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    pppu___ra

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    pppu___ra

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    零薫/くるしくして
    以前ツイートしたSS
    備忘録

    小さな電子音に呼ばれ、薫が目を覚ますと隣の零の姿は既になかった。時間を確認すると既に昼近くでそろそろ支度しなければ撮影に遅刻しそうな時刻である。
     睡眠時間はしっかりと取れたはずなのにやけに重たい身体を引きずって鏡の前に立つと冷たい水で顔を洗う。ほんの少しだけクリアになった頭でのそのそと冷蔵庫を覗くが、特に腹に入れたいという感情が湧かない。
    「うーーん……」
     なんとなく目についたトマトジュースを折角だから手に取る。普通においしい。トマトジュースを飲んだら満足したのでさっさと支度をした。今日は雑誌の撮影だけだからそんなに時間もかからずに帰宅できるだろう。零も夜は遅くないはずだからなにかおいしいものを作ろうか、と既に夕食のことで頭がいっぱいである。
     着替えを終えて鏡の前に立つと、いつもよりうねる髪のセッティングに戸惑いながら無駄に整っている鏡の自分を見つめる。昨日ぶつけた額は幸いにもたんこぶなどにはなっていないようで一安心した。
    「おはよう」
     鏡のなかの自分が少し気取った表情で妙に低い声で挨拶した。どんな感じだっけ、と思いながら出来心でやってみたがあまりにもキメ顔で朝の挨拶をしてくるものだから笑い声を堪えきれない。涙が出るほどひとしきり笑って時計を見るともう遅い時間で慌てて家を飛び出した。

     撮影は順調に進んだ。自分でも驚くほどうまくいきすぎて少し拍子抜けしたほどだ。
     無事撮影を終えてメイクを落としてもらっているとコットン片手に雑談していた女性のスタッフがもじもじと口を開く。
    「あの、この前の話なんですけど……今日どうですか?」
    「え、っと……なんの話でしたっけ?」
    「ごはんを一緒にどうかなって……この前は用事があるからまた今度って言ってたので」
    「あ、その話ですね……すみません、今日も都合が悪くて……」
    「はい、分かりました……いいんです、お忙しいですもんね、また今度」
     少し眉を下げた彼女に若干の罪悪感を抱きながら、薫はふつふつとなにかが身体の底から湧き出てくるのを感じていた。

     ダンッという大きな音がキッチンを木霊する。かぼちゃは固くて切るのに力がいるから今の薫にはちょうどいい。今日はかぼちゃのニョッキを作るつもりだ。寒い夜にはぴったりだろう。
     作りながらどうしても怒りに燃えている自身を自覚する。また今度ってなんだ。今度?今度があるつもりなのか?俺という存在がありながら?
     本当はトマトソースにするつもりだったが、腹が立つのでクリームソースにした。味見に一口含むと我ながらうまくできている。サラダやスープを用意しているうちに少し落ち着いてきて、まぁ言い分ぐらいは聞いてやってもいいだろう。

     全てを作り終えて、暇だから零の楽しみにしていたワインでも勝手に開けてやろうかな、と考えているとちょうど零が帰ってきた。
     靴を脱いでいる零の前で腕を組んで仁王立ちしていると零が焦ったように口を開いた。
    「か、薫くん……?怒ってるのかえ……?」
    「なんで俺が怒ってると思う?」
    「えと、昨日我輩が置きっぱなしにしていたマフラーで滑ってこけたこと……?」
    「……ちがうよ、今日いたメイクさん!」
    「へ?」
    「今度食事行くってどうゆうこと?」
     薫の言葉にぽかんとした零は首をこてん、と傾ける。心当たりのない様子にむしゃくしゃしてメイクさんの名前を言うと、ようやく合点のいった零は矢継ぎ早に語る。
    「違うんじゃよ、そのメイクさんあまりにもしつこくて……それで仕方なく今度と言ったんじゃ」
    「ふぅん……ほんと?」
    「勿論……!この身に誓って真実じゃ……!」
    「この身って……俺の身体じゃん」
    「じゃからじゃよ……!薫くんに誓って浮気なんぞしておらん!」
     必死な姿にすっかり毒気を抜かれてしまったが本気で疑っていたわけではないし、これが下らない嫉妬であることは分かってはいた。まぁ、仕方がないから俺の身体に免じて許してあげる。

     食事をして、お風呂にも入って、夜の静けさが生む肌寒さから逃れるように二人して急いでベッドに滑り込んだ。
    「薫くん、今日はどうじゃった?うまくいったかえ?」
    「うん、ばっちり。おじいちゃん口調もできたよ。零くんは?」
    「我輩もじゃ」
     まだ温まりきらないひんやりした足先を互いに絡めて、昨日ぶつかりあった額を合わせる。
    「明日には、戻るかな」
    「分からぬ……でもお互いにうまくやっていけそうな気もするんじゃけど薫くんは?」
    「誰に言ってるの?伊達に朔間零の相棒やってないよ」
     くすくす笑いあって自然と唇が重なる。暗くてよく分からないが自分の顔とキスしているなんて変な感じ。
    「いや、だめじゃな。ちゃんと薫くんがいい、違和感がすごい……」
     ぶつぶつと何やら呟いている零にぎゅうと抱きついた。服のサイズも体格も同じだど思っていたがこうして抱きつくとどれだけ違うのかを思い知らされる。
     今日一日なんだか零とずっといるような感覚で、楽しかった。零の香りにずっと包まれているみたいだった。それでも実際に自分の手で触れ合えないことが寂しい。零の腕が力強く薫を抱きしめ返してくれるがそんなものでは足りなかった。彼の馬鹿力だといつもなら少し苦しいぐらいなのに今の彼の力では役不足だ。
     息苦しいぐらいがちょうどいい。羽のように、風のように、漂っていた薫を捕まえたのは彼なのだから責任を取って貰わねば。
     やっぱり、明日にはもとに戻っているといいな。寂しくてどうにかなってしまいそうだ。今は仕方がないからこの身を持ってありったけの力で零を抱きしめる。ぐぇ、と情けない声がしたがそんなものお構いなし。折角の機会だから俺の愛だって苦しいんだって教えてあげる。
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    pppu___ra

    MOURNING零薫/くるしくして
    以前ツイートしたSS
    備忘録
    小さな電子音に呼ばれ、薫が目を覚ますと隣の零の姿は既になかった。時間を確認すると既に昼近くでそろそろ支度しなければ撮影に遅刻しそうな時刻である。
     睡眠時間はしっかりと取れたはずなのにやけに重たい身体を引きずって鏡の前に立つと冷たい水で顔を洗う。ほんの少しだけクリアになった頭でのそのそと冷蔵庫を覗くが、特に腹に入れたいという感情が湧かない。
    「うーーん……」
     なんとなく目についたトマトジュースを折角だから手に取る。普通においしい。トマトジュースを飲んだら満足したのでさっさと支度をした。今日は雑誌の撮影だけだからそんなに時間もかからずに帰宅できるだろう。零も夜は遅くないはずだからなにかおいしいものを作ろうか、と既に夕食のことで頭がいっぱいである。
     着替えを終えて鏡の前に立つと、いつもよりうねる髪のセッティングに戸惑いながら無駄に整っている鏡の自分を見つめる。昨日ぶつけた額は幸いにもたんこぶなどにはなっていないようで一安心した。
    「おはよう」
     鏡のなかの自分が少し気取った表情で妙に低い声で挨拶した。どんな感じだっけ、と思いながら出来心でやってみたがあまりにもキメ顔で朝の挨拶をしてくる 2355

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