変わるのを怖がってるのはタミヤ君を好きになった日のことは覚えていない。
きっとずっと好きだったから、好きじゃなかった時のことなんてわからない。
タミヤ君に想いを伝えたのは、小学校を卒業した次の日。報われない気持ちに卒業するために告白した。
男で、幼馴染の親友から告白されて戸惑うだろうし最悪絶交されると思っていた。けれど、タミヤ君は「落ち着いて考えたいから、返事は明日でもいいか?」と言われた。
そして次の日に、まさかの「俺も好きだ。これからもよろしくな」と告白を受け入れてくれた。
この日から僕とタミヤ君は親友から恋人になった。
そしてそれから1年経った。今も僕らは恋人だ。
「カネダ本当にこのままでいいの?」
休み時間、クラスメートがおしゃべりをしたり、ふざけたり騒がしい教室の中で僕の前の席に座って、ダフは言った。
「えっ、突然なに?」
唐突すぎて、何について話しているのかわからない。
日直なのにまだ一文字も描いていない日誌のこと?
忘れてしまった教科書?
浜里に捨てられた鉛筆こと?
それともジャイボにまた揶揄われたこと?
いつも僕は、ダフやタミヤくんにに心配されたり、指摘されること多い。昔から一緒にいる分、親友ではあるが兄弟のような接し方をされる時も多い。
でも、今日は思い当たることはない。何か心配させるようなことをしたのか?考えている間もダフは変わらず心配そうにこちらを見ている。
「タミヤ君とのことだよ。2人は付き合ってるんでしょ?」
「う、うん。一応こ、恋人だよ。」
急にタミヤくんとのことを持ち出されてドキッとする反面いまだに彼の恋人というのに少し恥ずかしさと嬉しさで顔がにやけてしまう。
そんな僕のふやけた顔を見て呆れたように「1年も経ってるんだからいい加減その顔やめてくれない?」と言う。
「し、仕方ないじゃないか!ま、まだ信じられないんぐらい嬉しいだから……それで!それがどうしたの?」
僕らが付き合いだして一番最初に打ち明けたのはダフ。打ち明けた後も引いたり、反対するようなことはなく「おめでとう!」と自分のことのように喜んでくれた。今でもタミヤ君のことならダフに真っ先に相談する。
「2人って付き合いだしでから、デートとかそんな恋人らしいこととかそんなことしてないよね……?」
そう言われて、僕は図星をつかれてどうして相変わらず視線をダフから逸らす。そんなことすればダフが気づくに決まっているのに。
「え、なんでそんなこと……確かにしてないけど、ほら、なかなかそんな暇ないからさ……」
「……クラブの休みの日だって、3人で遊んでる気がするけど…僕が断った日は大体カネダは早く帰るってタミヤ君言ってたよ」
「そ、それは……」
どんなに言い訳をしようと、ダフは冷静に言葉をかえしてくる。話をはぐらかすにもダフが真剣な目をするものだから逃げることができない。
「カネダ前から思ってたけど、僕に気遣ってる?だとしたらそれ逆効果だよ」
「えっ……」
ダフがムッとした表情で僕を見てそういう。その顔は少し怒っているようにも見えなくない。僕は黙るしかなくなってしまった。
「2人がお互いを好きってわかった時点で僕は、ある程度踏ん切りつけてるから気にしないでね。僕らが親友なのには変わりないし。僕はそのつもりだけどカネダは違うの?」
ダフの目に迷いはない。僕に気を遣ってる嘘ついてるわけではないのがわかる。
「僕だってダフのことずっと親友だと思ってる!もちろんタミヤ君のことも……」
もちろん僕のこれも本心だ。恋人になったからと言ってダフのことを邪魔だなんて思ったこと一度もないし、これから先もずっと親友であることには変わりない。だからこそ、どこか引っかかるのは僕の中でまだ答えが出せていない部分がある。
きっと、ダフもそんな僕から感じたのか僕の返事にえ腑に落ちない顔をしている。
「じゃあ、今度の休みはタミヤ君と2人でどっかいってきてね。僕は今回本当に用事あるし」
