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    nezumoto_

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    nezumoto_

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    年齢操作蘭武の進捗

    Rの独白、又は献身

    無機質な部屋。平坦な室温。
    白い机のその間を、強度のあるアクリルが隔てている。
    拘置所の面会室。机には、今となっては珍しい黒電話が置かれていた。
    矯正監が鍵をさして解錠し、扉を開けるのを横目で見て、ゆったりと部屋に入る。
    矯正監は入室したのを見届けると扉を閉めて外側から鍵をかけたので、それに僅かにまなこを丸めた。同室で面会の内容を聞きながら、部屋の隅に置かれた机で書記をすると思っていたからだ。
    けれどすぐに前を向いて、アクリル板の前にあるパイプ椅子を引き腰をかけた。体重が加わってギシリと音を立てる。
    太ったかしら、歳かもな。
    そんなことをぼんやりと思いながら、天井を見た。
    面会の相手はライターらしい。
    今までどんな人間であれ面会は断っていたが、今回は違った。今回だから、でもある。
    三分ほど待っていると、アクリル板の向こう、部屋の扉が開かれて、サングラスを掛けた一人の中肉中背の男が入ってきた。
    ここでも矯正監が後ろに着くわけでもなく、扉を閉めて面会人を一人にする。
    男はキョロキョロと首を回して面会室を見渡しながら、落ち着かない様子でパイプ椅子に腰をかけた。
    艶やかに真っ直ぐ伸びた黒髪が一挙一動に合わせて揺れる。それを見て、自分の手元にある電話の受話器をとった。ダイヤルはない。
    元々面会人の方にある電話と繋がれているのだった。
    こちらを見た面会人も受話器を手に取って耳に当てる。
    数秒、何を言おうか迷った様子で唇を薄く開閉したあと、自分の耳元で「あの、」と小さな声が届いた。
    「もしもし、」
    「ンは、」
    場違いなその言葉に、思わず吹き出す。
    「も、もしもし、って。ハハ。分かるよ、電話だもンな。今どき電話面会って、アメリカのムショかよって。」
    「ア……すみません、面会、初めてなンです。お気を悪くしたら、ごめんなさい。」
    「まさか、イイよ。身内でもナシ、そんなモンだろ。」
    「そうですか?ご兄弟とか、いらっしゃらない?」
    そんな問いに、一瞬詰まった。少し間を空けて、「居ないよ。親も、兄弟も。」と応える。
    サングラスで目元はよく見えないが、恐らく気のいい男なんだろう。「すみません、不躾でした。」とわざわざ頭を下げた。
    「別に気にしてないよ。それよか、ココ室内だけど、眩しい?サングラス、邪魔じゃない?」
    「いえ、あの……恥ずかしいことなンですけど、目元がコンプレックスで。特別につけたままなのを許可していただいて……普段は鏡を見るのも、嫌です。」
    「あら、そりゃゴメンね。こっちこそ不躾だったな。」
    「いえ、自分の都合ですから。」
    濃い茶色のレンズの向こうにある目がうっすらと見える。大きなどんぐり目。可愛げのある顔なんだろうな、と思った。もったいないな、とも。
    「ライターなんだって?シナリオを書くの?イイな、オレドラマとか映画好きなンだ。有名どころは大体見たよ。」
    「あはは……面白げがないンですけど、書くのはルポなンです。小説も齧ってますけど、在り来りなネタだからかあんまり売れなくて。映画、お好きですか。ボクも大好きです。小さい頃の夢、映画監督でした。」
    「へぇ、そうなんだ。そりゃイイ。話しが合いそうで嬉しいな。ね、小説はどんなのを書いてたの?小説も読むよ。太宰治とかさ、ド定番だしキザだけど、言い回しが好きなンだよね。」
