こどくのたたかい1本心から望んだ訳ではなかった。
けれど、大切な友達が大切な人を失って、独りになってしまうかもしれない。そう考えてしまって---実際に、孤独になってしまったのは自分だった。
何処から出た話かも分からない。私が思い出話を唯一打ち明けていた人は亡くなってしまった。もしかしたら彼からミリーナに話した可能性も考えたけど、あり得ないと首を横に振った。
『もしかしたら』を考え出せばキリがない。敵国のスパイ疑惑が国王から言い渡された以上、最前線に送られることは先ず間違いないのだろうから。
戦いが怖い訳じゃない。戦いなんて、それこそお世話になっていた島が敵国に襲撃されたあの日の時点で怖がっていたら殺されてしまっていた。
---私も、彼らの目標の内の一人である銀の髪だったのだから。
自らを鏡と【化える】魔鏡術は、彼との約束で矢鱈と使わないで欲しい、と、私が私でいて欲しいという約束を守って極力使わないように術使いとしての戦い方を学んできた私にとって、近づいてきて武器を振り上げてくる多数の敵国の者達に対して情けなど感じはしなかった。
敵国と呼ぶ国に対して過ごした思い出もあった。けれどあの時は戦わなければ殺されていた。また会いたい、と心の中でだけ願う人たちにまた会うためにも、私は生き残らなければならなかった。
それが、人間ではない『物』という認識を広めてしまう引き金になってしまっていたとしても。
---私にとって戦争とは、既にここから始まっており、地続きに味方と思っていた国に対してさえ安息を望めない孤独の日々の毎日だった。
「ご安心下さい。キリカ様はカーリャが必ずお守りします!」
「…ありがとう、カーリャ」
大きくなったカーリャが力強く激励してくれている。今や私の頼みの綱は、唯一私が敵国のスパイではないと庇ってくれているミリーナ只一人だけなのだ。
彼女の信頼を私は、裏切るわけにはいかない。
行かなければ。望んでいなかろうと、疑惑を晴らしたければ戦果を上げよという、アテにならない国王の言葉を頭の片隅に置きながら。
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鏡士の基本的な原理は【具現化】だ。つまり生み出す事こそ本分であることがうかがい知れる。
世界で私だけが、【生み出す】のではなく【作り変える】という異端の魔鏡術を行使している。アニマの浪費一つとっても、生み出す魔鏡術とは毛色が違いすぎた。
---故に、生み出す破壊力も全く変わってくるのだ。自らを鏡と【化える】のは、生み出される破壊力に人間の精神では反動に耐えきれない。【鏡化】ありきの魔鏡術なのだ---【変換の魔鏡術】というものは。
叶うなら。…叶うなら、記憶に残る友人達に会わなければ。否…もう10年ほど経とうとしているのだ。向こうも成長しているはず。私に気付くなんて、そんなことが起きるはずがないだろう。
眼前に広がる『敵国の兵士』その大群。術士故か、私の傍にはカーリャが控える。ミリーナの心遣いを、無為にするわけにはいかない。
思い出されようとしていた過去を振り払って眼前を見据えた。数は圧倒的に不利なのに、国のためにと義勇兵を募ったとも聞いていたから、一般兵と異なる装いの人がいても別段珍しくもないが。
『私とも約束してちょうだい、キリカ。魔鏡術は極力使わないって。』
『ミリーナ…』
『キリカがキリカでなくなってしまうのは、私も嫌だわ。』
ここに来る前、ミリーナとそう約束した。けれど、ここはもう戦場だ。
そして、私にはミリーナとカーリャ以外に信用出来る人がいないのだ。同じ陣地の人ですら怖くて仕方がない。
戦うこと以上に、人の皮を被ったものが恐ろしく感じてどうしようもなかった。
~~~続く~~~