そう言い残すと、授業が始まるから席戻るよと離れていった。ダフにそんな気を使わせていいのかと言う気持ちとタミヤ君を独り占めできるの事に喜ぶ自分がいる。ダフがせっかく言ってくれてるんだから、ちゃんとタミヤ君と恋人らしいことできるように頑張ろう。
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そのあと光クラブの活動が始まる前にタミヤ君には相談したら心よく承諾してくれた。
あとで行く所決めようぜ!カネダもちゃんと、考えとけよ!と嬉しそうに笑いかけてくれる。僕と出かけることにあんなに喜んでくれるのは嬉しい反面照れ臭い。君と一緒なら僕はどこでも楽しいんだけどね。
だからこそ、2人で出かけられることが楽しみで仕方ない。光クラブの活動中はずっとそのことを考えてしまっていた。
恋人のタミヤ君。2人っきり。
早く休みにならないかな…
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タミヤ君とのお出かけ当日。
昨日からどこか体が気だるくかった。少し頭がぼやっとする。浮かれすぎているのかそれとも……
「やっぱりか……」
体温計に表示されている数字は37℃
試しに体温計で測ってみると案の定熱があった。
とは言っても微熱だけど。
また別の日にしてもらうのが普通だが、僕は出かけるのをやめるのが嫌だった。
だって今日は、恋人としてのタミヤ君と出かける日。ダフに気を使わせてしまったけど、せっかくの1日タミヤくんといれる日。タミヤ君だって喜んでいた。ずっと楽しみにしてたんだ……こんなことで潰したくない。
幸いまだ微熱だから、そのうち治るかもしれない。引き出しのどこかに薬があったはずそれを飲めば今日1日ぐらいどうにかなるだろう。
少し気だるい体を起こし、僕は出かける準備を始めた。
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「ついたな!……と言っても隣町の海だと蛍光町の海とあんまり変わらねえな」
そういうと浜辺に靴を置いて早速海に入るタミヤ君。普段からダフと3人で海に行くが、今日はいつもの海と違う。お世辞にも綺麗とは言えないが、蛍光町にはない穏やかなで、少し澄んだ海が広がっている。初めてだしどこ行く?と迷ったがやっぱり海を選んでしまうあたりタミヤ君にとっても、僕にとっても気が休まるところなんだろう。
「カネダもさっさとこいよ!俺だけだとなんか恥ずかしいじゃんか!せっかく2人っきりなんだし早くこいよ!」
そう言って、照れくさそうに言うタミヤ君。
タミヤくんはその辺の中学生より大きいから、大人にも見えてしまう。その上で普段はたまこちゃんもいるからお兄ちゃんになっている分そんな彼が海にはしゃいでいるのはいささか羞恥心が少し出てくるのだろう。そんな小さなこと気にしちゃうなんて、タミヤ君もまだまだ子供だなとクスッと笑ってしまう。
そんな僕をみて、むすっとして「ほら!早くこいよ!」腕を掴んで海に引っ張る。流石に全身濡れるわけにいかないので足だけだけど、2人で海を散歩するのはすごく恋人ぽくて、手の繋ぎ方もいつもと違う指を絡ませて…少し恥ずかしく感じてしまう。普段なら周りの目も気になってしまうが今は僕とタミヤ君しかいない。咎める人もいなければ、今だけは僕だけのタミヤ君そう思うと照れ臭くなってくる。
そう、思いながら僕達は海の中を散歩していく。いつものように学校なこと、ダフのこと、たまこちゃんのこと、いつも話してる内容と変わらないのに、なんだか特別な空間にいるように感じてドキドキする。
あぁ……この時間ずっと続けばいいのに。
タミヤ君も同じ気持ちだったらいいのにな。
ずっとこの時間を避けていたなんてもったいないな僕。
そう、思うと視界がぼやけ始める。
なんだろう?よく見えない。
視界の中のタミヤ君が何か言っている。
どうしたんだろう?