    「分かります分かります。ボクには書けないな、あの文章。かっこいいですよね。……えっと、タイムリープ、ご存知ですか?トラベルとはちょっと違うンですけど。在り来りでしょう。つまらないですよね。」
    「なんで?イイと思うよ。何か書けるってだけでも才能でしょ。」
    「そう言って頂けると救われるな。でも今はもっぱらルポで。こっちの方が人気あって、ちょっと複雑です。」
    「オレ、ライターってオカルトかシナリオライターしか分かンねェンだ。無知なのが丸分かりで恥ずかしいな。ろくな教育受けてないンだ。」
    「いえ、あんまり有名じゃないし……。えっと、ルポは……うんと、ノンフィクションって言えば分かりやすいですかね?実際に起きた事故とか事件のことを書くンです。あ、でもオカルトも大好きですよ。UMAとか。」
    「アア、なるほどね。だから、オレか。イイ話の種になるかな。」
    「もちろん。でも、四十過ぎてライターって、ちょっと格好つかないかもしれないです。」
    「……ビックリした。年上なの?ヤダな、早く言ってくれれば良かったのに。ネンショー上がりなんだ、オレ。年功序列厳しくってさ。敬語の方がイイかな。慣れてないンだけど。」
    「いえいえそんな。親しみやすくて、こっちの方がいいです。年功序列、分かります。編集者の方に頭上がンなくて……すっかり敬語根付いちゃって。」
    「そう?ならこのままでいこう。オレもこっちの方が話しやすいし。メモの準備は出来た?面会時間って短いからさ、話し切れなかったら困っちゃうでしょ。」
    「ア……いえ、実は三時間半貰ってるンです。えっと、それでも足りなかったらまたお時間頂くかも。ご迷惑かけちゃうな……。メモは、えっと、すみません、すぐ準備します。ヤダな、テキパキできなくて。鈍臭いってよく言われるンです。」
    「三時間半も?気が利くな……ア、最後だからか。なら、もう少しくだらない話をしよう。綺麗な黒髪だね。よくケアしてるンだ。オレもね、ガキん時は髪が長かったから。すぐ絡まるのが嫌でさ。今はほら、短いけど。サングラスだから分かりづらいかな、意外とココって待遇いいンだ。髪も染めれる。だからどうせなら派手にしようって、紫なんかにしちゃった。」
    「いえ、違うンです。コレ……ほんとに、落ち着き知らずのくせっ毛で。毎朝ヘアアイロンで伸ばしてて。寝起きとか特にひどいですよ。見れたモンじゃないです。きっとオシャレな色なんだろうな、直接見たかったけど我慢します。ちゃんとセットもされてて、お顔も良くて、いいとこだらけじゃないですか。」
    「ハハ、こんなトコいる時点で、全部台無しだけどね。カッコつけなンだ、オレ。寝起きの姿見たかったな。黒髪のくせっ毛、大好きなンだ。」
    「前の恋人さんとかですか?綺麗なお顔だし、よりどりみどりだったでしょう。」
    「イヤ、恋人にはなンなかったよ。オレはベタ惚れだったンだけど、いつもすぐかわされちゃって。ツレないよな。今でもずっと未練でさァ。女々しくてみっともないだろ?三十にもなったのに。ガキの時の初恋、引きずってるンだ。」
    「ヒトのこと愛せるのって素敵なことですよ。ボクもいたから、分かります。何でも出来ちゃうンですよ。それこそ、タイムリープだってきっと。」
    「分かるよ。イイな、タイムリープ。オレも戻りたい。ほんとに、何でも出来たンだ。必死でさ。もしタイムリープしても、多分同じことしたけど。」
    「握手でもしますか?意外と出来ちゃうかも。ボクも一緒にできたら、止めますよ。孤独なことって、一番辛いことじゃないですか。」
    「ハハ、お人好しだなァ。握手でタイムリープ出来るなんて素敵な設定。それも書いてる小説から?できたら良かったな、握手。……じゃあせめて、タイムリープ気分が味わえるように、全部話そう。聞いてくれる?長くなっちゃうけど。」
    「是非。全部聞かせてください。そのために来たンですから。お話にばっかり夢中になって、メモが疎かになったらいけないな。手が忙しいの、許してくださいね。」
    「イイよ。何から話そうかな。」
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