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    pppu___ra

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    零薫
    終電アンソロジーの再録です!!

    夜半の夏 夜になってもむわりと熱い空気が頬を撫で、焦燥感を掻き立てられる。差し迫った時間に対して、早く進みたい零を余所に、薫はゆっくりと歩きながら呑気にもコンビニの限定が、だなんて口にする。
    「その限定が俺好みで、おすすめだってアドニスくんに聞いてね、だから」
     指差すコンビニは暗い夜道を煌々と照らし、零たちに反応して手招きするかのように自動扉が開く。零は短く息を吐き、薫の手を取った。ぐずる子供を連れるように引っ張って、歩む速度を上げるとえ~、と不満を溢す声を無視する。
    「時間ないんじゃよ、まだ急げば間に合う」
    「大丈夫だよ」
     なにがだ。根拠のない自信に呆れて言い返す気にもなれなかった。
     このままのんびりと寄り道をして、終電を逃したくない。タクシーで帰ってもいいが、少し早歩きすれば間に合う時間ではあるのだ。発売されたばかりのコンビニの限定は何も今日明日で逃げはしないのだから、今でなくてもいい。
     ほどなくして二人は無事改札を通った。この時間ならまだ余裕がある。薫は諦めたのか、もう駄々をこねるようなことはしなかったが、もの言いたげな視線が痛い。
     ホームに着くと、零たちが乗る電車とは逆方向の最終列車が熱い空気をかき混ぜながら通り過ぎてゆく。
     寮を出て数駅離れた場所にそれぞれ一人暮らしする零たちは、普段からほとんど一緒に帰っていた。ラジオ番組をやっていることもあって遅くなることも多く、それでも今までは間に合うように帰っていたのだ。それなのに、最近の薫は本当におかしい。薫らしく、ない。無事乗り込んだ車内で、拗ねた様子の薫が足をぶらぶらと揺らす。そんな子供染みた態度も、明日のことなど何も考えていない行動も、あまりにも薫らしくなくて。
     薫の行動を咎めたい気持ちもありつつ、結局今日も何も言い出せなかった。先に薫が降りるのを見送り、最後にちらりと送られた視線からはやはり目を反らした。


     段々と薫の行動は分かりやすく、エスカレートしていく。妙に片づけが遅かったり、車で送るというスタッフを断ったり。何がどうして、薫をそこまでさせるのか。そもそも薫がどうして終電を逃したいのかが分からない。そのことについてあまり考えないようにしていることもあり、原因究明には至っていない。
     今日は共演相手に呼び止められ、すっかり遅くなってしまった。ここぞとばかりにのんびりと歩く薫を急かす。時間が刻一刻と迫るなかで信号に引っかかり足踏みをすると、少し後ろを歩いてきた薫からはふふん、と得意げな声がして唇を噛んだ。なんだかここまで来たら負けたくないという対抗心が零に芽生えてくる。薫が終電に乗りたくないのならば、零は意地でも乗りたい。
     普段の歩幅はそんなに狭くないだろ、と悪態をつきたいのを飲み込み、薫の手を引きながらホームまでやってくると、安堵で息を吐く。帽子に眼鏡をしているとはいえ、背格好の良い男二人が、こうして手を繋いで歩いているのだ。目立つ自覚はあるが、こうでもしないと時間内に薫を連れては来られない。さっさと手を放そうとすると、薫からくい、と引かれた。
    「……薫、くん!」
     そちらに引っ張ってもそこには階段しかない。まさかホームに来てまで往生際の悪い薫に零も腕を引く。お互い一歩も譲らない攻防に、こんな人目のある駅のホームで何をしているのだろう、と一瞬我に返った。引っ張り合っていた力を抜くと、薫がよろける。それでも離されない手はお互いの汗できもちわるい。
     見合って、一時休戦。無言。まだ時間はある。零たちの乗る最終列車は来ていない。もう逃すことはできないぞ、と零も真っ向からその居心地の悪い視線を受けて立つ。
     手を繋ぎながら見つめ合う零たちを横目に熱い空気を引き連れて、電車がやって来る。乗りたい電車とは逆方向へ向かうその列車は、最終にも関わらず乗客は多くない。それでも誰ひとりとして漏らさないと言わんばかりに車掌が急かす。少し浮足立つような空気と、無意識に逸る感情、背中を押してくれるような感覚。それに従ってはいけないのに。
     零は気づかれぬように短く息を吐くと、今度こそ手を離した。もうここまで来たのだ。薫が電車に乗らないというなら好きにすればいい。自分だけでも帰ってやる。
     そんな思惑を露も知らず、零を睨みつけるように見ていた薫はふ、と頬を緩めて薄く笑う。疑問を浮かべるよりも早く、再び取られた手を強く引かれ、縺れながら電車に飛び乗った。タイミングよく閉まるドアと、駆け込み乗車はおやめください、のアナウンス。
     呆然とする零に対して、薫は勝ち誇った笑みを浮かべる。なんだか子供が悪戯に成功したかのような表情に力が抜けた。
     このよく分からない攻防において、薫の勝利条件は終電を逃すことにあると思っていたが、逆方向の電車に乗ることでも勝利とされるらしい。確かに次の駅で降りても、もう戻る電車は既にいない。
     ずっと張りつめていた糸がぷつん、と切れた気がする。逃げ回って、気づかないふりをして、必死に抗ってきたのに。
     ああ、俺は負けたんだ。この下らない勝負は終わってしまった。

