柔軟する杉尾「やっちゃった〜」
テヘペロとぶりっ子する白石の足首が通常の状態よりも腫れていた。
木の上にいたリスを捕ろうとしたが、アシリパの仕掛けた罠に掛かりあわやサバ折りになるという所を抜け出したのは良いが盛大に足元を滑らせ着地に失敗した。
もちろんリスを獲れていない
自ら食糧を確保しようとした所で制裁は帳消しされた。
「そんなに酷い状態じゃないが患部が熱をもってるな、」
無闇矢鱈に動き回るな、冷やせるだけ冷やしておけと見つけた川に足を浸らせさせた。
「私は薬草を採ってくる」
俺も行くよ、と声かけした杉元の申し出は却下されその代わりに指令が下された。
「という訳で、柔軟するぞ」
「どういう訳だよ」
なるべく足場の平らな場所に有無を言わさず連れて行かれた尾形は屈伸を深くしている杉本に深く息を吐き出し髪を掻き上げる。
「アシリパさんがあの白石でさえ怪我をしたんだから、俺たちまで怪我しないように体温めとけって」
「お前に言われてもな」
「うるせぇ、折れたとかより撃たれるより筋痛めた方が質が悪いんだよ」
「どういう理屈だ、野生の感覚に俺を巻き込むな」
「明日入る場所は今日より険しいらしいから、痛めたら構ってやれねぇぞ」
「置いていけ」
「だぁもう!いいから柔軟するんだよ!付き合ってやるからぁ!」
「俺には必要ない」
ジリジリと迫ってくる杉元に尾形は同じ歩幅で後ずさる
「…わかった、逃げ出さんから一度そこで止まれ」
グルルル、と喉を鳴らし今にも飛びついてきそうな杉元の気迫にこのままでは柔軟うんぬんの前に怪我をしそうだ、と深くため息を吐き装備と外套を外す。
「?、なんだよ、」
一応戦闘態勢な構えを緩め一定の距離で杉元は立ち止まる。
「良いから見てろ、」
足元に湿り気があるか確認し外套を広げその上に腰を落とす。
「?、なんだ、大人しく受ける気にな…っ、!?、」
柔軟の受け入れをし始めたのかも目線の低くなった尾形を見下ろし素直じゃねぇかとほくそ笑んだ杉元の表情が驚愕に変わる。
「だから、俺には必要ないと言っただろう?」
「な、っ、おま、それ…っ、!?」
そこには180度に開脚し上体をペタリと地面につけ必然的に上目遣いに見上げるしたり顔の尾形の姿があった。
ワナワナと震えている杉元を見上げているが逆光でその表情ははっきりとは見えない。
「…分かっただろ、そもそも自分の体は自分で調整し…」
「すげえ!!どうなってんだお前の身体!!」
「っ!?!?、なに、!?」
もう良いかと身を起こそうとしたが角度を変えた杉元の表情は上気していた。
子犬がおもちゃを与えられたようなキラキラした顔に一瞬動くのが遅れ飛びついてくる杉元の手にまんまと掴まれてしまっていた。
「前はいけるのは分かったけど背面はどうなんだ?」
「おい、やめろ、」
抵抗はしてみてもはしゃいだ大型犬の力に敵わずうつ伏せに転がされ尻に乗られた上に、腕を取られ背中を伸ばされる。
「お〜すごい上がるけど、これ痛くねぇの?」
「痛くわねぇけど、止めろ」
「うっわめちゃめちゃひらく!」
腕を離されたと思えば、片足を掴まれ大きく開かれる。
「…おい、止めろ、」
「お?なんだやっぱ痛ぇの?」
「痛くはねぇ、だが止めろ」
腰を抑えられながらより高く上げられる足の悲鳴より、臀部に押し付けられる杉元の腰のフィット感が気に障る。
眉を寄せる尾形の表情の変化に強がっていると受け取った杉元は口角を上げる。
「ほんとは痛いのに強がってるのぅ?」
「ちげぇつってんだろ、つうかもういい加減に…、」
「もう一回前からの柔らかさが見たい」
「っ、っおいっ!?」
足と腰を掴まれていたら仰向けにひっくり返されるのは簡単だった。
「横と後ろに広がるのは分かったけど、縦に伸びづらいとか、」
「おい…、ばか止めろ、おい」
仰向けの状態で両足を掴まれ自身の膝に顔を着けさせられる。
「うっわぁ〜すっご!やわらか〜い!」
