対抗心「アリーサ、書斎のでん…」
室内灯が僕の言葉が終わるより早く、ぴっ、と音を立ててついた。
「……アリーサ、エアコンの温度を…」
やはり、言い終えるより前にエアコンの温度が下がる。
目をやったのは、最近うちに来たスマートスピーカーじゃなくて、僕の後ろで資料を添削してる一号。
「一号?」
「……なんだ」
もう1度下げるか?と目を上げた一号に、いや、と断りを入れて、また資料に目を戻した。
「あ!そうだ、アリーサ…」
「教授には今朝連絡してある」
「え、」
ノーヒントで僕の次の行動を読んで先手を打ってる一号に、思わず固まる。
というか、どうして今メール送って欲しいってわかったんだ?なんて事を考えながら、また一号を振り返った。
「えっと、一号?どうしたの?」
「……どうした、とは?」
「や…なんか…先回りというか…」
「別になんてことはない。私には学習機能が搭載されている。毎日お前と一緒に仕事をしていれば、この程度のこと………」
うんぬんかんぬんと話す一号の視線は僕ではなく、机上の丸いスピーカーに向けられている。
そういえば、とアリーサが来たばかりの時の事を思い返した。
『一号君!アリーサって凄いんだよ!ねぇ、アリーサ、ピッコロさんに電話して!』
ぴぴ、と音を立てた後、整然とした女性の声が流れる。
『はい、【ピッコロさん】との通話を開始します』
『…パンか?どうした?何かあったか』
『ううん!大丈夫!!また後でね!ピッコロさん!』
ぶつりと通話を終えて、無邪気に大人を振り回す娘は、ね?!と一号を振り返ってスピーカーを振りかざした。
そうされた一号は、少し考えるように難しい顔をした後、腑に落ちなそうに、そうか、と呟く。
『結構便利なのね。私も調べ物とか、部屋の電気消したりとか、凄い助かってるの』
『しかもね!一緒に遊んでくれるんだよ』
アリーサ、しりとりして!と叫ぶ声に、では動物名しりとりを開始します、と声が返った。
パンが楽しそうにしりとりを楽しむのを見ながら僕も声をかける。
『はは、僕の部屋にも欲しいなぁ』
その時の目を見開いた一号の顔まで思い出したところで、現状の原因を見つけた気がした。
「……つまり、博士に作られた私にとって、これくらいのことは…」
威嚇のように説明を続ける一号を振り返る。
「一号。もしかしてヤキモチやいてる?」
僕の言葉にびたっと説明をやめた一号は、考えるように少しだけ目を泳がせたあと、ふい、と顔を逸らして、何を言ってるかよくわからないなと呟いた。