     もう、逃げられない。





    「すき。零くんが、すき」
     じりじりとけたたましい音を鳴らして、最後通告のベルが急かす。その音に背中を押され、いつの間にか唇からこぼれていた言葉。
     ドクドクと心臓が暴れ回って、握りしめた拳を汗まみれにしながら、嫌に大きな音を立ててごくりと唾を飲み込んだ。いつか、いつか言いたいとは思っていた。こんなタイミングではなく、もっとムードがあって、素敵な場所で。それでも口から出てしまったのだ。もう戻せない。どうせ結果は分かり切っているのにそれでもうるさい心臓を必死に宥める。
    「……ごめん」
     ちいさく、呟かれた言葉。ベルの音に紛れて消えてしまいそうなほどちいさな声なのに聞き取ってしまった。呆然とする薫を余所に零は背を向けて電車に乗り込む。
     その背中を見つめながら、もし、もしここで電車に乗らなかったら、なんてことを考え始める。まだ、話せる。夜は長い。家という終着点に着かなければいくらでもやりようがあるのに。立ちすくむ薫を車掌が急かすように何度も最終列車です、と告げた。
     結局、どうすることもできずに重苦しい空気の中、零と肩を並べて最終列車に揺られる。
     そんな風に見たことないって言われた。平然とした声で、何とも思っていないような声で。零が薫のことを好きなことぐらい、これだけずっと一緒にいれば分かる。絶対零だって好きなくせに。声は落ち着いているのに泣き出しそうな顔に納得できるわけがなかった。
     なんだか無性に泣き出してしまいそうなほど、悔しい。まだこの男はそんな下らないものに縛られているんだって。男同士だとか、アイドルだとか。確かに何も影響がないわけではない。それでも俺たちの、UNDEADのファンにそんなことで着いて来れなくなる人なんていないと思っている。零はきっと自分の気持ちより、世間体とか周りへの影響で頭がいっぱいなのだろう。それが悪いことだとは思わないが、それよりも自分の幸福を優先して欲しい。自分の気持ちに蓋をしてまで、大事にするものなんてない。だって、俺たちは何も悪いことをしていないのだから。それにあんな顔をしておきながら、はい、そうですか、と引き下がれるわけがない。
     零がその気なら分からせてやる。きちんと自覚させてやる。無意識のことではあったが、このタイミングで告白してしまったのも何かの縁だ。忙しい二人にまとまった時間がないのなら無理矢理にでも作ればいい。終電にさえ乗らなければ嫌でも時間はできる。一晩かけて腹を割って話そう。
     絶対にすき、と言わせてやる。そう、決意した。


