鼻歌を歌いながらルカが帰ってきた時、僕はちょうどうとうとしかけていたところだった。なんとなく目を開けるのも億劫で、ルカの動向を気配で感じていた。
リビングの扉が開いて、ただいま、と明るい声が響く。と、同時に僕がソファで寝こけているのを見つけたのか、おっと、と小さな声が聞こえた。
足音が突然小さくなる。何をするにもうるさい大男が、僕のために小さく小さく動いているのを想像すると、それだけで面白くて、うっかり笑ってしまいそう。
荷物か何かをダイニングチェアに置いたらしいルカは、また足音を立てないようにこちらへ向かってきた。
おかえり、って声をかけるか一瞬迷ったけれど、やっぱり狸寝入りをすることにした。ルカが寝ている僕に一体どんな悪戯をするのか気になったから。
ルカはソファの隣に座って、じっと僕の顔を見る。そんなに見られたら照れるんだけどってくらい、至近距離で、ずぅっと。悪戯を考えているのかな?顔に落書きする?突然くすぐる?いや、きっとルカの頭の中には、僕なんかには思いつかない突飛な悪戯が思いついているんだろう。
楽しみ半分、恐怖半分でじっとルカの次の一手を待つ。唇も、制御するのが大変だ。
「………しゅう?」
「………」
「んん、…オーケー」
顔にかかっていた髪を、ルカが指で耳に掛け直してくれる。耳元で大声を出す?ルカは子供っぽいところがあるから、ベタだけど逆にありえるかも。
ルカは少し腰を上げて、僕の耳元へ近づいてくる。
くるぞ、くるぞ。爆音に備えて…と言っても何もできないので、心だけは爆音への備えをして。
は、とルカが息を吸う。僕は身体が緊張する。
「………っ」
「…愛してるよ、シュウ」
「う、ええっ?!」
耳元で囁かれた予想もしていなかった言葉に、思わず飛び上がる。目の前にはニヤニヤ顔のルカ。悪戯が成功して、嬉しくて仕方ないんだろう。
「あはははは!あはは、ははは!シュウ、顔真っ赤!」
「もう、もう、…っ!るぅかぁ!」
「あははは!」
大爆笑の彼は、僕に怒られないように走って距離を取った。その姿からは、さっきの『愛してるよ』なんてとても繋がらない。…ああもうほんとに、ずるい子。