ホムラの蒸し風呂にて「普通のお風呂が好きだけど、たまには蒸し風呂も最高よね」
「そうですね、お姉さま」
双賢の姉妹はそう言葉を交わし、目を閉じる。
ここはホムラの蒸し風呂。イレブン一行は冒険の合間にホムラに立ち寄り、蒸し風呂で日々の疲れを癒していた。
「はぁ~。でも随分を暑くなってきましたので、私は一度外に出ますね」
一番下の段に座っていたセーニャは立ち上がると、涼むために外に続く扉へと向かった。
「わかったわ。私もあとで行くわ」
セーニャを見送ると「はふー」と天井を仰ぎ見る。蒸された室内ではあるが、暑すぎると言うほどでもないので、ベロニカはまだ平気だった。
蒸し風呂内は空いていてベロニカ以外の姿はなく、誰もいない室内は静かで、目を瞑ると外の音が聞こえてくるくらいだった。
「……ュ!」
耳を澄ませていたわけではないが、目を瞑っていたことで耳が何かを捉えた。
「カミュ! 僕は……」
「ん? イレブン?」
目を開けて辺りを見回しながら、この室内にはベロニカしかいないことを確かめると、正面の壁を見つめる。たしかこの壁の向こうは男湯だ。イレブンとカミュとは入り口で分かれて入ったのだから、二人ともこの壁の向こう側にいるのだろう。壁の上部は空いているのだから、声が聞こえてもおかしくない。なるほど、筒抜けねとベロニカは笑みを浮かべると、面白いからこのまま聞いていようと耳を澄ませた。
「待って、そんなところ……」
「いいから俺に任せておけって」
「で、っも!」
「声抑えるなって」
「やっ! カミュ!」
「…………」
ここまで聞いて、あの二人は一体何をしているのかとベロニカは考えた。二人の仲がいいのはよくわかっているが、なんだかいかがわしい。公共の場ということをわかっているのだろうか。
「いやいやいやいや……」
そこまで考えてから、ベロニカも自分が考えを改める。あの会話だけでは何の話しているのかわからない。何でもないことがたまたまそう聞こえているだけかもしれないのだから、まだいかがわしいことを話していると判断するのは早い。
ベロニカは気を取り直すと、また耳を澄ませて二人の会話を聞くことにした。
「そ、こ……」
「ん? 嫌か?」
「くすぐったくて……」
「ふ~~ん?」
「あッ! だめ、だよカミュ」
「いやいやいやいや!!!」
突っ込みがおいつかない! とベロニカは声を上げた。もうどう考えてもいかがわしい。
「何やってんのよ、あんたたち!」
壁に向かって叫ぶと、「べ、ベロニカ?!」とイレブンの戸惑う声が聞こえた。
「お前、壁の向こうから話しかけて来るなよ」
「うるさいわね! あんたたちこそ、声筒抜けなのよ! 何してんのよ!」
「べ、ベロニカ! 違うんだ」
「なによイレブン! 違うって何よ、違うって!」
「触られちゃうと声が出ちゃうんだよな、勇者さまは」
「ちょっとカミュ!! 変な言い方しないでよ!!」
「なーーにやってんのよあんたたちは!!」
ベロニカは慌てて風呂を飛び出た。その勢いに外で涼んでいたセーニャが驚いた表情でこちらを見ているがそんなのは無視だ。隣の男湯の扉に手を掛けると、バンッ! と音を立てて扉を開けた。
「おいこっちは男湯だぞ」
「カミュが変な言い方するから、ベロニカが心配してきてくれたんじゃないか!」
「な……に……」
そこではカミュがイレブンの腕や肩をタオルのようなもので擦っていた。
「何してんのよ……」
「あかすりだよ、あかすり。蒸し風呂にはつきものだってルパスの奴も言ってたぜ」
「そうかもしれないけど、カミュが擦ると痛いんだよ」
「痛いって言やいいのに声我慢するから、言わせたくなるだろ」
「…………」
わいわいと会話を続ける二人はベロニカのことが目に入っていないようだった。
「あんたたち……」
「あ」
声から感じる圧に二人は動きを止めて、ゆっくりとベロニカの方を見た。そこには怒りの表情を浮かべたベロニカが仁王立ちしながら二人のことを睨みつけていた。
「いい加減にしなさいよ!!」
その怒号はホムラの里中に響きわたった。驚いたセーニャが駆け付けて宥めようとしたものの、その怒りはなかなか収まらなかったという。