夜半の夏 夜になってもむわりと熱い空気が頬を撫で、焦燥感を掻き立てられる。差し迫った時間に対して、早く進みたい零を余所に、薫はゆっくりと歩きながら呑気にもコンビニの限定が、だなんて口にする。
「その限定が俺好みで、おすすめだってアドニスくんに聞いてね、だから」
指差すコンビニは暗い夜道を煌々と照らし、零たちに反応して手招きするかのように自動扉が開く。零は短く息を吐き、薫の手を取った。ぐずる子供を連れるように引っ張って、歩む速度を上げるとえ~、と不満を溢す声を無視する。
「時間ないんじゃよ、まだ急げば間に合う」
「大丈夫だよ」
なにがだ。根拠のない自信に呆れて言い返す気にもなれなかった。
このままのんびりと寄り道をして、終電を逃したくない。タクシーで帰ってもいいが、少し早歩きすれば間に合う時間ではあるのだ。発売されたばかりのコンビニの限定は何も今日明日で逃げはしないのだから、今でなくてもいい。
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