神様のおかげなんかじゃない 僕は欲張りだろうか。
あなたのことをひとつ知ればまたひとつ。どんどんあなたのことが知りたくなる。もっと知りたい。そしてもっとあなたが欲しい。
僕は今でも充分幸せなんです。でも、もっとあなたのことが知りたいし、もっとあなたのことを欲しがってしまう。
何度抱きしめても、何度身体を重ねても、それは飽きることなんてなくて、底の見えない深海のようだった。
もっともっとあなたの全てが欲しくなる。心の奥まで、あなたの未来も未来を越えたその先も全部欲しい。
あなたと出逢えたことあなたと過ごせた日々、あなたのことで笑ったり悩んだことも全部全部血肉となって僕の身体を構成している。
それは奇跡! 運命! だと思えた。神様がいるのであれば、あなたと出逢えたことを僕は感謝したい。神様のおかげだと。
――そうじゃない。
よく考えてみれば、あなたを見つけたのは僕自身だ。僕の師匠。あなたは僕だけのモノ。
これは運命でもなんでもない、僕自身が僕の手で掴みとったモノ。誰のおかげでもない。神様のおかげなんかじゃない。
誰にも邪魔はさせないし、邪魔をする者は許さない。もう僕はあなたから離れることはできないのだから。
もし、あなたが僕から離れたいと言った時、僕はあなたのその手を離すことができるだろうか。
あのときの自問自答を僕は思い出していた。答えは目の前にある。
「モブ、ごめんな……」
それがこの人の口癖だった。こんなことをしても、なお、この人は、僕に繰り返しそう言った。
「俺が悪い、俺がお前をこうしてしまった」
「お前は悪くない、俺が悪いんだ」
酷いことをしているのは、僕なのに、あなたはいつもそうなんだ。あなたはそういう人なんだ。かわいくて、かわいそうな師匠。
「師匠が、僕から離れようとしたからいけないんですよ」
そう口にすれば、あなたの目は恐怖の色を濃くする。
あぁまた怖がらせてしまったなぁ。あぁかわいそう。
でも仕方がないんです。元はと言えば、あなたのせい。僕をこんなにしたのはあなた自身なんだから。
もう絶対にあなたのことを離さない。もうあなたが二度と僕から離れることができないように。
それを確認する度、僕は笑顔を滲ませた。
おわり