電光掲示板「あっ――」
突然、腕から離れ走り出した恋人を掴むことが出来なかった。ふらふらした足取りで道端の植え込みに刺さっていた掲示板のガラスに手を付いた。中に嵌め込まれたライトがほんのりと温かく、冬の寒さにはちょうどいい。夜も更けた暗闇の中で、その掲示板は一際輝いているように見えた。
「はあぁ~、いい男ぴょ~ん」
「あー、もう深津さん。嬉しいけどさ、そういうのは素面のときに言ってくださいよ」
「バカのくせに証券会社の顔やってるの笑えるぴょ~ん」
「お、怒りますよ」
『Dunk in your Life』なんていうキャッチフレーズで沢北は少し前から大手証券会社の宣伝タレントとして起用された。当然、自分はそういう類のものはやらないと伝えたが、先方はそれでもいいと言うので沢北はスーツを着て片手にバスケットボールを持ち写真を撮った。今はその宣伝パネルは全国各地、公共交通機関からコマーシャル、道端でも見られる程に普及している。
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