そこで僕の世界は真っ暗になった。
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どこか心地いい波の音。
不安も迷いも優しく覆って受け入れてくれる。
タミヤ君みたいだ……
それに、僕の頭に優しく乗っている手。
安心する。すごく幸せな気持ちになる。
目を開けると、先ほどより視界の中はオレンジ色…と言うよりも、紫が差し掛かり暗くなっていた。
どうしたんだろう?と体をあげようとすると、頭にのっていた手が優しく僕を撫でた。
「起きなくていいから、あと1時間はバス来ないから」
そう上を見るとタミヤ君が優しい目で僕を見てくれていた。僕の額に手を当てて「ちょっと下がったな」と呟く。
「お前、熱あるなら言えよ。急に倒れてびっくりしたんだからな」
どうやら僕は、あの海の散歩中倒れそうになりタミヤ君が慌てて僕を受け止めてくれたらしい。
そして僕は意識を失って、数分この状態だったらしい。僕が倒れてる間もタミヤくんはずっとそばにいてくれたんだろう。
「体調悪いなら別の日にしたのに。なんでこんな無理したんだよ」
そう、悲しそうな目をしてこちらを見るタミヤ君。別の日にすればいいじゃんと言いたげな目だった。その顔は、普段よく見ている親友のタミヤ君の表情だった。
「だって……タミヤ君と恋人らしいこと初めてだったんだもん……」
僕がそう言えば、タミヤ君は目をぱちくりさせた。僕からそんなこと言われるなんて思っても見なかったのだろう。
「だったら、なんでいつも俺が誘ったら断わんだよ……」
別に今日だけじゃない。今までだって2人っきりになった時も、2人で出かけないか?って聞かれた時も逃げたのは僕だ。タミヤ君がそう聞くのもおかしくない。
「だって……」僕が言い淀んでいると「だんまりはなしだからな」と言われてしまう。もう打ち明けるしかない。
「僕はタミヤ君が好き。友達以上に好き。だから恋人になった時はすごく嬉しかった……。絶対叶うはずないと思ってたから……タミヤ君もおんなじ好きなんだって……こんな夢みたいなことあるんだって……」
今でも忘れもしない。想いが通じ合った日これは夢じゃないかと何回も頬を捻ったぐらいだ。嬉しいのには変わりない。変わりないが、僕は……
「でも、僕の親友はダフと≪タミヤ君≫なんだよ。14年間大事にしてきた親友のタミヤ君を無くしたくないんだ!」
どう言葉で伝えればいいのかずっとわからなかった。
けれど、燻っていたものをそのまま言うしかない。
「はぁ?!」
「それに……」
もうひとつの心の詰まり、気がかりだった事。それはもう1人の親友の事だ。
「タミヤ君と僕が恋人になったことで、今まで3人だったのに僕が関係を変えたせいでダフをひとりぼっちにさせちゃうんじゃないかって……ダフだって大事な親友だもん。ひとりぼっちにさせたくない……」
ダフだって僕達が付き合った時考えなかったはずはない。だからこそ、僕はダフに申し訳ない気持ちだってある。タミヤ君が何か言いたそうではあるものの、僕の言葉を最後まで聞こうと静かににうなずいてくれている。
「言ってることがおかしいのは僕だって、わかってるんだ。じゃあ、この関係を終わらせて前に戻ればいいんだって……でもそれも無理なんだ!ずっと恋してたタミヤ君も親友のタミヤ君も僕にとっては大事なんだよ……」
ずっと考えていたことが線を切ったように溢れ出てくる。僕は興奮したようにタミヤ君に思いの丈をぶつけていく。
「落ち着けカネダ!また熱があがっちまう」
僕の興奮状態を見て、落ち着けと優しく僕のおでこに手を当てる。冷たくひんやりしていた。
少し冷静になっていく。