足を開いて満面笑顔の杉元と目が合う。
「お前ほんといい加減に…、」
「え?もしかして痛い?」
「…痛くはねぇけども、止めろと言って…、」
「あ、もしかしてこのまま膝つける?」
「おい!聞け!」
はしゃいだ表情のままいいこと思いついたとウキウキと杉元の手が尾形の脳裏を押さえ杉元の体重が尾形の尻たぶに掛かる。
「っ、すぎもと、止めろ、」
「なにこの柔らかさ骨入ってるこれ??」
顔の横に両膝がを着けさせられ興奮した杉元の面が目と鼻の先にある。
「っ、もう分かっただろうが…っ、」
痛くはないが圧迫感と体重を掛けられている苦しさはある。
そもそもがこの密着感と空間が何よりも尾形を疲弊させた。
「苦しそうだけど、ほんとは痛い?」
近い顔面がより近く顔を覗き込んでいく。
「っ、頭狂ってんのか…、この体勢で少しも苦しくない奴いんなら雑技団でもやってる…、」
近すぎる顔面を押し返すがビクともしない。
「ふ〜ん、少しでも痛いならやっぱ柔軟はするべきだよな、」
「…分かった、分かったからもう離れろ」
自分のあまりな体勢に1秒でも早く解放されたかった。
尾形は脱力しながら抵抗はしないと両手を地面に広げた。
ニッ、笑顔を見せる言わせてやったぜという顔が憎たらしい。
どうにか一夜報いてやりたい
「よし、じゃあまずは…、」
「え?なにごと?どういう状況?」
お互いの声ではない声がした方を向くとそこには呆然とした白石由竹が佇んでいた。
「え?それ?え?入ってないよね??」
「は?」
「………、」
震えた白石が更に震えた指先で指す先は杉元と尾形の密着し過ぎている股関節だ。
側から見れば尾形が押さえつけられ無理やり致されていてもおかしくない体勢だった。
「は??…、はぁ????……っなんっ!?ぁっ!?ま!?っば!!!っはいってねぇしまだ入れてねぇよ!!!!!!」
白石に言われた言葉の咀嚼と指されている箇所と死んだ目をしている尾形の表情と白石の怯えた目を何往復かして、ようやく杉元は言われている意味を理解して顔を瞬時に湯沸かした。
「まだってなにぃ…、おジャマだったぁ?」
「ちがっ!?ばっおま!これは柔軟をっ!!な!尾形ぁっ!そうだよなぁっ!?」
真っ赤に茹だりながら凄む杉元に尾形は目を細め口角を緩める。
「おぁっ!?」
未だ掴まれていた足を器用に操り杉元の首元を引き寄せる。
「…これからが本番だったってのに、邪魔されて残念だ…?なぁすぎもと?」
引き寄せた杉元の耳たぶを引っ張り低く楽しげにその声を響かせる。
「〜〜っ、っ言いかたぁ!!!!」
柔軟をしようとしていたのは本当のことで何も間違ったことは言っていない。
ドッと汗が噴き出した杉元に溜飲を下げなが、その肩口に足裏を押し付けようやく杉元の下から抜け出す。
「あ〜、手拭い借りたかっただけなんだけどジャマしてごめんね、」
「いやジャマされてねぇから!ジャマされるような事してねぇから!!」
「なんだ?俺とは遊びだったのか?俺は傷付いたよ、」
久方ぶりに自由になった体を伸ばしつつ首を傾げる尾形に杉元は牙を剥く。
「尾形はもうだまって!!ちがうからぁ!あいつが体が柔らかいからどこ迄いけるかみてただけで!!」
足を引き摺りながら踵を返していく白石に杉元が覆い縋る。
「いたぁ!?そっちの足痛めた方だから掴まないで!!詳しい体位の説明とか聞いてないから!!」
「ちがぁぁあうっっ!!!!」
「何をやっているんだ、お前たちは…、」
薬草を採ってきたアシリパが戻った時には泣き縋る杉元とそれに怯える白石と腹を抱えて声を出さずに笑っている尾形の姿があった。
夕飯後
「あだっ!あだだだっ、!」
「てめぇ、その硬さで人の体自由にしやがったのかよ」
「お前よりは硬いけど、普通よりは硬くねぇ!あっちぎれるぅ!っもっと優しくしてぇ!」
「俺は優しい」
事の顛末を聞いたアシリパから、なら尾形に教えてもらえ、と言伝があり第二ラウンドが始まっていた。