どうかボクだけを…気に入らない。
そんな気持ちを抑えながら、向かい合わせに座っている○○を見た。
「でね、放浪者がね!~」
そんなボクの気持ちに気づいていないのか、楽しそうにアイツの話を続ける○○。ああ、本当に気に入らない。最近、いつもそうだ。いつもアイツの話を始める。ボクはそれが何故か忌々しくて堪らなかった。会話を終え一人自室に戻った後も、その忌々しさは消える事はなかった。
*
次の日。
ボクは任務の打ち合わせの為、○○を探していた。
しかし、部屋やラウンジを探したが、姿が見えない。
「どこいったんだ····アイツ」
軽く舌打ちをしバルコニーに向かうと、そこには探していた○○の姿があった。柱が邪魔で見えないが、誰かと話しているみたいだ。
「····っ!!」
話しかけようと近づいた時、話している相手が見えた。放浪者だ。二人で楽しそうに話している姿を見て、苛立たしい気持ちになった。
「……ねぇ」
その感情を隠す事が出来ないまま、ボクは○○に話しかけた。
「シンク!……って、どうしたの!?」
○○が戸惑った顔で聞いてきた。当たり前か···。きっとボクは今、酷い顔をしているだろうから。
「…別に。それより任務の件なんだけど」
「あ、ごめんっ。打ち合わせしないとだね。」
「そういう事。探したんだから、さっさとするよ。」
「ふーん。」
踵を返そうとすると、後ろから声が聞こえた。
「…何」
感心深そうな声を発した放浪者に、ボクは露骨に嫌そうな声で返した。
「いや、君は○○に好意を持っているんだなって思っただけさ」
「…は?」
「だってそうだろう?」
「ちょ!?放浪者!?」
いきなり放浪者が○○の肩を抱き寄せた。
「君の○○に対する態度は他の人間を相手にしている時より遥かに優しいし、雰囲気も表情も和らいで見える。違うかい?」
「…○○を離してくれる?」
「答えないのかい?」
「離せって言っているんだけど」
「嫌だと言ったら?」
もう我慢の限界だった。強引に放浪者から○○を引き剥がした。
「…さっさと行くよ」
そう言うと、○○の腕を引いてバルコニーを後にした。
「なんだ…、あんな顔も出来るじゃないか。…良かったね○○。」
そう呟いていたとは知らず。
*
「ちょ、ちょ、シンク!?」
○○の驚いた声で掴んでいた手を離した。ボクとした事が冷静さを失うなんて情けない。
「…今こっち見ないで」
「う、うん…」
廊下に気まずい空気が流れる。
「ね、ねぇ…、さっき放浪者が言っていた事、本当?」
その空気をどうにかしようとしたのか、○○が声をあげた。
「……言わせないでよ」
そっと、○○の目を手で覆うと優しく頬に口づけた。
「これが答えだよ」
赤面した顔はアンタでも見せてあげない。