
その晩、彼は妻の丁寧な世話を受け、しくしくとその膝で泣いていたという。
縁側でコブを作って正座させられていたアルルゥとムックルを慰めながら。