爪先の紅 眠りの中を漂っていた。静かで安らかな泥のような眠り。
そろりと意識が浮上して横を見ると、隣の男が月明かりに照らされながら身を起こすところだった。
何も身に着けない素肌に白いシーツが撓んで優雅なドレープを作る。どこか硬質な印象を受ける村雨の身体に当たる光として、怜悧な月光はこれ以上ないほど相応しい。未だ夢の中の心地の獅子神であったが、村雨もまた普段よりは些か茫洋とした目つきで寝室の壁を向いていた。
こちらに目を向けないまま村雨は言う。
「あのクローゼットの右奥にある小さな箱はあなたのものか」
クローゼットの扉は閉まっていて何について話しているのか、獅子神に思い当たるものはなく黙って首を横に振った。
「持ってきてもいいか」
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