そんなことになるとは思わないでしょ「ゼラはすごいよね」
そう話しかけてきたのは、自分が少し苦手に感じている雨谷…光クラブでいうアハトのジャイボ。
掴みどころがなく、僕に「自殺とか考えないの〜?」とひどいことをさも世間話を話すように言ってくる。そんな、自由気ままで危ないジャイボは光クラブの帝王ゼラのお気に入りだ。何一つ文句を言って無事でいれることがない。だから、必要以上関わりたくない。
「人が話しかけてるんだから、返事しなよ!」
「んげ!?」
どうやって逃げようか考えてる間に、返事を返さない僕にイライラして首を掴んできた。
「な、何するの…!もし、首折れちゃったら」
万が一のことを考えて欲しい。
そんな僕の苦情は左から右に流され、「ゼラってすごいよね〜」っと話を勝手に再開されてしまった。
もうこうなったら、最後まで聞くしかない…
早く終わって欲しい…と心の中で思いながら、うんうんと相槌を打つ。
反応に満足したのか、ジャイボは機嫌良く話を続ける。緻密な機械の設計、みんなをまとめることのできるカリスマ性、そしてどこまでも自分を受け入れて遊んでくれることを楽しそうに話す。
本当にゼラのこと好きなんだな…
ジャイボがもう少しおとなしい子だったら僕だって対抗してタミヤくんのすごいところいっぱい言うのに。
きっと口を挟むと、倍で返されるので大人しくゼラへの褒め言葉に「そうだね」「確かにすごいね」と返していくことにする。
ごめんね。タミヤくん。
僕の中では君が1番すごいのに変わりはないからね。
今だけ許してね。
と謎の謝罪を心の中で送っておいた。
「〜カネダもそう思うでしょ?」
心の中で念を送っている少しの間に、話はかなり進んでいたようで、急に話を振られた。
さっきと同じゼラのすごいところの話だろ。
そう思って「そうだね。僕だってそう思うよ」と返した。
そしたら、ジャイボは一瞬ムッとした。
え、僕そんなまずいこと言ったの??
ジャイボは少し怒った様子の顔をしたがすぐに戻り、突然大声で「だってさ〜!!タミヤ!」と僕の後ろに向かって言った。
「え、タミヤくん?!」
すると、僕の後ろにタミヤくんが不機嫌そうな顔をして立っていた。
後ろにいるなら声かけてくれたらいいのに。
なぜ、そんな不機嫌なんだろう…
「きゃはっ!拗ねないでよ〜!カネダがゼラの方がかっこいいし、ゼラになら抱かれてもいいって言っちゃったからって。あー怖い」
そう言ってタミヤくんを揶揄うように、クスッと笑いそのあと僕の方を見た。
嘘、そんな話聞いてないんだけど?!
「えっ!ちがっ…ち」
そんな話題になってると知らず返事をしたことが仇となったようで知らず知らずにとんでもないことになっている。否定しようと口を開けるも、言葉が吃ってしまう。
そんな僕を見ていたジャイボが僕の耳元に口を寄せて「僕の話を聞いてないカネダが悪いよね。ちゃんと聞いてない罰。きゃはっ!精々大好きなタミヤくんに言い訳しときなね〜」と囁いてどこかへ行ってしまった。どうやら、僕が話を途中から聞いていなかったことに腹を立てて嵌められたらしい。
やっぱりジャイボは苦手だ。
もう当分関わらないようにしよう。
そう、反省したいところだが先にとんでもない誤解を解かないといけない。
「あ、あの、あのね、タミヤくん!さっ、さっきのは違うんだ!ジャイボが勝手に…」
慌てすぎて言葉が詰まってしまう。
依然としてタミヤくんは、不機嫌そうにこちらを見ている。嵌められた自分も悪いが、そんなに拗ねなくても良いと思うんだけど…
「ゼラの方がすごいと思うのか?」
ムッと拗ねた顔でこちらを向いてタミヤくんは言った。ゼラの方がすごいといわれるのは嫌なんだろうな…
「ゼラはすごいけど、僕はタミヤくんの方がすごいと思うよ!かっこいいし!背は高いし、運動もできて…」
そう言って、タミヤくんのすごいところを叫んでしまった。もちろんゼラはすごいと思うが、僕の中ではタミヤくんが1番である。これは嘘偽りない僕の気持ち。思わず、伝わって欲しいと必死になってしまった。
そんな僕の様子に少し気をよくしたのか、拗ねていた顔をこてんっとさせて、「じゃぁ…」と口を開いた。
「ゼラより俺の方に抱かれたいと思うか?」
ととんでもないことを言ってきた。
そこはジャイボのイタズラみたいなものだから気にしなくて良いんだよ。タミヤくん!!
でもここで言い淀むとまたタミヤくんの誤解は解けないだろう。
「そうだよ!僕はタミヤくんに抱いて欲しいよ!!」
そう勢いで返してしまった。
きっと、これは大変なことを口走っている。
パニックになる僕をよそに、とんでもない発言を聞いて嬉しそうにこちらを向いて笑うタミヤくん。
さっきまで臍を曲げていたとは思えないぐらい嬉しそうにしている。
「あの…タミヤくん?」
弁解しようとすると僕の手を握って
「じゃぁ、2度と俺以外にはそれいうなよ?約束だからな」と嬉しそうに言ってきた。
どういうこと??どうなっているんだ?
状況が飲み込めず、さらに頭が混乱してきた。
タミヤくんは好きだけど…展開が早すぎて訳がわからない。僕の脳みそではキャパオーバーだ。
もう、どうして良いのかわからずただ「うん…」という返事しか出てこない。
「俺だけだからな、カネダ」
そう言って、僕手を強く握りながら、嬉しそうに念を押すように僕を見つめていた。
その顔はタミヤ君が幼い頃に欲しいものが手に入った時に見せた笑顔を思い出させたのであった。