     随分と時間がかかってしまったな、とあのふられた夜のことを思い出していた。なんたってこの男、薫がどんなにあの手この手で終電を逃がそうとしても必ず間に合わせてしまうのだ。しかし、一瞬の油断が命取りとなる。まさか零も反対方向の電車に乗るとは思っていなかっただろう。咄嗟の行動ではあったが、結果的に逃げられない状況にできればいい。たとえタクシーという手段があったとしても、ここ最近これだけ終電に固執してきたのだ。流石の零も諦めがついたようで薫の肩に頭を預けたまま、黙りこくっている。
     普段から乗客が少ない印象であった列車は本当に少なく、この車両には零と薫しかいない。見事勝利を収めた薫の気分は晴れやかであった。これでもう歯がゆい思いをしなくて済むかと思えば、笑みすらこぼれる。
    「なに笑っておる」
    「ん~別に」
     拗ねた子供のような声音に本当のことを言っても更に機嫌を損ねるだけだろう。生返事をすると、お気に召さなかったようでぐりぐりと肩に頭を擦りつける。
     そろそろ、いいだろうか。もう諦めてくれただろうか。
    「ねぇ」
     いい加減素直になってほしい。世界はきっと零が思うより単純だ。
    「俺のことすき?」
     口に出してからなんだかめんどくさい女の子みたいだな、と思った。何度も言われたことのあるこの台詞は、当時の薫には全く理解できなくて、束縛されているようで居心地が悪かった。しかし、今なら分かる。分かっているけれど不安で、言葉にして欲しくて。ままならない感情がこの台詞には詰まっている。
     長く続く沈黙を根気強く待つ。答えなど分かりきっている。あとは素直になればいいだけ。もし、まだ認めないというなら時間はたっぷりある。何度でも好きだと伝えて、説得して認めさせてやる。
    「…………うん」
     電車の音に紛れるちいさな声。聞きもらしそうになったその答えは赤く染まった耳朶が証明している。早鐘を打っていた心臓は少しずつ鳴りを潜め、代わりに胸の中心から熱がじんわりと身体を巡っていく。今まで付き合った女の子たちに抱いた感情とは全く違う、むずがゆいような感覚が薫を支配する。ああ、これが恋なんだって、この歳になってやっと思い知った。
    「これ、どこまで行くんじゃ?」
    「終点。近くに海があるから行こうよ」
     咄嗟に飛び乗った電車だが、どうせなら終点まで行って海に行きたい。零を説得するにも波の音を聞きながらだなんて、シチュエーションもばっちりだと考えていた。説得する必要はなくなっても、恋人になりたての二人の向かう先として申し分ないだろう。折角本来の終電を逃がしたのだ、早く降りてビジネスホテルに向かうだなんてつまらない選択肢は薫になかった。
    「我輩吸血鬼じゃから水は苦手じゃ」
    「大丈夫、俺がいるよ。それに吸血鬼でも夜なら平気」
    「なんじゃそれ」
     肩に乗った零の頭がくすくすという笑い声と共に揺れる。指を絡めて、頬を寄せ合って、触れる毛先がなんともくすぐったい。人目がないからってやりたい放題だった。
    「薫、くん。責任、取って、くれるかえ」
     確かめるようにゆっくりと吐き出された言葉。責任。なんのだろう。思い当たるところが多すぎる。
    「いいよ」
     望むところだ。零の台詞もなかなかにめんどくさい女の子ようで、お互いの重さがなんとも愉快だった。
     零が更に顔を近づけてゼロ距離になり、ふに、と唇に柔らかく触れた。その感触を楽しむように下唇を何度も食まれる。
    「我輩きっと嫌な奴じゃよ。重くて、めんどくさくて、鬱陶しい。それの責任って分かっておるのかえ」
     この期に及んでしつこい。こちらはとっくにその覚悟ができている。重くても、めんどくさくても、鬱陶しくても構わないが、薫の気持ちを疑うのはいただけない。しかし、不安なら何度だって教えてあげよう。
    「うん」
     迷子の子供のように不安げに瞳を揺らす零に微笑みかける。未だ至近距離にあった形の良い唇をぺろりと舐め上げると、見開いた瞳がなんだか間抜けで愛おしい。
    「零くんこそ、俺のこと勘違いしてない?ここまで執着したのなんて零くんが初めてだよ」
     ずっと、ずっと、ふたりでどこかに行ってしまいたかった。少しでいいからふたりきりでこの男のめんどくさい殻を破ってやりたかった。何も仕事が嫌になったわけではない。ただ普段の忙しない生活から少し離れてゆっくりと話したかっただけだ。きっと、そこで初めて曝け出せるものがある。
     小さく喜色を滲ませた声がうん、と頷く。再び薫の肩に乗った頭が子供のようにぐりぐりと押し付けられて、その重みが心地よかった。応えるように握り合った手に力を入れ、ぎゅ、と返されるものは力強い。
     ふたりのちいさな逃避行を応援するように、列車はカタンコトンと揺れながら夜を駆けてゆく。
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    Replies from the creator

    pppu___ra

    MOURNING零薫/くるしくして
    以前ツイートしたSS
    備忘録
    小さな電子音に呼ばれ、薫が目を覚ますと隣の零の姿は既になかった。時間を確認すると既に昼近くでそろそろ支度しなければ撮影に遅刻しそうな時刻である。
     睡眠時間はしっかりと取れたはずなのにやけに重たい身体を引きずって鏡の前に立つと冷たい水で顔を洗う。ほんの少しだけクリアになった頭でのそのそと冷蔵庫を覗くが、特に腹に入れたいという感情が湧かない。
    「うーーん……」
     なんとなく目についたトマトジュースを折角だから手に取る。普通においしい。トマトジュースを飲んだら満足したのでさっさと支度をした。今日は雑誌の撮影だけだからそんなに時間もかからずに帰宅できるだろう。零も夜は遅くないはずだからなにかおいしいものを作ろうか、と既に夕食のことで頭がいっぱいである。
     着替えを終えて鏡の前に立つと、いつもよりうねる髪のセッティングに戸惑いながら無駄に整っている鏡の自分を見つめる。昨日ぶつけた額は幸いにもたんこぶなどにはなっていないようで一安心した。
    「おはよう」
     鏡のなかの自分が少し気取った表情で妙に低い声で挨拶した。どんな感じだっけ、と思いながら出来心でやってみたがあまりにもキメ顔で朝の挨拶をしてくる 2355

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