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    kisa1605

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    ぶぜまつ

    Snogged lips仕事帰り、偶然通りがかったデパートの化粧品売り場。様々な香りが入り混じる独特のそこはいつだって女性たちの憧れの場だ。自分は化粧品に全く詳しくないが、きらきらとしたコスメが並ぶ光景は壮観で眺めているだけで感心してしまう。どうやらどこのブランドでも季節柄の限定商品が売り出されているようで、華やかさもひとしおだった。
    思わずきょろきょろとあたりを見渡していると、どこか見覚えのあるブランドロゴが目に入る。
    たしか、あれは――そう、松井お気に入りの店だったはずだ。近づいてみれば、確かに彼がよく使用しているマニキュア――正式にはネイルポリッシュというらしい、が並べられてあった。同棲している恋人である松井の爪を塗り直してやることは、いつからか週末の大事な仕事となっている。こういうものに疎い自分の記憶にも残っていたのはそのためだろう。
    今日は休日で家にいるはずの恋人のことを考えていると、ふと一本の口紅に目が吸い寄せられる。
    ――まつに、似合いそうだな……
    気づいたときには自分の手にはラッピングされた商品が入れられたブランドの紙袋があって、崩さないように細心の注意を払いながら鞄の中へそっとしまい込んだ。


    (あー、どうすんだ、これ………)

    無事に帰宅したはいいものの、鞄の中に入っているアレをどうしたらいいのかがわからない。ラッピングまでしてもらったのだから渡すしかないのだが、なんと言って渡したらいいのだろうか。松井は恋人の贔屓目を抜いても綺麗な顔立ちをしていると思うが、れっきとした男性である。店舗のカウンターにたまに足を運んでいることも知っているが、ポリッシュ以外の化粧品を購入したり、使用しているところは見たことがなかった。似合いそうだと思って衝動的に買ってきてしまったはいいが、突然口紅を渡して困惑されないだろうか。いや、本当はわかっている。松井はきっとどんなものでも受け取ってくれるし、大切にしてくれるだろう。これはただ自分の勇気が足りないだけだ。同棲を始めたときに買った、揃いの指輪にちらりと視線を向ける。シンプルなそれはきらりと輝き、勇気を与えてくれた。


    「豊前、なにか言いたいことがあるようだけれど……どうしたんだ?」
    自然にしていたつもりだが、どうやら松井は俺の落ち着かない様子に気づいていたらしい。ここまできたらあとには引けない。一つ深呼吸をして、ぐっと覚悟を決める。

    「あのさ、これ、受け取ってくれないか」
    「うん?ありがとう」

    突然差し出された包みを松井が首を傾げながら受け取る。彼の反応が気になってどうしても落ち着くことができなくて、思わず床に正座をしてその先を待った。フローリングの固い床にじわじわと脚が蝕まれていく。

    「これは……口紅?」

    きょとんとした声が耳に痛い。緊張しながら松井を見守っていると碧に彩られた細くたおやかな指先が口紅に添えられ、薄く美しい唇にするりとそれを滑らせていく。伏し目がちになって長さが強調された睫毛とだんだんと染められていく唇が色っぽくて、瞬きを忘れるほどにじっと様子を見つめてしまう。

    「どうかな……?」

    どこか照れた様子で松井がこちらを覗き込んでくる。ただ口紅を塗っただけのはずなのに、どこかいつもと違う雰囲気を纏った恋人に心臓が早鐘を打っていく。
    照れの入ったあどけない表情と放たれる色気がアンバランスで、気づいたときには色づいたそこに誘われるように自らのそれを重ねていた。ただ重ねるだけでは収まらなくて、薄く開かれた隙間から舌を差し込んで深く絡ませていく。漏れる吐息に体温が沸騰し、全身の血が巡っていくのがわかる。そのまま舌を絡ませ合い、しばらく堪能をする。お互いに息が上がってきたのを感じて名残惜しく唇を離すと、つぅ、と二人の間を銀糸が伝った。

    「んっ……、フフ、熱烈だね……」
    「わり、ちっと抑えきれんかった」
    「あぁ、豊前も血の巡りが良くなっているよ……頬が真っ赤だ」
    「改めて指摘されると恥ずいちゃ………」

    松井からの指摘にさらに頬に熱が集まっていくのがわかって落ち着かない。事実なので否定しようもないが、「口紅を塗った松井に興奮しました」と言っているようで恥ずかしい。
    きゃらきゃらと上機嫌に声をあげて笑う松井は可愛らしくて、でもその口元の紅は先程までの行為を示すかのように乱れていて。あまりの生々しさに思わず目を逸らしつつ、ゴクリと生唾を飲み込むのだった。
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