「めんどくさいことばっか言ってごめんね。困らせてるのはわかるんだ。関係を進めるのも止めるのも怖いなんて……」
めんどくさいことを言って、自分で告白したのに今更変わるのが怖いだなんて……タミヤ君も呆れているかもしれない。僕はタミヤ君の言葉を待った。
すると、タミヤ君はふとため息をつき、僕の顔を覗き込み言った。
「そうだな。俺も最初は同じこと悩んだからな」
そう言うと僕の髪をそっと撫でながら言葉を続ける。
「特に俺には恋愛と友情の違いなんてわかんなかったしな。だけど、ダフとは違う感情が昔からカネダにはあったからすげぇ悩んだ。関係を変えることで、今まで大事にしていたこの3人の関係を無くしてしまうんじゃないかって」
タミヤ君も同じことを考えていたのか。
やっぱり、タミヤ君のこと困らせてたんだな。
「お前に告白された時もどうするか迷った。だけど、断って親友として付き合っていくこともできたけど。この先カネダが誰かと付き合ったり、結婚したりするのを祝ってやれない」
一生懸命話すタミヤ君。今思うことではないのはわかるが、そこまで僕のこと好きだったことに驚いた。
ちょっと恥ずかしいけど嬉しいなぁ……
「俺も考え抜いたさ。だからこうしてお前とか付き合うことにした。俺の親友はカネダとダフ。それはこれから先も変わったりしない。ダフも同じぐらい大事にする。今までと一緒だ」
そう言い切って僕を見る。真剣な目に僕は目を逸らすことができない。
「でも、恋人はカネダだけだ。これから先、手を繋ぐのも、キスするのもそれ以上も……お前だけだ!!」
「だから、親友じゃなくなるわけじゃねぇ。お前の親友はいなくならない。俺ら光クラブはずっとだ。ダフだってそれは同じだ」
「タミヤ君!」
そう言って、タミヤ君は僕の手に手をぎゅっと握る。手の力からどちらも諦めないという気持ちがひしひしと伝わる。
「あ、ありがとう。僕の親友はいなくならないんだね……こんな当たり前のことなのにどうして思いつかなかったんだろ」
こんなスッキリした気持ちは久しぶりだ。
僕も握られた手を握り返す。僕も同じだよと返事をするように。僕は安心したせいか、眠気が一気に押し寄せる。僕は再びタミヤ君の膝の上に頭を置いて目を閉じる。その間もずっと手を握り合った。
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「結局、熱出して3日間寝込んだ挙句タミヤ君にまで風邪移して!自分の体調くらいわかりなよ〜。いくら浮かれてたとは言えさ!」
「ぅ"う"っ。言い返す言葉もないです」
「でも、カネダの中で整理できたんだね。行く前よりスッキリしてた顔してる」
相変わらず暗い顔してるけどねと余計なひと言を言いつつもどこか安心した表情をしている。
僕が一人で黙々と考えてるうちに、ダフは僕のことだってしっかり見ててくれたんだなと改めて実感した。
「ダフ。あの時背中を押してくれてありがとう。僕自分で告白したくせにずっと関係が変わるのが怖かった。でも、無くなるんじゃないんだってわかったら安心した」
そういうと、ダフは優しく微笑みそして僕のおでこにデコピンをしてきた。
「痛っ!?」
額に走った痛みに思わず押さえる。デコピンをした張本人はあっけらかんとした顔で言う。
「僕らの14年間が2人に新しい関係ができたところでなくなるわけないだろ。そんなわかりきったことわかってなかったなんて。カネダはバカだね!」
「っ!バカってなにさ!ダフのこと見直した〜と思ったのに!前言撤回だ!!」
そうやってダフを小突いて、いつものように2人で笑う。そして、昔のように風邪を引いたもう1人の親友のお見舞いに2人で行くために僕らは教室を後にした。